4.眼筋的要因(調節と輻輳作用)


4.1.眼球調節に及ぼす視えの距離の要因
 眼球調節は、ボケで起動する回路(閉鎖回路、closed loop)とボケが無いときに起動する回路(開放回路 open loop)がある。最近、これに加えて、眼球調節のフィードバック回路が完全に閉じてもいないし、開いてもいない中間の状態であるセミ・オープン回路(semiopen loop)の存在が指摘されている。ここでは、刺激はボケが完全に取り除かれているのではなく、明るさコントラストや輝度が縮減されていて、視かけの距離が眼球調節に影響すると考えられている。Kotulak & Morse(10)は、裸眼立体視が可能なオートステレオグラム(autostereogram)で立体視させ、そのときのふくそう角をプリズムを用いて人工的にステレオグラム面に矯正し、このときの眼球調節とステレオグラム内に成立している視かけの距離との関係を測定した。この事態では、ボケとふくそうの両要因は眼球調節要因とは不一致の関係になる。統制条件として、ステレオグラムを立体視せずに、その面に焦点を合わせた事態での眼球調節の測定が設定された。この事態ではボケとふくそうの両要因は眼球調節と一致する。測定の結果を両事態で比較したところ、眼球調節は著しく相違すること、実験事態で得られた眼球調節は、視かけの距離と相関が高いことが確認された。このことから視かけの距離は、セミ・オープン回路事態で眼球調節に影響することが示されている。


 

4.2.熟知的大きさ、暗示的大きさと輻輳作用
 両眼輻輳作用は、(1)網膜像のボケ(調節的輻輳 accommodative vergence)、(2)網膜視差(融合的輻輳 fusional vergence) 、(3)対象までの奥行距離情報、で変ることが確認されている。また、奥行の手がかりが全く存在しない条件(完全な暗室事態)では、ある一定の距離(0.6−1.16m程度)に輻輳は固定される(暗視輻輳 dark vergence)。それでは、熟知的大きさあるいは暗示的大きさ要因で輻輳作用は変わるのであろうか。熟知的大きさあるいは暗示的大きさ(教示による大きさ、例えば提示された矩形はトランプのカードなど)を変え、その時の輻輳変化が測定された(Predebon & Wooley(19))。輻輳は、複尺視力に用いるノニウス線の上線分を片眼に下線分を他眼に提示し、下線分が上線分の右あるいは左のいずれに見えるかを判断させる方法によって測定した(Modified Binary Search 法, Tyrrell & Owens 1988)。その結果、輻輳は熟知的大きさ要因によって影響を受けるものの、暗示的大きさ要因では変化しないこと、しかし、観察者の視かけの距離についての報告には、両要因は影響を与えていることが確認された。


 

4.3.ウォールペーパー現象での輻輳変化
 ウォールペーパー現象での輻輳変化が測定された(Logvinenko & Belopolskii(14))。ウォールペーパー現象とは、格子状の刺激対象を凝視し続けると、輻輳変化が生起し、視かけ上、遠方に定位して視えることを指す。とくに、格子を縦格子のみとし、しかもその格子幅を均一にするのではなく、相違を設けると、その幅が大きい格子の方がより遠くに定位される。今回、この現象下での輻輳変化が測定された。その結果、視かけの定位と輻輳とは無関係であることが確認された。