絵画的要因による3次元視

1.2次元画像における対象の面の形成に及ぼす奥行要因
 図27の(a)をみると2つの楕円形があり、それらの面は同方向を示すが、これを(b)のような2つの組み合わされた立方体のある面に組み入れると、それらの面の示す方向 は、(a)とは異なって視える。このように、2次元画像における対象の面形成は、面、 線、エッジ、頂点などの間で生じる奥行関係を曖昧なものにしないという内的拘束の枠 内で処理されていると、Albert(1)は主張する。もし、2次元画像の奥行関係で複数の 解釈が可能なときには、次の諸点からシーン理解が選択される。(1)2つの対象が奥行 関係で近接しているほどシーン解釈上で選択される(近接性)。(2)形成された面が平 面的で滑らかであるほどシーン解釈上で選択される(スムース性)。(3)形成された面 が前額平行な面、あるいは地面に近似しているほどシーン解釈上で選択される(前額平 行面もしくは地面選択性。、(4)観察者の関心、あるいは注視点はシーン解釈上で選択 される。シーン理解に関する研究は、人間の知覚ばかりでなくコンピュータ・ビジョン の上からも重要である。

2.視点と遠近法における投影点
 写真はある撮影点からのシーンを写し取るが、この撮影点は投影の中心点となる。したがって、これ以外の視点に対しては、その写真は幾何学的に変形したシーンを構成しなおさなければならない。人間の視覚システムは、他の多くの視点から見た変形されたパースペクティブ・シーンを正しく知覚することができ、これはパースペクティブに対する強靱性(robustness of perspective)と呼ばれる。この強靱性は、人間の視覚システムが、あたかも投影の中心点から見たシーンであるかのようにシーン構造を知覚するように補償するからと説明される(パースペクティブの強靱性についての補償理論 compensation theory of perspective robustness)。図28は、観察者の視点が変 わると、どのように対象の見え方が変化するかを図解したものである。記号Oは投影 点、Pは投影面、O'は位置変化した投影点である。(a)は投影点からのシーン構造、(b)は投影点を投影面により近づけた場合と遠ざけた場合、(c)は投影点を片側に寄せた場合をそれぞれ示す。ここではd(O'A')/d(O'P)は一定に、d(O'P)/d(OP)は最大比/最小比を示す。パースペクティブ強靱性の補償理論については、対象の面が視えているときには、対象の傾き(Rosinski, et al 1980)、シーンの空間的構造(Goldstein 1987)、 箱形状の長方形の程度(Perkins 1973)をそれぞれ正しく知覚できることが支持された。しかし対象の面が視えないときには、この種の知覚的補償が作用しないこと、また、投影点を片側にずらすのではなく、投影点までの距離を変えた条件では、このパー スペクティブの強靱性についての補償理論を支持しない結果も報告されている。Yang &ampKubovy(26)は、パースペクティブの強靱性についての補償理論を検証するために、投影点までの奥行距離を変えたときに対象の面の形状の知覚は、どの程度正しくなされるか、さらに還元スクリーンを使用して視野を制限することによって対象の面が視えない条件下では対象の面の形状の知覚は、どの程度正しくなされるかを検討した。使用した刺激は図29に示されている。図中、X軸は投影点と投影面とのなす角度(視角)を、Y 軸は対象のパースペクティブ・コンバージェンス角をそれぞれ示す。実験では、どの条 件でもっとも立方体らしく知覚されるかがしらべられ、その結果、視角とコンバージェ ンス角とが対応している場合に、もっともそれらしい知覚が得られた。また還元スクリ ーンを使用し対象の面の知覚を制限した場合には、単眼視、還元スクリーン、暗視野条 件は、両眼視、還元スクリーン無し、明視野条件に比較してパースペクティブの強靱性 の補償がなされなかった。このことから、対象の面が視えない条件では、パースペクテ ィブの強靱性は補償されないこと、しかし対象の面が視える条件では、それは十分に補 償されることが明らかにされた。