8.その他の研究

8.1 歩行距離知覚におよぼす視覚的手がかりと非視覚的手がかりの比
 歩行距離知覚におよぼす視覚的手がかりと非視覚的手がかりの比較が、Ellard & Shaughnessy(7)によって試みられた。実験は、屋外で4,6,8,10mに目標対象を設定して行われた。視覚的手がかり条件では、はじめに対象を注視し、次いで目隠しをして対象まで歩行することによって目標対象までの距離を再現した。非視覚的手がかり条件では、はじめから目隠しをして目標対象まで歩行し、出発点まで歩行して戻り、その後、直ちに対象まで歩行することによって距離を再現した。その結果、両条件間には歩行距離に差が無く、極めて正確に目標対象までの歩行距離が再現された。そこで、視覚手がかり条件で提示する距離と、非視覚的手がかり条件で提示する距離とを不一致にし、どちらの手がかりが優位になるかを試した。被験者は、はじめに視覚的に目標対象を見て、次いで目隠しをして目標対象まで歩行し、その後、出発地点に戻り、再度、目標地点まで歩行することによって距離を再現した(この逆の手続群も構成された)。実験の結果、被験者達は、視覚的手がかり条件と非視覚的条件とで示された距離が食い違っていることに気がつかなかったが、再現された距離は、視覚的手がかり条件と非視覚的条件との平均となっていることが示された。

8.2 昆虫、鳥類、哺乳類にける運動視差の有効性
 昆虫、鳥類、哺乳類を対象とした運動視差の有効性についてのこれまでの研究がレビューされている(Kral, K. (14))。それによると、ハチ、バッタ、カマキリなどの昆虫類、ハト、フクロウなど鳥類、そしてネズミ、ウサギなど齧歯類は、頭部の運動と奥行視との間に明確な関係が見いだされ、運動視差を奥行手がかりとして利用している。しかし、ウマイヌ、ネコなどの大型哺乳類の一部には、頭部の上下運動が奥行視に役立っていると考えられているが、しかし、未だ十分な証拠はない。
 また、Nieder(15)は、脊椎動物を対象とした3次元視研究をレビューし、運動による形状復元(kinetic depth)と両眼立体視とが相互に関係していることを指摘した。とくに、サル(monkey)は運動による形状復元(ランダム・ドットで提示したシリンダー)が可能であること、神経生理学的研究からもMT野とMST野が運動視差と両眼視差の立体視処理に関係していること、とくに、運動からの形状復元にはMST野が関係していること、MT野は運動視ばかりでなく両眼立体視にも関係していることなどが、これまでに明らかにされているという。