絵画的要因による立体視


1.テクスチュアからの形状の知覚
テクスチュアは3つの要因から成立している。テクスチュアを構成する刺激要素の面積勾配、要素の密度変化および要素の形態圧縮率(形態の縦/横の比率)である。これらの3要因を独立に変化させ、どの要因がテクスチュアから形状を知覚する場合にもっとも効果的かがしらべられた(Cumming, Johnston & Parker(8))。図25に示されたように、(1)密度要因(Density)、(2)面積勾配(area)、(3)形態圧縮率(compression)、(4)密度と形態圧縮率、(5)面積勾配と形態圧縮率などの組合せ条件が設定され、これを水平におかれた円筒の表面とみなして、その丸みの程度(半径に対する奥行の程度)が測定された(観察はステレオグラムを用いて両眼立体視条件で試行)。その結果、形態圧縮率が単独で存在する条件、あるいは他の要因に形態圧縮率が絡む条件で、テクスチュアからの形状知覚が効果的であることが明らかにされた。   さて、表面に散在するテクスチュアから面の形状(この場合には円筒形の丸み)が知覚可能なのは、3次元形状をもつ対象の表面上のテクスチュアが2次元面に投影されていると仮定しているからで、もし対象の面上の要素自体が変形しているならば、誤った知覚をしてしまう。テクスチュアからの形状の復元には、対象表面がどのような特性をもつかについての仮定が必要となる。この仮説には2通り考えられる。ひとつは、Gibsonが指摘したように、対象表面は、あたかもタイルを敷き詰めたように、同形、同大の刺激で満たされているので、その幾何学的特性は一様(homogeneous)であり、したがって対象表面のテクスチュア要素の密度は一定と仮定するものである。もうひとつは、対象表面自体には対象の奥行特性を表示する要素は何もなく等方的(isotoropic)と仮定するものであるる。いま、対象表面が円形の小石を敷き詰めたような外観をもつとしよう。観察者がこの対象表面を一様であると仮定すれば、観察者は一部の円形がどのように変形しているか、すなわち円の縦/横比率の変化(楕円の程度)から、表面の形状を判断することが可能となる。しかし、観察者が対象表面には奥行特性を表示するものは存在せず等方的である仮定すれば、対象表面には円形の小石の他に楕円の小石も存在することになり、全体の形態圧縮率を視ることでしか表面形状は知覚できない。Cumming, Johnston & Parker(8)は、図26に示されたように、形態圧縮の勾配は一定としたまま、個々の要素の最大圧縮率を変え、また圧縮の方向も、水平方向(図a、b)のみとランダム方向(c)とを設定して、その表面の形状判断(水平におかれた円筒の半径に対する奥行の程度)を求めた。その結果、最大圧縮率が増大すると表面の形状判断は悪くなること、しかし圧縮の方向をランダムにしても形状判断は悪くならないことが示された。このことから、人間の視覚システムは対象表面のテクスチュアが一様ではなく等方的であると仮定して、テクスチュアから表面の形状を知覚していることを示唆する。

図25 図26


 2.Hollow Faceの錯覚
Hollow Faceの錯覚とは、人間の顔のマスクのような凸状の対象をその背後から照明し、そして1mないし1.5m程度の観察距離から視ると、奥行の反転が生じてマスクが窪んで視える現象をいう。陰影の手がかりは、それ自体、曖昧な特性をもち、一義的には奥行方向を支持しない。凹面でもある照明方向から照射されると凸面に視えるし、逆に凹面が実際とは反対方向から照明されているように視えることもある。陰影要因のこのような曖昧な特性が、Hallow Faceの錯覚を導く。この錯覚を起こす要因のうち、照明方向と対象の提示方向について吟味された(Hill & Bruce (15))。正立方向にマスクが提示され、照明が上方向の時に、明瞭な錯覚が生じること、しかし、マスクを倒立提示しても、ある程度の錯覚が生じることが示された。この錯覚では、人間の顔という情報が凹あるいは凸として知覚の成立に影響している。