4.眼筋的要因による奥行視

 

4.1. 両眼輻輳要因と奥行絶対距離
 手が届く範囲内での奥行絶対距離の知覚に対する両眼輻輳要因の効果が、再吟味された(Mon-Williams & Tresilian(20))。実験は、長細い箱状の装置の中で行われ、ターゲットは観察者の16.6cmから50cmの範囲で提示された。視えの奥行絶対距離は、観察者がターゲットまでの距離を指さすことで測定された。測定条件としては、すべての手がかりが働く条件(full cue)、両眼輻輳単独手がかり条件、眼球調節単独条件などが設定された。両眼輻輳単独条件での輻輳は、プリズムによって操作され、ターゲットも小光点が用いられた。実験の結果、両眼輻輳単独手がかり条件では、ターゲットが置かれた距離と知覚された距離との誤差は、2cm以下であり、すべての手がかりが働く条件(full cue)と同等であった。これに対して、眼球調節単独条件は、過小視が著しく、また個人差が大きい結果となった。これらのことから、両眼輻輳は、手が届く範囲の奥行絶対距離の手がかりとして有効である。

4.2.  眼球調節作用と視えの奥行距離
 遠近描写のある2次元の画像の近点と遠点を注視したときの眼球調節の働きがしらべられた(Takeda et al(28))。眼球調節は、赤外線を角膜にあて、その反射像を得る方法で測定された。2次元の画像としては、北斎の富士などが用いられた。測定の結果、2次元画像で近点から遠点に視点を変えたときには、両眼輻輳を伴わない眼球調節の変化が生じることが示された。これとの比較で行われた現実場面での測定では、輻輳の伴う眼球調節の変化が生じること、またステレオグラムによる両眼立体視では輻輳の変化は伴わないが、はじめに大きな変化が起き、その後は減衰する眼球調節変化が生じること、運動視差による立体視では両眼輻輳を伴わない眼球調節の変化が生じることがそれぞれ観察された。このことから、奥行の認知が眼球調節に大きな影響を持つことが示唆されている。