4.3次元視における視空間特性

4.1 知覚の功利的特性

  知覚的功利的特性とは、人間の基本的な知覚原理は行動のためにコストを低くし最大の成果を得るように外界を認知するしくみをいう。Ramachandran(1989)によれば、視覚システムは、外界を成立させている基本原理にしたがって、いくつかある可能性に拘束をかけることでもっとも速く適切な知覚的解決をする戦略をとるという。これが可能なのは、外界が任意の法則で支配されているのではなく、規則性のあるしくみで支配されているからであり、視覚システムは眼前で起きている現象について、その都度それを支配する知覚的仮説を立てる必要がなく容易に既成の仮説を適用できる、とされる。
  Uemura, et al.(28)は、視覚システムのとるこの種の戦略の妥当性を視覚的探索課題で検証した。実験は、32に示したように、バーチャル・リアリティの手法を用いスクリーンに視覚探索課題を投影し、両眼立体視できる事態で実施された。スクリーンに投影する3次元映像は被験者の眼球レベルに対して仰角(18度)と俯角(18度)を設定して投影された。3次元画像内には、上方向から観察した立方体(陰影は下方)と下方向から観察した立方体(陰影は上方)とを床面上で奥行方向に配置した。配置した立方体は6個とし、5個は上/下方向のいずれかから観察した立方体を、1個はそれとは逆方向から見た立方体を配置した。視覚探索課題は陰影の方向の違う1個の立方体の探索で、実験ではその探索時間が測定された。もし観察視点が仰角であれば、上方向/下方向を向いた対象の中に存在する下方向/上方向を向いたターゲットがそれぞれ探索されやすくなると予測される。しかし実験の結果、下方向を向いた対象のなかに上方向を向いたターゲットがある場合に観察視点に関係なく探索しやすいことが示された。しかし観察視点が仰角で探索対象の陰影とパースペクティブが観察視点と一致している場合には、上方向を向いた対象の中に下方向を向いたターゲットがある場合には、下方向を向いた対象の中に上方向を向いたターゲットがある場合と同程度の効果的な視覚探索が示された。
  これらの結果は、いま見ている光景の観察視点が仰角であると視覚システムが仮定した場合には、対象の持つ陰影、パースペクティブに影響を受けずに、その態度を維持するようにプログラムされていると考えられる。上方向の対象の中に下方向のターゲットがある場合には、視覚システムはさらに高次の情報処理過程を働かさなくてはいけなくなる。つまり、仰角の観察視点は、一種のデフォルトのように視覚システムに組み込まれていて、このようにした方が視覚的探索での情報処理過程を簡略化し効率化できると考えられる。