5.絵画的要因による3次元視

5.1.奥行、明るさそして透明性の知覚に及ぼすオクルージョンの役割
 図14に示されたような主観的輪郭の矩形部分に両眼視差を付して立体視すると、図Bのような立体が出現するが、交差視差(左端と中央のパターンで融合)では、白い矩形面が4つの黒い円盤をもつ白色面を遮蔽するように視えるが、非交差視差(中央と右パターンで融合)では、4つの円形の穴をもつ白色面が白い矩形面をもつ黒色面を遮蔽するように視える。
 交差と非交差視差による奥行出現構造の相違。図15Aの上図、中図のステレオグラムの左と中央のパターン(交差視差)で両眼立体視すると、図Bの上図のように視える(前者の場合には右端、後者の場合には左端)。しかし、同様なパターンを右と中央(非交差視差)で立体視すると、図B下図のように視えてしまう(前者の場合には右端、後者の場合には左端)。これは、矩形の中の縦縞の明るさはサイン波形変化をもち、交差、非交差視差とも同一であるにも関わらず、奥行出現の方向を変えると、交差視差では湾曲した縦棒が矩形の背後に、非交差視差では黒い平板な棒が前面に出現して視えることを意味する。一方、図Aの下図のパターンのパターンでは、「地」となる部分の輝度は、矩形内の格子のサイン波形の輝度変化内にあるので、この場合には、両眼立体視しても複数の奥行に異なる層(レイヤー)は弱くしか出現しないか、まったく出現しない
 これらのステレオグラムは、いずれも、両眼視差を交差から非交差に操作することで、対象同士のオクルージョンの関係が変化し、さらに、そのことで視えの明るさと視えの透明性(transparency)が変化することを示す。Anderson()は、視覚システムが対象の奥行関係から、視えのオクルージョン関係、視えの明るさと視えの透明性がどのようにして規定されるかを考察し、2つの原理を提案した。その1は、両眼視差をもつ輪郭線の隣接部分の明るさコントラストが異なる場合(一方の隣接領域がオクルードされている場合は別の片側領域)、より遠くに配置された輪郭線はこれを囲む領域を取り込んで背景面とするという原理である(contrast depth asymmetry)。
 図16のカニザパターンで説明すると、交差視差では、矩形を表す輪郭線は前面に出現するので、後面の黒色円の輪郭線は自分を囲む2つの白色領域をキャプチャし、非交差視差の場合には、白色矩形が後面に配置されるので、その輪郭線は自分の隣接する黒色面をキャプチャするというわけである。
その2は、視えの透明性に関する原理で、隣接する領域間の連続する輪郭の明るさコントラストの差が全体のパターンのなかでもっとも高い場合には、その領域は平板な面として知覚され、別の隣接する領域間の連続する輪郭の明るさコントラストの差がこれより低い場合には、この領域には複数の層(レイヤー)が出現するというものである(transmittance anchoring)
 図17のAでは、(a)と(b)面間の隣接する明るさコントラスト差がもっとも高いので、これらの面は平面的に知覚され、これより明るさコントラスト差が低い(p)と(q)面には複数の層が出現する。図のBでは、(p)と(q)面間の明るさコントラストがもっとも高いので平面的に視え、(a)と(b)面には複数の層が出現する。図のCでは、(a)と(b)面間と(p)と(q)面間の明るさコントラスト差に差異が無いので、視えの透明性は出現しない。
これらの2つの原理は、3次元構造を持つパターンの視えの透明性と不透明性を一般的に説明できるかは、今後の検証による。