3次元視空間の奥行距離知覚


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 発達に伴う視えの奥行距離の変化

 自然環境条件のもと、相当の距離を取った場合、視えの奥行距離の過恒常性が発達要因にともなってどのように生起するかが、Da Silva et al.[4]によってしらべられた。奥行距離は1mから296m、被験者の年齢は5歳から13歳、実験環境はオープンフィールド状のグランドで、実験が実施され、また統制条件として成人が被験者に加えられた。視えの奥行距離の測定は、測定距離の半分に視える距離を被験者に求めるバイセクション法で行われた。
 その結果、すべての年齢で奥行距離の増大に伴って弱い過剰恒常から弱い過小恒常へとシフトすること、とくに児童では成人より長い奥行距離での過小恒常が目立つこと、などが確認された。また、年齢の発達に伴うこのような変化は、奥行距離が短い場合、測定値の変動は5〜7歳でもっとも大きく、年齢が高くなるにつれて小さくなる。長い奥行距離では、過小恒常は5〜11歳でもっとも大きく、成人になるにつれて小さくなる。
  年齢に伴うこのような発達的変化は、空間に関する知識の発達と関連すると考えられるので、年齢に伴う奥行距離の恒常性の変化は、知覚上の問題よりは認知過程の問題と考えられる。

2 視えの奥行絶対距離にあたえる環境的文脈の効果

 視えの奥行絶対距離の測定は、従来、環境的文脈を除去し、観察者と奥行対象との間に何も存在しないような空間、たとえば広いグラウンドあるいはフィールドで実験が成された。この場合、日常のありふれた空間に存在する建物、街灯などの構造物、樹木、草花などの自然物が排除されてしまい、人間の視えの奥行距離を自然な状態で測定することにはならない。
  そこで、Lappin et al.[16]は、日常よく眼にする空間での視えの奥行絶対距離の測定を試みた。日常空間として3種類、大学内のロビー(42m×5.4m×4.7m)、廊下(76m×1.8m×2.6m)、芝生広場(55m×48m)である。ロビーには、大きな窓、柱が規則正しく配置され、階段、室内園芸樹などが置いてある。廊下は長細い空間で壁と壁に沿ってドアが連なっている。芝生広場は正面に建物、樹木があるが、側面には何もない。視えの奥行絶対距離は15mと30mの2条件で測定された。測定方法は、バイセクション法、すなわち、対象距離の半分に知覚される距離を観察者(8名)に求める方法で実施された。
  実験の結果、ロビー、廊下、芝生広場における視えの奥行絶対距離の誤差は、それぞれ13.0,8.0%、3.2%になった。奥行距離が正確に見積もられていれば0%となるので、この結果は過大視が生起していることを意味する。
  視えの奥行絶対距離は、これまで過小視されると言う研究結果が多いので、本結果はそれとは異なった。とくに、環境文脈が豊かなロビー条件で過大視がもっとも大きく、環境文脈が乏しい芝生広場で小さいことは、環境文脈が視えの奥行絶対距離に影響を及ぼしていることを示唆する。

4.3 両眼立体視力の弱い者のバーチャル・リアリティ空間でのパフォーマンス

 バーチャル・リアリティ空間(VR空間)でのパフォーマンスが両眼立体視力との関係でしらべられた(Hale & Stanney[9])VR空間は29部屋と3つの長い廊下を持つ迷路事態であり、ヘッドマウントディスプレーに提示された。被験者には、物体の移動課題(マウスでものをつかみ、ドラッグして別の場所に置く)、バスケットボール課題(ボールをつかみゴールに入れる課題)、挿入課題(3つの中からひとつのものを選んでつかみ、それを所定の場所に押し込む課題)および歩行課題(被験者自身がホールを通り、部屋から部屋へ移り、90度回ってから幾分高い位置にある部屋に移る)を課した。
 被験者は健常な両眼立体視力をもつ者と通常以下の立体視力と判定された者である。判定はTitmus テストで行われた。実験の結果、立体視力が劣る者は、観察者が静止して対応する課題(物体の移動、バスケットボール課題、挿入課題)、および被験者が移動する歩行課題で、健常者と比較して差はみられなかった。また、VR酔いなども両者には差が生じなかった。
  このことから、両眼立体視力に劣る者も、VRで提示されたエンターテイメントに、普通に参加できると考えられる。