3.1 運動視差による奥行視での奥行安定性、奥行量および随伴運動印象との関係

 運動視差による奥行視は、奥行位置の異なる2つの対象が観察者の頭部運動に随伴して生じるそれらの対象の網膜上の角速度差に起因する。この際、頭部運動に随伴して対象が網膜上を移動するので視かけの運動印象も生起するが、安定した奥行印象も生起する。
 Ono & Ujike(15)は、頭部運動速度、視えの奥行量、視えの運動の関係がどのようになっているかを分析した。実験は、図17に示されたように、ディスプレー上に提示した4本の帯状の刺激が、頭部運動に随伴して互い違いに反対方向に運動する刺激条件で実施された。観察者は水平方向に移動するマーカーの速度に合わせて頭部を左右に運動させて、帯状刺激を観察する。視かけの奥行量と視かけの運動量は相殺調整法(null adjustment、視えている奥行あるいは運動印象が視覚的に視えなくなるように調整させる)で測定され、それぞれの閾値が求められた。頭部運動速度は0.125から60 cm s-1の範囲内で操作され、それぞれの速度での奥行閾と運動閾が測定された。視えの奥行量は、0.2、0.4、0.8、1.6 cmの4種類の奥行量を運動視差でシミュレートして提示し、それらに対する視えの奥行量について頭部運動速度を変えて測定した。この場合の頭部運動速度は、頭部運動に随伴して視かけの運動が生じない範囲とした。その結果、運動印象のない安定した奥行印象を頭部運動速度にともなう運動視差量(両眼視差量に換算)との関係から分析すると、安定した奥行印象は頭部運動速度が奥行閾値と運動閾値(両眼視差量に換算)との間にある場合に生起することが示された。また、視かけの奥行は、頭部運動速度が一定の場合には、運動視差量が小さい場合には、その増大に伴って増量するが、視差量が大きくなると視かけの奥行量が減少するとともに運動印象も随伴することが明らかにされた。これらの結果は、頭部運動速度と運動視差量との関係をみると、運動印象が伴わない安定した奥行印象の生起する領域帯、安定した奥行印象が生じるが奥行量は減じる領域帯、運動印象が伴うが奥行印象も生起する領域帯、奥行印象はなく運動印象のみの領域帯が存在し、これらの領域帯は頭部運動速度と運動視差量で規定されていることが明らかにされている。

 

 2.運動要因による3次元視