眼球調節と輻輳作用

手がかり数の加減操作における眼球調整作用と両眼輻輳作用
 対象の明瞭度(ボケの程度)、両眼視差、対象の視角の3手がかり要因を加減した条件下で眼球調節作用と両眼輻輳作用とがどのように変化するかを、Horwood & Riddell(10)はしらべた。手がかり条件は3要因が機能する条件をベースに、それから1要因を減じた条件(3条件)、3つの手がかりがそれぞれ単独で機能している条件(3条件)、および刺激にDOS関数刺激を用いて刺激明瞭度を除去した条件の計8条件である。刺激対象は、0.250.330.5、1,2mの観察位置に提示され、また調節と輻輳の測定は、ハプロスコープ型の刺激提示装置を利用したフォトリフレクターで、18歳から24歳の大学生で健常眼の持ち主でしかも今回の実験に予備知識がない被験者を対象に実施された。
 実験の結果、観察距離に伴う眼球調節と輻輳作用は、(1)両眼視差が存在する条件では、対象の明瞭度を操作した条件や対象の視角を一定にした条件でも、すべて正確に変化すること、(2)両眼視差が単独で機能している場合にも正確度は変わらないこと、(3)対象の明瞭度要因や視角一定操作条件がそれぞれ単独で機能している場合には正確度は劣化すること、が明らかにされた。また、個人差も顕著で、観察距離に伴う眼球調節と輻輳作用は、(1)両眼視差が除去されると減じるタイプ、(2)すべての手がかり条件で正確度が高いタイプ、(3)調節作用の機能が悪いタイプ、(4)何らかの手がかりが除去させると正確度は落ちてしまうタイプ、(5)調節作用のみが手がかり条件に対応して変化するタイプ、に分類できた。
 この結果は、眼球調節と輻輳作用の測定や診断の基礎的なデータとなる。


乳児における眼球調節と両眼輻輳の潜時
 眼球調節と両眼輻輳は協調して作用する。単眼視の場合、両眼視差の手がかりが存在しなくても眼球調節は両眼輻輳と連動(調節的輻輳作用)し、その逆にボケが生じて調節作用にすぐには作動しなくても輻輳作用は調節作用と連動して変化(輻輳的調節作用)する(Maddox 1887)。もし出生後、このような調節と輻輳作用が正常に働かないと、その発達は阻害される(Banks, Aslin, & Letson 1975, Birch & Stager 1985)。調節と輻輳作用が単独であるいは協調して正常に機能するのは発達的にいつ頃かをしらべるには、それぞれの作用が作動するまでの潜時を指標として推定することができる。Heron et al.(2001)の成人を対象とした研究によれば、調節作用単独条件では遠対象から近対象の場合317ms、近対象から遠対象の場合301ms、調節的輻輳作用条件では遠対象から近対象の場合148ms、近対象から遠対象の場合168ms 、輻輳作用単独条件では遠対象から近対象の場合132ms、近対象から遠対象の場合116ms 、輻輳的調節作用条件では遠対象から近対象の場合362ms、近対象から遠対象の場合272msである。乳児の場合にも、手がかり縮減条件と手がかり自然条件(すべての手がかりが存在する条件)とで、4種類の調節と輻輳作用の潜時を比較すれば、その発達過程を分析することができる。
 Tondel et al.(22)は、6週齢から23週齢の乳児を対象に両眼輻輳条件(両眼視で奥行方向に移動する対象を観察)、単眼輻輳条件(片眼で奥行方向に移動する対象を観察)、両眼調節条件(ボックス状の装置のなかに対象となる刺激を提示、観察は両眼視で奥行位置固定の対象を注視、対象にはDOGによるパターンを提示、片眼の前にプリズムを設置し両眼視差を変えることで輻輳角を変化)を設定、両眼輻輳条件と単眼輻輳条件は21-Aに示した装置で、両眼調節条件と単眼調節条件は図20-Bに示した装置で、フォトレフレクターを用いて調節と輻輳作用を測定した。対照群として成人4名についても同様な測定を実施した。
 実験の結果、両眼輻輳条件で近対象から遠対象に移動する対象を観察した場合の乳児の調節作用の潜時は617(成人517)ms、その際の輻輳作用の潜時は951(成人487)ms、遠対象から近対象に移動する対象を観察した場合の調節作用の潜時は692ms(成人221)、その際の輻輳作用の潜時は830(成人208)msであった。また、片眼輻輳条件で近対象から遠対象に移動する対象を観察した場合の調節作用の潜時は779(成人319)ms、その際の輻輳作用の潜時は1215(成人746)ms、遠対象から近対象に移動する対象を観察した場合の調節作用の潜時は844(成人163)ms、その際の輻輳作用の潜時は1157(成人417)msであった。さらに、両眼調節条件で近対象から遠対象に移動する対象を観察した場合の調節作用の潜時は1302(成人544)ms、その際の輻輳作用の潜時は927(成人185)ms、遠対象から近対象に移動する対象を観察した場合の調節作用の潜時は1185(成人556)ms、その際の輻輳作用の潜時は1192(成人334)msであった。これらの結果は、乳児の調節と輻輳の潜時の間には強い相関があることを示した。
 これらの結果から、7から23週齢の乳児は自然な手がかり条件で両眼観察した場合、調節と輻輳の起動のための潜時は1秒以下であること、またボケ駆動の調節、両眼視差駆動の輻輳、そしてこれら協調しての反応潜時もすべて1秒以下であることから、眼球の焦点調節作用と両眼の対象に対する輻輳作用とは視覚経験を通して発達し精緻されていくと考えられる。