運動要因による3次元視


1.運動視差とステレオキネティク効果(stereokinetic effect,SKE)との関係
いま,円錐の頂点が観察者の手前に視線軸(z軸)と一致するように置かれ,同時にy軸(垂直軸)を中心として回転するものとする.このときの回転にともなう運動要素を分解すると(Proffitt et al.1992),ひとつは,円錐の頂点が投影面で対象の回転にともなってどの程度の距離を動いたかについての運動要素(第1運動要素,図1-a,ここでは円錐の断面が示され,z軸が視線軸に一致する)である.他は,視かけの回転角度に関わる運動要素(第2運動要素,図1-b)で,これは対象基底面の長さが回転にともなってどの程度縮小されるかで示される.図1-aより,円錐頂点がθ度回転したとき,その回転分に伴って生じる投影面上(P)での変位距離(e)は,e=dsin(θ)で表される.したがって,対象の相対的奥行(d)は,d=e/sin(θ)となるが,これだけでは視かけの回転角度がわからないので,この式からだけでは対象の相対的奥行(頂点から底面までの距離)を知ることはできない.対象の視かけの回転角度は,円錐底面の長さ(r)の回転に伴う長さ変化から知ることができる.回転にともなう底面の長さ変化(f)は,f=rcos(θ)となる.幾何学上では,対象の奥行は対象の基底面の回転にともなう長さ変化(回転に伴う基底面の長さの縮小程度)から導かれる.運動視差事態では,第1運動要素と第2運動要素が存在するが,SKE事態では,第2運動要素は存在しない.
さらに,別の角度から運動視差とSKEとを比較すると,運動視差は観察者の運動によって誘導される奥行位置の異なる対象の角速度と観察者の運動速度とが網膜上で合成されたものと理解できる(図2).すなわち,運動視差は,対象−中心の速度変化と観察者−中心の速度変化の合成である.一方,SKEでは,観察者−中心の速度変化は存在しないので,対象−中心の速度変化のみで示される.対象−中心の速度変化は,先の第1運動要素に該当する.また,運動視差事態では,対象が観察者の運動に伴って左右方向にシフトするので,観察者と対象とのなす角度を直接知ることができるので,対象がz軸を中心として回転する事態において必要とされた第2運動要素に該当するものは,対象の相対的奥行を知る上で必要とされない. 運動視差とSKE事態では,実際には,対象の相対的奥行はどのように知覚されているかが,Caudek & Proffitt(6)によって,運動視差事態とSKE事態とを同一のパターンでシミュレートすることを通して実験的に吟味された.パターンは,水平におかれたくさび型で,対象−中心の速度変化と観察者−中心の速度変化が加えられた.観察者−中心の速度変化を起こすには,観察者を運動させる場合とディスプレイを観察者が移動するように動かし,同時にディスプレイ内のドットもそれに随伴して変化させる場合の2通りがある.また,観察者も静止して観察する場合と運動して観察する場合の2通りがある.ディスプレイ要因が2通り,観察者要因が2通りあるので,総計4種類の刺激条件で運動視差とSKEが設定されることになる(図3).視かけの相対的奥行が,この4種類のシミュレーション条件下で,くさび型の奥行を変化させて(これは,くさび型の横幅に対する奥行の比率を操作することで変えられた)測定された.その結果,「奥行/横幅」比の増大にともなって視かけの奥行も直線的に増大したが,この関係には運動視差とSKE間で差がなく,直線の勾配は同一であった.このことは,視かけの奥行が対象−中心の速度変化のみで規定されていることを示す.対象−中心の速度変化のみでは,その絶対量は理論的には確定できないので,視覚システムはある特有の推定(Perceptual hueristic)を行うと考えられる.それには対象の投影されたときの大きさ要因が関係し,事実,対象の大きさを拡大すると,それに比例して視かけの奥行も増大した.視覚システムは,対象の横幅が大きいと対象の相対的奥行も深いとする知覚的仮説を立て,対象−中心の速度変化と合わせて,対象の視かけの相対的奥行を算定すると,Caudekらは考えている.

図1 図2 図3


2.3次元表示へのステレオキネティク効果の応用
コンピュータ・グラフィックス(CG)技術は,CRT上に対象の形状,その形状の変化,対象の運動などを表示可能にし,さらには,対象の3次元形状をも表示可能とするまでに発展しつつある.3次元形状を表示するためには,何らかの方法で,各眼に網膜視差をもつ刺激を別々に入力してやらねばならない.しかし,これには比較的大がかりな装置とコストが,とくに対象が運動する条件では,必要となる.もし,ステレオキネティク効果(SKE)を利用することができれば,3次元形状を比較的簡単なソフトプログラムで再現できる.  
Kaiser(14)は,前述したCaudek & Proffitt(6)にもとづいて,SKE要因のみで,すなわち対象−中心の速度変化である第1運動要素のみでの3次元形状の表示を試みた.3次元表示が可能になると便利なものに,等高線地図がある.これは,航空機の操縦に際しても,地形から飛行経路確認のために利用されている.等高線地図は,輪郭線の勾配を変えることによって地形の高度を表示するが,高速で飛行する機上から,この地図と眼下の地形を照合するのには,相当の習熟を必要とする.しかしもし,地形の高度を3次元表示できれば,この種の照合は容易となる.そこで,図4に示されたように,地形の示す輪郭は変えないまま,地形の高度に対応して輪郭線をx軸とy軸方向に周期的に振動させるプログラムが開発された(表1).ただ,運動残像がおきるので,振動時間と休止とを適当に組み合わせる必要がある.さらに,航空管制での航空機の飛行高度の変化の表示への応用も試みられた.航空管制で必要なことは,飛来する複数の航空機に飛行高度の指示を与え,その結果,航空機が高度を変えたとき,変える以前の飛行高度と変化後の飛行高度の両方を飛行方向とともに表示されることが望ましい.これまでは,飛行方向の表示のみで飛行高度は表示されていない.そこで,図5に示されたように,はしご(梯子)形状のアイコンを考案し,はしごの両サイドで現在の飛行位置と次の飛行位置を,はしごの横木で飛行高度を表示した.そして,飛行高度の3次元表示は,はしごの横木を,最下段を除き,高度に対応して振動させる方法で行われた.  SKEを利用した3次元CGは,プログラムが簡単で,しかも他の方法と同程度の3次元表示が可能である点で優れている.

図4 図5


3.トランスレイションとローテイションからの3次元形状の復元 観察者が動いたりあるいは対象が移動すると,網膜上に投影された対象の運動速度勾配ができる.観察者が対象を頭部を左右に振りながら観察するとき,観察者と3次元対象のある部位までの距離に対応して網膜角速度が変わる.観察者と対象のある部位まで距離が大きいと網膜角速度は小さくなり,逆に距離が小さいとそれは大きくなる.これは極投影下でのトランスレイション(translation)と呼ばれ,観察者中心座標での3次元情報となる.一方,対象を頭部をシフトさせながら観察するとき,対象のy軸に関して速度勾配ができる.対象のある部位がy軸より遠い場合には,網膜角速度が速くなり,逆にy軸に近い場合には,遅い角速度となる.これは平行投影下でのローテイション(rotation)と呼ばれ,対象中心座標での3次元情報となる.        Braunstein,Liter & Tittle(2)は,図6のようなパターンをCRT上にシミュレートし,極投影下でのトランスレイションからの3次元形状の復元と平行投影下でのローテイションからのそれとがどのように異なるかをしらべた.その結果,(1)平行投影下でのローテイション事態でも,極投影下でのトランスレイション事態と同様に,網膜角速度が速い部分は観察者の手前に定位されて視えること,(2)網膜角速度が速い方が手前に定位される関係は,両投影条件とも,速度勾配が小さい方が顕著であること,(3)シミュレートされたくさび型の角度を測定すると,平行投影条件では過小視が,極投影条件では過大視が起きることなどが示された.網膜上での速度勾配は,知覚的には,極投影下でのトランスレイションおよび平行投影下でのローテイションの両方の視点,すなわち,観察者中心座標と対象中心座標の両方から得られた情報として処理されるている.

図6


4.運動視差と立体面の出現方向(depth order)
 運動視差による立体出現は,観察者が運動しながら静止した対象を観察する条件,あるいは観察者が静止したままCDTに提示された運動する対象を観察する条件の両方で可能である.しかし,観察者が静止した条件では,立体面の奥行出現方向が安定せず,奥行の反転が起こる.これは観察者が静止しているので,その前庭感覚あるいは自己受容感覚が働かないためか,あるいは遠近性,肌理勾配などの付加的なオプティカル・フローが存在しないためである.Rogers & Roge-rs(25)は,図7に示された観察条件で奥行反転を抑制する要因をしらべた.図中,(a)では,観察者,観察者とCRTを結ぶ空間(還元トンネルで,トンネル状に上下左右が囲まれている),およびCRTは静止した条件で,CRTに提示されたランダム・ドットがサイン波状に左右に自動的にシフトする.(b)観察者が頭部をシフトさせると,それに連動してパースペクティブ要因が出現しないように還元トンネルとCRTが動く.CRT上のランダム・ドットは観察者の運動に連動しシフトする.ここでは観察者の前庭,自己受容感覚のみが分離されている.(c) CRTのみをシフトさせ,その動きに連動してパターンのパースペクティブを変形させ,これが手がかりとなるように操作する.還元トンネルと観察者は動かさない.(d)CRT,還元トンネル,観察者は静止させたまま,パターンの上下を拡大/縮小して垂直方向のパースペクティブを与える.(e)(d)と同様に,垂直方向のパースペクティブと連動して水平方向の線分の太さを変えることによってパースペクティブを与える.(f)還元トンネル内の壁に不規則な白と黒の模様を描き,これを左右にシフトする.CRTと観察者は静止したままである.ここでは,観察者からCRTまでの空間のオプティカル・フローが手がかりを与える.観察の結果,観察者の前庭・自己受容的要因,パースペクティブ要因とも奥行反転を減らし,奥行出現方向に安定をもたらすことが示された.

図7


5.運動性奥行効果(KDE)と剛体性拘束条件
 計算機科学の視点から運動性奥行効果を考えるとき,対象の2次元上での運動からは無数の3次元対象が復元可能である.これを解決するには,知覚された対象は剛体性をもつという拘束条件を仮定する必要がある.しかし,2次元面の運動が,視かけ上,伸びたり,曲がったりしながら運動する生物のように知覚される例が挙げられ(Johansson 1975, Todd 1982 1984),この拘束条件が人間の知覚過程には必ずしも妥当しないとも指摘される.Ganis,Casco & Roncato(9)は,2次元面の運動から非剛体的な3次元対象が知覚される可能性について,図8のような8個のドットを垂直軸を中心に回転して視えるように提示し,このとき,8個のドットの長さが,視かけ上 ,回転中に伸びるように操作して非剛体性を導入した.観察の結果,非剛体的知覚は,対象に導入した非剛体性によるのではなく,フェーズ(ドットが1フレーム分シフトしたときの回転角度)に依存して変わること(半径が小さいと非剛体的に視える)が示された.これは,フェーズが小さいと2つのドット間に強い知覚的結合ができてしまい,これが剛体性をもつ対象の出現を妨げるためと考えられる.2次元面で運動する対象の長さと運動方向が変化しないときには,KDEは生起しにくい.ノイズを背景として予め決められた2個のドット(回転するように2次元面で運動する)の検出率をしらべてみると,フェーズが小さいときに検出率が高いことが示された.これらのことから,KDEでは,複数のドット間に仮想的なまとまりができてしまうと,剛体的な3次元対象の出現が妨げられると思われる.

図8


6.運動性奥行効果(KDE)と光学的不変項
 KDEは光学的に変形するものの中から不変項を視覚システムが抽出した結果として生じるもので,これは運動対象での形の恒常性であると,Gibson,J.(1979)は考えた.光学的不変項とは,例えば,あるスライドを斜めに投影してもまっすぐな壁に投影したものと同一の内容が保存されるが,このような投影に際し,その角度,大きさ,あるいは回転などによっても光学的に変わらない特徴をいう.このような不変項は,光学では,クロス比?(cross ratio)で表すことができる.クロス比の計算は,図9に示されいる.図中,A,B,C,Dは4辺形の頂点を¢は座標軸の原点(0,0)を示す.クロス比は,この4辺形の場合,3角形AD¢の面積と3角形BC¢の面積の積を3角形AB¢の面積と3角形CD¢の面積の積で除して得られる. KDEでの形の知覚が,はたして,光学的不変項にもとづいているか否かについて,このクロス比との関連で検討された.もし,視覚システムが不変項を抽出していれば,KDE条件で提示された図形のクロス比と,それと知覚的に等価とされた図形のそれとは一致すると考えられる.Niall(20)は,図10に示されたように,4辺形を奥行方向に回転してKDEをつくり,そこに出現した形を,比較刺激として提示した4辺形の1頂点を操作させて再現させた.比較刺激は静止条件と回転条件の2通りで提示される.再現された形のクロス比を計算し,これをKDE条件で使用した4辺形のそれと比較したところ,一致しないことが明らかにされた.面図形の他に立体図形(3角錐体)でも同様な結果であった.これらの結果は,視覚システムは,KDEにおいて,形についての不変項を直接的には検出していないことを示唆する.

図9 図10


7.オプティカル・フローと自己移動錯覚
 視野が視線に平行あるいは直角に移動するとき,観察者は自分が反対方向に動くような錯覚をもつ.これは自己移動錯覚と呼ばれる.これまでの研究によれば,視野の周辺領域の運動刺激は自己移動錯覚を起こし,視野の中心領域の運動刺激は対象の運動として知覚されるという(Brandt et al.1973, Johansson 1977).これに対して,視野の中心領域での運動刺激でも,それが奥行的により遠い面上を運動するのであれば,自己移動錯覚を起こすことができる(Andersen & Braunstein1985,Ohmi & Howard 1988).  視野の中心領域での運動刺激が自己移動錯覚を起こすか否かについて,とくに,運動視差と運動性オクルージョン要因によって視野に奥行印象を誘導したときの自己移動錯覚がTelford, Sparatley & Frost(26)によって検討された.その結果,(1)中心領域が後面にあるように知覚された場合には,それが前面に視える場合に較べてより強い自己移動錯覚が生起する,(2)中心領域がより周辺視野に移すと,自己移動錯覚は減少する,(3)中心領域と周辺領域の運動刺激の方向をそれぞれ反対方向にとっても自己移動錯覚は無影響で,その時の自己移動錯覚は中心領域が後面に視えたときに生起しやすい,などが明らかにされている.


8.運動視における窓問題
 図11−aに示したように,縞あるいは格子パターンを小さな窓を通して左から右に水平に運動させると,斜め縞パターンでは斜め下方向への運動が,斜め格子パターンでは右水平方向への運動が知覚される.この現象を説明するために,Adelson & Movshon(1982)は,まず,方向をもつ刺激線分間の速度が見積られ,次いで,2次元的パターンが全体としてどの方向に運動するかをそれらの運動要素から計算すると考えた.斜め縞パターンの場合,視かけの運動方向は,物理的に妥当な2つの運動方向のベクトル合成で規定され,斜め格子パターンの場合にも,同様に,方向が各々反対である2つの線分から生じる運動ベクトルの合成ベクトルで決まる.これに対して,図11-bのパターンにみられるように,斜め縞線分のみを水平方向に運動(垂直線分は静止)させると,パターンは,全体として視かけ上,垂直下方向に動く.このとき,垂直線分を斜め縞線分より細くすると,斜め縞線分のみが斜め下方向へに動くように視え,逆にそれを斜め縞線分より太くすると,パターン全体が垂直方向に運動して視える.垂直線分と斜め縞線分の輝度比をかえても同様なことが起こる.パターン全体として垂直方向への動きが出現するのは,垂直線分が明るく同時に斜め縞線分の上にあるように表示された条件である.これらのことから,垂直線分と斜め縞線分の交点では,どちらが奥行的に上側(近方)にあるかの情報を伝えているが,垂直線分が奥行的に分離し下側(遠方)に見えるときには知覚的に存在せず,したがって,視かけの運動は斜め縞線分の運動方向のみで規定されてしまうためにこの種の現象が起こると説明されている(Bressan,Ganis & Vallortigara(4)).  同様に,運動視における窓問題は,運動視メカニズムの回路系では解決できない.窓問題の刺激条件をみると,運動する斜め縞は窓際で2通りの消え方をするように知覚できる(Shimojo, et al.1989).一つは,斜め縞が窓際で断ち切られるとする見方であり,他は,斜め縞が別の面のなかに隠れていくとする3次元的な見方である.事実,窓問題での運動錯視が生じるのは最初の見方しかできないような刺激条件であり,第2の見方,すなわち奥行手がかり(網膜視差)を利用して運動する縞パターンが窓とは同一の奥行面に存在しないように奥行手がかり(網膜視差)をつけると,運動錯視は生起じなかった.この結果は,図11-cに示されたように,縞の方向が互いに反対方向をとる斜め縞を重ね合わせ,同時にそれらのパターンが同一の奥行面に存在しないように透明要因と網膜視差を利用して奥行手がかりをつけると,パターン全体としての垂直下方向への運動は出現せず,パターンを構成する斜め縞パターンに固有な方向への,斜め右あるいは斜め左への運動が出現するようになった(Trueswell & Hayhoe(35)).  運動視における窓問題での視かけの運動方向は,これらの結果にも示されたように,運動視の処理回路のみでは決められず,運動視の処理回路とは無関係の回路である図−地分擬あるいは3次元視の回路の関与をまってはじめて確定される.

図11


9.オプティカル・フローと3次元視
 オプティカル・フローからの3次元構造の復元問題は,心理学と計算機科学の両方から研究が進められている.計算機科学では,オプティカル・フローから3次元構造を復元するための最適なアルゴリズムを開発するために,オプティカル・フローに内在する奥行情報について理論的に分析する.心理学は,人間の視覚システムが計算機科学で仮定された奥行情報処理過程のアルゴリズムに基づいて3次元構造を知覚しているかについて検証する.Simpson(30)は,両領域で行われたこれまでの研究を概観し,以下の諸点を指摘した.(1)オプティカル・フローのなかには,並進的成分(translation,観察者が奥行の異なる複数のものをx軸,y軸,z軸にそって動かしたときに網膜面に生じるフロー)と回転的成分素(rotation,対象がx軸,y軸,z軸を中心として回転したときに生じるフロー)とがある.いま,奥行の異なる2つの平面があるとき,それを並進的,回転的に動かしたと仮定して,そのときの並進的成分と回転的成分を示すと,図12のようになる.図からも明らかなように,眼球を中心として回転させた場合には,すべての投影点はその奥行位置と無関係に同一の角速度で動くので,この中には奥行情報は存在しない.したがって,人間の視覚システムは回転成分を捨象し,並進的成分を残すことによって奥行を知ると予測される.しかし,精神物理学的にしらべてみると,視覚システムは,回転成分を捨象する能力は小さい.(2)x軸とy軸についての面の傾きあるいは面の凹凸は,理論的には網膜角速度を空間についての1次あるいは2次微分から復元できるが,視覚システムがこのような計算をしているとは考えられない.(3)オプティカル・フローのなかの速度成分が3次元を復元する主要素であるが,速度成分以外の成分,たとえば,肌理密度,線分の長さ,面積などの成分変化も一定程度の奥行情報を担う.(4)KDEとSKEは,並進的成分をもつために3次元的に知覚される.(5)オプティカル・フローから3次元構造を復元する研究領域には,奥行方向の多義性問題,非剛体性のオプティカル・フローにもとづく3次元構造の復元問題,独立に運動する物体からのオプティカル・フローから各々の物体を分離する問題などが残っている.オプティカル・フローからの3次元構造復元をコンピュータに行わせるにしろ,あるいは視覚システムが行うにせよ,上述の問題を解決する必要がある. 

図12