6.大きさ−奥行距離関係の知覚


6.1.視えの大きさ判断過程と測量的大きさ判断過程
 大きさ?奥行距離知覚との間には、大きさ?距離不変関係(size-distance invariance)が成立している。これは、対象の奥行距離が大きくなると対象の視えの大きさも大きくなる現象をさす。このときの大きさ知覚は視えの大きさをいうが、実験に際しての測定では観察者は客観的な態度を保ち、網膜像の大きさにもとづいて反応しやすい。視えの大きさにもとづく大きさ判断知覚と測量的態度による大きさ判断知覚によって、大きさ判断がどのように異なるかが再検討された(Kaneko & Ucchikawa(14))。視えの大きさ判断(linear size)では、対象をものと知覚し、ものの大きさについての判断をするように教示した。測量的大きさ判断(angular size)では、観察者は2つの大きさを客観的、測量的な態度を保つように教示された。実験は、パースペクティブのある大空間(456cm)、中空間(300cm)、小空間(222cm)内で、標準刺激と比較刺激を提示して行われた。その結果、測量的態度による大きさ判断は網膜像の大きさに比例して変化するのに対して、視えの大きさ判断は、両眼視差やパースペクティブ要因で変化する視えの奥行距離に依存することが確認された。視えの大きさ判断過程と測量的大きさ判断過程とは、別個の独立した過程とも考えられる。


6.2.奥行距離知覚とV4領域のニューロン
 奥行距離知覚に対するV1,V2,V4領域のニューロンの反応が、サル(Macaca fascicularis とMacaca mulatta)で測定された(Dobbins, et al.(4))。対象は、奥行距離22.5cmから360cmの間で5段階に位置され、また対象の大きさも5種類が用意された。この5種類の大きさは、奥行距離とともに、視角一定になるように変化される。実験は、被験体に注視点を維持するように訓練し、その位置に対象を提示して、観察中のニューロン活動が記録された。その結果、V1、V2およびV4領域のニューロンのなかには、奥行絶対距離と対象の物理的大きさが変化してもこれとは無関係に、ある値の視角に選択的に応答するものが存在することが示された。しかもこのような応答特性は奥行絶対距離と関係し、奥行絶対距離が小さいときに感受性が高いもの(V1領域))、それが大きいときに感受性が高いもの(V4領域)、さらに奥行絶対距離とは無関係なもの(V4領域)の3種類が見いだされた。
 また、被験体の視野を制限した事態(両眼視非制限視野条件、両眼視制限視野条件、単眼視非制限視野条件、単眼視制限視野条件)で、同様に、ニューロンの応答特性を測定した。視野制限は、両眼視差、パースペクティブ要因、および視野の枠組を除去する。その結果、ニューロンの応答特性は視野の制限条件を両眼視から単眼視、さらに非視野条件、制限視野条件に移すにしたがって、奥行絶対距離に対する選択的応答特性は減少したが、消失することはなかった。このことから、奥行絶対距離は、網膜的要因と網膜外要因の両方で規定されていると考えられる。