7.おわりに

 
 運動要因にもとづく3次元視の研究領域で新たに得られた主な知見は、(1)V1,V5/MT、MSTでは、運動と両眼視差の両方に応答するニューロンの存在が報告されているが、ランダム・ドット・キネマトグラムで、両眼視差と運動するドット数との関係をしらべた結果、両要因の補完的関係が明らかにされ、精神物理学的にも神経生理学的事実を裏付ける結果が示されたこと、(2)両眼立体視能力に障害のある弱視者は、運動視差による立体視能力も障害があることが確認され、運動視差による立体視と両眼立体視との間には、神経生理学的レベルでの関連があること、(3)運動からの構造復元には、低次の運動検出にもとづく3次元構造復元というボトムアップ経路のみではなく、その逆の高次過程である3次元形状過程が運動検出にトップダウン的に影響をもつ可能性があること、などである。 
 両眼立体視に関する研究領域では、(1)線形機構(フーリエ機構)と非線形機構(非フーリエ機構)を操作したステレオグラムの観察から、線形機構のステレオグラムでは形状と奥行が出現するが、非線形機構のそれでは奥行しか出現しないこと、(2)非線形機構は、方向と空間周波数に特異的な線形機構の後に生起する中枢的処理過程であること、(3)RDSにおける単眼非対応領域は、生態的に不自然な場合には立体視を促進するのではなく、妨害すること、(4)パヌムの半端ステレオグラム(limiting case)の説明仮説には、2重融合説、オクルージョン説、カモフラージュ説、輻輳誘導視差仮説があるが、輻輳誘導視差仮説が支持されること、(5)反極性の輝度対比をもつステレオグラムは、サステインド処理過程ではなくトランジェント処理過程で処理されていること、などが明らかにされた。
 絵画的要因による3次元視での研究領域では、(1) 複数の奥行手がかりの統合は、たとえば、運動視差とテクスチュアの手がかりの統合は、ベイズの確率定理で記述できる可能性があること、(2)奥行手がかりの統合は、人間の経験方略にもとづく学習によって決定されていること、(3)対象の形状、大きさ、奥行距離はそれぞれ独立したモジュールで処理され、それらの間に統合的な知覚処理過程は存在しないが、奥行距離の処理過程はすべての他の処理過程に影響を与える特性があること、などが新たに見いだされた。
 
その他に、ウマはRDSの両眼立体視能力(global stereopsis)をもつこと、ニワトリはオクルージョンを奥行手がかりとして利用できることが示された。