運動要因による3次元視

1.1.運動視差のための空間周波数チャンネル

 運動視差のための空間周波数チャンネルの選択特性がどのようなものかが、マスク刺激法を用いて、Hogervorst et al (8)によってしらべられた。方法は、図1に示されたように、観察者の頭部運動と連動させて提示すると、サイン波状の凹凸が出現するシグナル刺激条件、およびこれにノイズ刺激を加算したノイズ・シグナル加算条件とを設定し、ノイズとノイズ間の距離(ノイズギャップ)を変化させた時、どこでサイン波状の凹凸知覚が崩れるか、その閾値を測定した。空間周波数は、0.33,0.87c/dの2条件である。実験の結果、閾値はノイズギャップが小さくなるに伴い直線的に増大することが示され、また0.33,0.87c/dの2種類の空間周波数のそれぞれで、ノイズ効果が消失する帯域幅は1.4オクターブであることが示された。運動視差は狭い帯域幅を持つ複数のチャンネルで伝達されていて、これは両眼視差のそれと一致している。

1.2.運動視差と両眼視差の課題依存型ストラトジー

 従来、運動視差、両眼視差、パースペクティブ要因など奥行手がかりが豊富になるほど、絶対的あるいは相対的奥行距離知覚は正確になされると考えられている。Bradshaw et al(3)は、知覚される奥行距離の正確さは、奥行手がかりの種類に依存するのではなく、相対的奥行距離に関わる課題に依存するのではないかと考えた。そこで、相対的奥行距離課題として、(1)ある等しい奥行距離に設定された2つのターゲットの中央にテストターゲットを配置し、テストターゲットを奥行方向に移動させ、3つのターゲットが前額に平行になる位置を求める課題、(2)3つ
のターゲットが観察者から見て三角形を形成するように配置し、別に同様な3つのターゲットを用意し、頂点の一つを移動させてに同一の三角形になるように調整させる課題、(3)3つのターゲットが観察者から見て三角形を形成するように配置し、前額に平行に配置した底辺の距離と三角形の高さとが等しくなるように、頂点に当たるひとつのターゲットを移動させる課題がそれぞれ設定された。奥行手がかり条件は、頭部運動を伴う単眼視条件、頭部運動を伴わない両眼視条件、頭部運動を伴う両眼視条件である。実験の結果、奥行手がかり条件による差は出現せず、課題の種類による差が生じた。このことから、視覚システムは課題ごとにそのストラテジーを変えていると考えられる。

1.3.テクスチャ要因と運動視差要因間の手がかり優位性

テクスチャ要因と運動視差要因間の手がかり優位性については、これまで、運動視差要因が優位であるとされてきた(Braunstein 1968, Young et al 1993)。O'Brien & Johnston(14)は、図2に示されたような水平、垂直、格子状の3種類のサイン波形の空間周波数パターンを使用して、テクスチャによる奥行と運動視差による奥行を作成し、どちらの要因が奥行傾斜面の知覚に対して手がかり優位性があるかをしらべた。実験は、基準となる奥行傾斜面(45°)を提示し、次にテスト傾斜面を提示し、どちらが傾斜して知覚されるかを求める「継時的恒常法」で行われた。その結果、視えの奥行傾斜面は、テクスチャ要因によって優位に規定されていることが示された。Braunsteinらの結果とこの結果との不一致は、テクスチャパターンの相違に求められている。O'Brienらの実験では、テクスチャとしてレイトレースされたパターンが使用されているので、大きさや密度勾配が奥行傾斜について一定であるため、奥行効果が大きいためと考えられる。

1.4.運動立体視(kinetic depth)による奥行キャプチャ(depth capture)

運動立体視と両眼立体視(steropsis)は、共通の現象や特性をもつ。たとえば、神経生理学的領域では、霊長類の視覚領は、両眼視差と運動方向に特異的に反応するニューロンが存在することが報告されている(Mauunsell & Van Essen 1983,Bradley et al 1995, DeAngelis et al 1998)。視覚心理学的領域では、運動立体視、両眼立体視ともに、明瞭な運動立体要因や両眼視差要因が存在しないのに、内挿によって立体や奥行が知覚される(Saidpour et al 1992)。Kham & Blake(10)は、ステレオキャプチャ(両眼視差が存在しない領域が両眼視差のある領域に囲まれると、その部分が視差領域に捉えられて立体的に知覚される現象)と同様な現象が運動立体視でも生じることを図のような刺激条件で明らかにした。図3(a)と(b)の左図では、中央の円筒形が運動立体視によって3次元的に知覚され、中央の水平の帯も円筒の湾曲面にまきついて湾曲して見える。図(a)と(b)の右図では、帯が垂直に配置されているためにキャプチャは生じない。これらの観察結果から、運動立体視と両眼立体視は、ともに共通のメカニズムを持つことが確認される。

1.5.オプティカル・モーションによる対象の面の奥行についての知覚

3次元空間における前額に平行な表面は、次の式で表すことができる。
  Z(x,y)= Z0 + xsinτtanσ+ ycosτtanσ
(ここで、σ(slant)は視線と前額平行面との間の角度、τ(tilt)は前額平行面の垂直軸からの逸脱角度、Z0 は対象表面からイメージ化された面までの視線上の奥行距離をそれぞれ示す)
 上式は、対象の表麻塔lルの選択特性がどのようなものかが、マスク刺激法を用いて、Hogervorst et al (8)によってしらべられた。方法は、観察者の頭部運動と連動させて提示すると、サイン波状の凹凸が出現するシグナル刺激条件、およびこれにノイズ刺激を加算したノイズ・シグナル加算条件とを設定し、ノイズとノイズ間の距離(ノイズギャップ)を変化させた時、どこでサイン波状の凹凸知覚が崩れるか、その閾値を測定した。空間周波数は、0.33,0.87c/dの2条件である。実験の結果、閾値はノイズギャップが小さくなるに伴い直線的に増大すること> で表される。これを変形すると、
    tanτ=Vx/Vy, tanσ√(Vx2+Vy2)/ω
が得られる。この式によれば、tilt(τ)は2種類の速度勾配から確定できるが、slant(σ)は、角速度勾配(ω)が不明なので確定できない。これを確定する一つの方法は、図4に示されたように、V1からV4までの局所的な個々の速度からVo(運動速度の平均)、Vx(水平方向の速度勾配)、Vy(垂直方向の速度勾配)を算出すれば、tilt(τ)は一義的に決まり、またslant(ω)がある既定値をとると仮定すれば、√(Vx2+Vy2)に比例して増大すると予測される。
 Todd & Perotti(23)は、図5のようなパターンでV1からV4 の部分の速度を変化して楔形状を提示し、そのtiltとslantの角度を測定した。その
結果、tiltは正確に知覚判断されたが、slantの知覚判断には大きな誤差が生じることが示されている。