4.奥行距離の知覚


4.1  フィートミューラー円と等距離円上における対象の視えの奥行距離

 フィートミューラー円とは、左右眼と対象との間の輻輳角(γ)を等角度にとったときに形成される円をいい、また等距離円とは左右眼と対象との間の輻輳角(γ)を離心率(φ)の角度の余弦(cosine)に比例させたときに形成される円をいう(図12)。フィートミューラー円上の対象は、すべて、同一の輻輳角をなす。等距離円上の対象は、すべて、観察者の両眼の中点に仮定した擬似的視点から物理的に等距離となる。これらの2つの円は、観察者の視野が周辺に行くに従って乖離する。理論的には、フィートミューラー円上の対象は、輻輳角が等しいので、対象までの視えの奥行距離はすべて等しくなり、また等距離円上の対象は、観察者の擬似的視点からの物理的距離が等しいので、その視えの距離もすべて等しくなるはずと予測する。いずれが正しいかについては、多くの研究が行われたが、明確な結果は得られていない。

そこで、Ebenholtz & Ebenholts(4)は、正中線上の対象の距離を35cmに設定し、それがフィートミューラー円上、あるいは等距離円上に位置するように配し、視えの奥行距離を測定した(図13)。離心率は左側に15°,22.5°,30°,37.5°,45°の5段階である。視えの奥行距離測定は、常に対象と同方向に設定された物差し(物差しは被験者には見えない)上のマーカーを被験者自身の手でスライドさせる方法で調整させた。対象は、フィートミューラー円上、もしくは等距離円上に提示された。その結果、フィートミューラー円上の対象までの視えの奥行距離は、離心率が大きくなるにつれて減少すること、また、等距離円上の対象までの視えの奥行距離は離心率が大きくなると増大することが、それぞれ有意に示された。また、両眼観察条件と単眼観察条件とでは差が生じなかった。輻輳要因が一定のフィートミューラー円条件では離心率が増すとともに、調節要因の役割が高まるのに対して、等距離円条件では調節要因は一定を保つが、輻輳要因は離心率と共に小さくなる。したがって。両眼視と単眼視条件で差がないという結果は、単眼視では輻輳要因がほとんど働かないので、調節要因が視えの距離を優位に規定すると考えられる。