眼筋的要因

1.眼球調節と両眼輻輳のメカニズムについてのモデル
 観察者は,3次元空間内で眼筋をコントロールすることを通してものを見るが,ものを注視するときの眼筋の働きについてのモデルが,Schor et al.(27)によって提唱された.眼球調節と両眼輻輳は,基本的には2系統の情報処理回路でコントロールされる(図30).ひとつの系統は,大きさ要因,陰影,肌理勾配,オクルージョン,パースペクティブ,運動視差などの奥行手がかりから奥行距離を知覚することで始動されるもの(奥行距離系統回路,spatiotopic),もうひとつの系統は,網膜でのボケと網膜視差で始動されるもの(網膜系統回路,retinotopic)である.眼球調節は,奥行系統回路と網膜系統回路のボケ始動回路で,両眼輻輳は奥行系統回路と網膜系統回路のうち網膜視差始動回路で,各々コントロールされる.奥行系統回路と網膜系統回路にはフィードバック回路があり,各々の回路内で修正を受けて再出力される.奥行系統と網膜系統は,フィードフォワード回路内で結合され,眼球調節と両眼輻輳を共通に駆動する回路に出力される.ものを注視する際に大きなエラーが生じたときには奥行系統回路で修正され,小さなエラーは網膜系統回路で処理される.奥行系統回路は粗−密戦略とトップダウン方式で注視反応を始動し,網膜系統回路はボトムアップ方式で注視をより正確なものに変えていく.このモデルでは,ボケあるいは網膜視差という物理的レベルのみで始動する網膜系統回路と知覚レベルで駆動する奥行系統回路とが組み合わされている点に特徴があろう.

図30