運動要因の立体視文献

1 大きさと奥行距離知覚におよぼす運動視差とパースペクティブ要因
 大きさと奥行距離知覚は、網膜像の大きさを初期手がかりとし、それに奥行距離知覚に関係する奥行手がかりの諸要因が関与して成立する。これまでは、大きさ知覚に与える奥行手がかりの単独効果をしらべる研究が多かったが、それらの奥行手がかりがどのように統合されて大きさ知覚を成立させるかを、これからは、吟味する必要がある。 
  そこで、運動視差とパースペクティブ要因がとりあげられ、それらの単独の効果と統合の効果とがしらべられた(Tozawa & Oyama [22])。運動視差は、標準刺激と比較刺激(楕円形状の円盤)間の運動速度(標準刺激の速度を1とし、その2,3,4倍)を変化することによって、またパースペクティブ要因は2つの刺激間の相対的な高さ(標準刺激の234倍)と水平線に対する標準刺激の絶対的な高さ(標準刺激の高さを1,2,3cm)を変えることによって手がかり効果が誘導された。実験では、これら3種類の手がかり効果がすべて働く事態、水平線を除去した事態、そしてこれら3種類の手がかりが単独で働く事態が設定された。刺激は、コンピュータで制御し、ディスプレーに提示された。観察者は、標準刺激に対する比較刺激の視えの大きさを標準量を100とする量推定法で評価した。
 観察の結果、(1)大きさの評価では、運動視差要因の方がパースペクティブ要因より奥行手がかり効果が高いこと、(2)奥行距離評価では、運動要因とパースペクティブ要因とは同等の奥行手がかり効果をもつこと、(3)大きさ評価には水平線が大きな手がかり効果をもつが奥行距離評価にはもたないこと、(4)大きさ評価には水平線と相対的高さの組み合わせたパースペクティブ要因で手がかり効果が高いが、奥行距離評価では絶対的高さと相対的高さの相互作用による手がかり効果の影響を受けること、などが明らかにされた。
 これらの結果から、視覚システムは大きさ知覚と奥行距離知覚を分離して処理し、その際に働く奥行手がかりはそれぞれの知覚で異なっていることが示唆される。そして、このことは、「大きさ−距離不変仮説」をも支持する。