その他の3次元視研究

1 水平距離と垂直距離の知覚
 前額平行におかれた水平線分と垂直線分を観察するとき、網膜の垂直方向と水平方向の長さが等しければ、垂直方向の方が水平方向より長く見える。これは、水平−垂直錯視として知られている。Higashiyama(16)は、この錯視と網膜像との関係を観察者の体位を変えて操作し検討を試みた。観察者の体位と視野については、(1)身体直立、視野正立、(2)身体横臥、視野正立、(3)身体正立、視野横転、(4)身体横臥、視野横転、(5)身体正立、視野逆転の5条件とし、また水平距離と垂直距離は、3階建てのビルの壁面を利用して5,10,15mの3段階に設定した。水平と垂直それぞれの視えの距離は、観察者とビルの壁面までの距離がそれらと等距離となるように調整させる方法で求められた。その結果、水平距離より垂直距離が視かけの上で長く見えたのは、条件(1)のみであった。このことから、水平−垂直錯視は、身体要因、視野の枠組み要因、重力要因と連関して生起し、これら3要素が一致した条件で最大の効果が生じ、逆にこれらの要因のうち、2要因が不一致条件では錯視効果は減じ、さらに3要因が不一致条件では錯視は生起しないと考えられる。

2 .世界が3次元であることを、ある日、突然、認識した者についてのケーススタディ
 Mikulas27)によれば、Bobは45歳になったとき、突然、世界が3次元であることに気がついたと言う。彼は、それまで、どのようにしても、ものの奥行や立体を知覚できなかった。そのため、キャッチボールはできないし、また、段差を知覚し飛び下りることもできなかった。ところが、ある日、ノースカロリナの山々を、マリフャナを吸いながら、ぼんやりみていたら、大小の山々が連なる広大な景観を突然知覚したと言う。このあと、3次元知覚は生起したりしなかったりしたが、1年後には3次元知覚は常態となったという。5年後、ランダム・ドット・ステレオグラムを試したところ、はじめは立体視ができなかったが、これもある日、突然、見えるようになったという。このケースでは、両眼視差をはじめ、運動視差、両眼輻湊、眼球調節などの奥行手がかりは機能できる状態にあったが、それが知覚の統合過程で利用されていなかったものといえよう。稀なケースであるだけに、詳細な研究が望まれる。

3.十分な奥行手がかり条件と縮減手がかり条件での奥行絶対距離知覚
 十分な奥行手がかり条件と縮減手がかり条件での奥行絶対距離知覚が、Philbeck & Loomis(35)によって実験的に検討された。十分な奥行手がかり条件としては、眼球調節、両眼輻輳、両眼視差、運動視差、パースペクティブ、陰影、テクスチュア勾配および俯角要因が与えられ、縮減手がかり条件では、眼球調節、両眼輻輳に限定された。奥行絶対距離知覚の指標としては、言語による報告と歩行距離測度(locomotor pointing)が選ばれた。歩行距離測度では、ある距離におかれた対象を注視した後、閉眼して対象まで歩行することによって絶対距離を求められる。廊下空間で奥行絶対距離を79-500cmの間で変化して実験した結果、手がかり縮減条件下では近距離を過大視、遠距離を過小視すること、奥行絶対距離の手がかりとしては両眼視差、運動視差と俯角要因が効果をもつこと、さらに言語報告指標と歩行距離指標とは高い相関を示すことなどが明らかにされた。

4.視覚と触覚による大きさ知覚
 視覚と触覚(haptic)による大きさ知覚の相違が分析された(Garrett, et al.(11))。刺激は、種々な奥行位置(8-27m)に提示された間隙(2つの短い柱で構成し、3種類の大きさを設定)で、観察者はそれを視覚と触覚(眼では見えないようにしてステッキ状のプローブで探らせる)で知覚し、その大きさを2つの直角柱の間隙を調整して再生する。その結果、物理的大きさ変化に対する知覚された大きさ関係は、視覚と触覚でともに同一の変化を示すことが明らかにされた。