3次元視における絵画的要因

1.主観的輪郭図形とオクルージョン
 主観的輪郭についてのオクルージョン仮説によれば、主観的輪郭が出現するのは、それを誘導する図形要素がひとつの対象に対して蔽ー被蔽関係をもつように配置されるために、これが潜在する輪郭を生みだすと説明される(Rock & Anson 1979)。これは、図16-(b)で例証される。図(b)に対して図(a)の誘導図形のそれぞれは3次元的に描画され、この場合には主観的輪郭効果は生じない。
 一方、図(c)に示すように、誘導図形の各々が3次元的に描画されていても、主観的輪郭が出現する(Purghe 1993)。そこで、主観的輪郭効果には、オクルージョンが必須の要件であるか否かについてPurghe(36)によって検証された。実験は、主観的輪郭図形に網膜像視差を導入し、誘導図形の各々を3次元表示、あるいは誘導図形の各々の方が主観的輪郭図形より前方に出現するように両眼視差を付して、オクルージョン要因を完全に排した条件で行われた。図(c)は誘導図形要素が両眼立体視表示された条件(左と中央図、中央と右図でステレオグラムを構成)で、図(d)は誘導図形が主観的輪郭図形よりも前方に立体視される条件で、もっとも主観的輪郭効果が出現したパターンである。この結果は、主観的輪郭の出現には、オクルージョン要因は必須要件ではないことを明瞭に示す。

2.絵画的奥行要因による方向錯視
 図17中、CとFの矢印で示した線分は、実際は平行線分であるにもかかわらず、互いに開散/輻輳するように視える。この方向錯視は、Enn & Coren(10)によって考案されたもので、立体的に描かれた2つの箱の視かけの配置関係から生起する。錯視条件を探ってみると、(1)線分で描かれた図形(C)では、図形間の配置関係が互いに同一の方向を向いていても方向錯視が生起するのに対して、陰影をもつ図形(F)では、方向が互いに異なる方を向いていないと錯視は生起しない、(2)統制条件ではペアとなる図形間の距離が増大すると、ターゲットとなる平行線分間の方向の逸脱は大きくなるのに対して、この種の方向錯視図形では、逆に図形間の距離が増大すると錯視量は減少する,(3)この種の錯視図形をパースペクティブ要因で作成された3次元図形の中に埋め込むと方向錯視が強調され、とくに、1個の消失点より2個の消失点をもつ3次元図形を背景にしたときの方がより強い錯視効果が生起する、(4)平行線分のみを3次元図形の背景の下に埋め込むと、箱状図形の構成線分である平行線分よりも強い方向錯視が生じる、ことなどが見つけられた。この種の方向錯視は、絵画的要因で表現されたパターンから3次元性がどのように知覚されるかを探るための有効なテストパターンとなるかもしれない。