4.絵画的要因による3次元視

4.1. 陰影要因からの形状の復元問題
 陰影要因は対象の3次元性を効果的に表現するが、このとき、照明方向を知ることが3次元性、とくに凹凸感を正確に知覚するのに必要か否かが問題となっている。これまで、照明方向に関する知識は形状の凹凸感を明瞭にするのに十分な条件であるが、必要条件ではないと考えられている(Koenderink & van Doorn 1980, 1993)。そこで、Caudek, et al.(10)は、図16に示されたように、凹凸のあるパターンを作成し、その回転軸と光源方向とを操作した。パターン面は観察者の前額平行に位置させ、垂直軸を中心に時計あるいは反時計回りに10度回転して提示する。光源も垂直軸を中心に回転させることにし、面の回転方向と光源の回転方向との関係を、面の回転と光源方向の回転とが同方向条件、それらが反対方向条件、および光源が静止した条件の3通りに設定した。観察者には、パターンの視かけの奥行方向(凹あるいは凸)、パターンの回転方向(時計あるいは反時計回転)、パターンの視かけの回転角度の最大(別に提示した指標を用いての調整によって測定)を答えさせた。
 その結果、光源静止条件と、パターンと光源同方向回転条件ではほぼ正確に凹凸感と最大回転角度を知覚できたが、一方、パターンの回転方向と光源の回転方向とが反対方向条件では、パターンの回転方向が光源の回転方向と同一と知覚されてしまい、凹凸感も不正確になることが示された。そこで、パターンと光源を回転した際の最終フレームの画像を静止画像として提示し、同様に凹凸方向、最大の回転角度を判断させたところ、3通りのすべての条件で正しく知覚できることが分かった。これらの結果から、陰影からの形状復元の場合、静止画像条件とパターン面が運動するダイナミック条件では、そのプロセスが異なると考えられる。

4.2. 面の視えの奥行方向を規定する絵画的要因と運動要因との関係
 一般に、「エームズの窓」と呼ばれる面の奥行方向に関する錯覚現象はよく知られている。これは前額に平行に位置させた台形面を提示し、それが静止した状態で観察すると、長方形が垂直軸を中心に傾いて視えるが、これを垂直軸中心に回転させると、長方形がその形状を変化させるように知覚される。これは、絵画的要因(パースペクティブ要因)と運動要因とは垂直軸に関する視えの奥行方向(tilt)について同方向の手がかりを与えるが、水平軸に関する視えの奥行方向(slant)については、絵画的要因はある傾きを持つが、物理的には前額に平行に配置してあることから、生じると考えられている。そこで、平らな面の奥行に関する視えの方向を規定する要因として、絵画的な要因が主要な役割を果たすのか、あるいは運動視差など運動要因が大きく関与するかが、Cornilleau-Pere et al.(11)によってしらべられた。実験条件は、図17に示されたように、台形面にパースペクティブが描かれたものである(C)。図中、(A)は垂直軸に関する傾斜を、(B)は水平軸に関する傾斜を示す。面の運動方向は、前額平行面上の水平軸、垂直軸および45度軸に関して回転させる。面の視えの傾斜角度は、コンピュータでグラフィカルに提示した面をマウスあるいはジョイスティックで調整させる方法(D)で求められた。実験は単眼で行われ、また対象提示視野は小視野条件(6度)と大視野条件(60度)とが設定された。
 実験の結果、(1)小視野条件の場合、運動要因のみによって誘導された視えの傾き(tilt)は、面の回転方向に規定されるが、面の傾きが回転軸と一致する場合には多義的にしか知覚されないこと、(2)一方、大視野条件の場合、運動要因による視えの傾きは回転方向軸によって規定されること、(3)小視野、大視野条件ともに、パースペクティブ要因は視えの傾きを強く規定すること、(4)パースペクティブ要因と運動要因とが抗争的条件にある場合には、視えの傾きはパースペクティブ要因によって規定されること、などが示された。これらのことから、静止的手がかり要因であるパースペクティブは運動要因に基づく手がかりに優越する手がかり要因と考えられる。

4.3. ハトのオクルージョン視
 対象の一部が覆われているものの知覚(amodal perception)については、マウス(Kaniza et al. 1998)、ニワトリのヒナ(Forkman 1998)、赤毛ザル(Osada & Schiller, 1994)、ヒヒ(Deruelle et al. 2000)、チンパンジー(Sato, et al. 1997)を対象にしらべられ、いずれもそれが可能であること、しかしハトを被験体にした研究(Cerella 1980, Fujita, 2001, Sekuler et al. 1996)では、オクルージョン視は不能であることが報告されている。そこで、DePietro, et al. (12)は、ハトを、対象が被蔽されていない条件で訓練し、その後に対象の一部が被蔽された条件と、対象が別の面の上に浮いたように置かれた条件(オントップon top)でテストしたところ、オクルージョン視は明確には出現しなかったので、被蔽されていない条件およびオントップ条件で学習訓練を施行したところ、オクルージョン視は明確に出現することが示され、さらに新規な被蔽対象に対してもオクルージョン視が成立することを見いだした。ハトはオクルージョン視能力を持つと考えられる。