おわりに

運動要因にもとづく3次元視の研究領域で新たに得られた 知見は、
(1)運動視差は狭い帯域幅を持つ複数のチャンネルで伝達されていて、これは両眼視差のそれと一致していること、
(2)視覚システムは、奥行に係わる知覚判断課題が変わると、それに利用する主たる奥行手がかりを変えている、すなわちそのストラテジーを変えていると考えられること、
(3)テクスチャ要因と運動視差要因間の手がかり優位性については、これまで、運動視差要因が優位であるとされてきたが、視えの奥行傾斜面はテクスチャ要因によって優位に規定されること、
(4)ステレオキャプチャと同様な現象が運動立体視でも生じることから、運動立体視と両眼立体視は、ともに共通のメカニズムを持つこと、
(5)オプティカル・モーション事態では、tiltは正確に知覚判断されたが、slantの知覚判断には大きな誤差が生じることなどである。


両眼立体視に関する領域では、
(1)ステレオグラムの左右の対応する領域を構成する刺激要素の輝度が反対である場合には、両眼立体視における対応が原理的には存在しないが、観察者と対象との間に遮蔽物があり、その遮蔽物を通して対象を観察する場合には、対象の輝度は左右のステレオグラムで背反(anti-correlated)していても、これを両眼立体視すると、対応を持たない領域が遮蔽物より手前に浮き出て視えること、
(2)対応問題には両眼視差量とコントラスト・エンベロープの大きさとが相互に影響していること、
(3)パヌームの半端ステレオグラム(lomiting case)問題に対して、新たな仮説である「誤った輻輳による奥行定位説」が提案されたこと、
(4)両眼立体視にはトランジエントとサステインドの2つのメカニズムが存在し、前者は対極コントラストステレオグラムで輪郭を検出できるが、後者は検出できないこと、
(5)フーリエ空間で、1次元(垂直方向)と2次元の画像パターンを使用して背反輝度ステレオグラムと背反輝度キネマトグラムとを作成すると、1次元パターン条件では、背反輝度ステレオグラムと背反輝度キネマトグラムとも、奥行方向と運動方向の弱い反転を伴うものの、立体視と運動視が生起したが、2次元パターン条件では背反輝度キネマトグラム条件では反転を伴う運動視が明瞭に知覚されたが、背反輝度キネマトグラム条件では立体視は生じないこと、
(6)サルを対象とした研究から、両眼立体視処理は大細胞層で行われていると考えられてきたが、人間を対象とし、ダイナミック・ランダム・ドットから構成されたステレオグラムのドットに持続系、過渡系のそれぞれに適した変調をかけた実験から、両眼立体視は、持続系で処理されていること、
(7)大局的両眼立体視下での面の形状知覚を不能にする最大両眼視差は、視差勾配によって規定されていること、などが新たに明らかにされた。


  この他に、fMRIを用いて、図?地分離を担う脳部位の同定が試みられ、両側のV1領域が顕著に図-地分離対応して応答すること、またV2領域も若干の応答があることが明らかにされ、図?地分離は、視覚情報処理の初期の段階で行われていることが確認されている。