1.両眼立体視

1.1.両眼視野闘争

輝度、色、運動およびフリッカーの両眼視融合−両眼視は単眼視より対象検出が悪いか−
 もし赤色のスポットのなかに黄色のスポットの十字形が埋め込まれたパターンを片眼に、緑色のスポットのなかに黄色のスポットの十字形が埋め込まれたパターンを他眼に提示し両眼視すると、すべてのスポットは黄色に視えるが十字形は視えなくなる。これは、ある情報が視覚システム内で伝達されていく中で顕著な情報が検出され受容されるが、非本質的な情報は棄てられることを示す。運動要因に関しては両眼は片眼と同程度の検出能力をもつ(Tyler & Cavanagh 1991)が、ランダム・ドット・ステレオグラム(RDS)では、片眼では形状と奥行ともに検出が不能である(Julesz 1971)RDSの場合、片眼に入力された情報は初期過程では失われるが、両眼視過程で復活するとも考えられる。単眼視過程で利用可能な情報が、両眼視過程で利用できたり利用できなかったりするのはどうしてなのか。Anstis & Rogers(2)はこれを実験的に検討するために、Triesmanがおこなった知覚的ポップアウト(pop out)を利用した。1には、単眼視と両眼視での検出過程をしらべるための刺激が示されている。左眼のパターンは灰色のスポットを背景に明るいスポットの右上から斜め左下がりの帯状刺激を、右眼には明るいスポットを背景に灰色のスポットの右上から左下がりの帯状刺激をそれぞれターゲットとして提示する。被験者にターゲット刺激のグレイレベルを段階的に変化して提示することで、ターゲットの検出閾値を両眼視と単眼視でそれぞれ測定した。ターゲットとして、輝度の他に色(黄色と緑)、運動(左と右方向、上と下方向)、残像(緑とピンク)、フリッカーを設定した。
 実験の結果、(1)単眼視でのコントラスト閾値は0.173、両眼視のそれは0.377(2)緑と黄色の場合、両眼視での色検出は単眼視よりCIE座標軸で6.5倍の色距離が必要、(3)彩度を固定した場合、両眼視は単眼視より3.6倍、その検出精度が低下、(4)オレンジ色あるいはライム色(緑)の背景下、黄色のターゲットの検出では、両眼視は単眼視より4.7倍の色距離が必要、(5)/右の運動検出の精度は、両眼視では31%、単暗視では95%、また上/下方向の場合には、その検出精度は両眼視では20%、(6)残像実験の場合、両眼視下では単眼視での残像は消失していたが、被験者は単眼視の残像があると報告、(7)点滅頻度が左右眼で反対のフリッカーの検出閾値は、両眼視0.17、単眼視0.37で両眼視が優位、となった。これらのことから、各眼からの刺激情報は両眼視過程に伝達される間に棄てられ、各眼の刺激情報の平均値のみが保持されると考えられる。この点からステレオ視を考えると、各眼からの情報はいったん抑制された上で両眼視過程で可能な限り統合され、ひとつの3次元対象として復元されるということになろう。

両眼立体視と視野闘争の同時生起
 視野闘争では片眼のステレオグラムは他眼のそれによって抑制されるので、両眼立体視と視野闘争は同時には共存しないというのが定説である(Blake 1989, 2001; Harrad et al 1994; Hayashi et al 2004)。しかし、両眼立体視と視野闘争には空間周波数チャンネルが関与しているので、立体視と視野闘争の空間周波数チャンネルが異なれば、同時共存は可能とも考えられる(Blake et al 1991)Buckthought & Wilson(2007)は、立体視と視野闘争の刺激パターンの空間周波数が等しくても、それらの同時共存は可能なことを報告した。各眼への異なる刺激がそれぞれ別々に処理され、次いで統合されて知覚されることは多く報告されている。たとえば、各眼の色刺激が異なる場合、片眼の色刺激が他眼の形状刺激と結びついて知覚される(Holmes et al 2006; Hong and Shevell 2009)、あるいは各眼の運動刺激の色が異なる場合、片眼の色は抑制されるが運動は各眼からの刺激が統合されて知覚される(Carney et al 198)、さらに各眼へのグレーティングパターンの運動方向が異なる場合、片眼のパターン刺激は抑制されるのに、運動は左右眼からの運動方向の違いを統合して知覚されるAndrews and Blakemore 1999, 2002; van Boxtel et al 2008)。これらは、各眼への入力刺激が異なるので各眼で別々に情報処理されても、それらの異なる情報を統合する過程が存在することを示唆する。
 そこで、Buckthought & Mendola(5)は、2に示したようなグレーティングパターンから作成されたステレオグラムを用いて、両眼立体視と視野闘争の同時共存の過程を分析した。両眼立体視と視野闘争の条件は、通常のステレオグラムで立体視が出現(a)、視野闘争のみが出現(b)、のパターンで、両眼立体視と視野闘争が同時に出現(c(a)パターン+(b)パターン) である。さらに両眼立体視と視野闘争が同時に出現する条件では、それらの出現確率を等価にした条件、立体視が優位に出現する条件、視野闘争が優位に出現する条件が設定された。被験者には、キーボードのキー操作を通して観察時間90秒間の立体視、視野闘争を報告させた。
 実験の結果、両眼立体視と視野闘争が同等に出現するように設定されたステレオグラムでは、それらが同時に同等に出現すること、また一方の出現を弱め他方を強めたステレオグラムでは、一方の出現が抑えられ他方が高進する逆相関の結果が得られた。これらの結果から、両眼立体視と視野闘争過程は知覚的に同時共存できること、さらにこれらの知覚的同時共存は、両眼立体視と視野闘争の出現がそれらを誘導するパターンの刺激強度に依存することから、それらに対する知覚的な注意過程が関係することも示唆されている。

低空間周波数における両眼間の空間周波数次元での転移効果
 視覚系は、サイン波形格子刺激に視覚順応すると、類似した方向と空間周波数をもつ高コントラスト刺激提示に対しての感受性を低下させる(Blakemore & Campbell 1969)。この結果は、視覚系の情報処理を担う視覚チャンネルあるいは帯域濾波器が順応刺激で疲労し、その結果としてその帯域内の感受性を鈍くさせ、テスト刺激の閾値の上昇を起こすことを示し(Meese & Holmes 2002Webster 2011)、また、この種の順応効果は眼球間で転移することも示されている。この眼球間の視覚転移量{転移量=100×(両眼転移量/片眼転移量)、転移量は閾値の上昇で測る}はおおよそ60%である (Blakemore & Campbell 1969)。この転移量から、眼球間転移は両眼からの視覚情報が結合された後で生起していることを示唆する。一方、低空間周波数の順応刺激では転移は50%以下であることも報告された(Falconbridge et al.2010, Meese & Baker 2011)。しかし、これまでの視覚順応実験では、刺激は持続的に提示され、その時間要因は操作されてこなかった。
 そこで、Baker & Meese(4)は、順応実験で順応刺激の空間的周波数と共に時間的周波数も操作し、両眼間転移効果がどのように推移するかをしらべた。3には、両眼間転移実験に使用したガボール・パッチのテスト刺激(a)と順応刺激(b)、およびそれらの刺激パターンの時間周波数(c)が示されている。順応刺激とテスト刺激は水平のガボールパターンで、その空間周波数を0.528 c/deg3段階に変化させ、またその時間周波数を1415 Hz3段階に変化させた。被験者には、時間周波数をどれか一つに固定し空間周波数をすべて変化させた実験条件で測定、また空間周波数を一つに固定し時間周波数をすべて変化した条件で測定した。9人の被験者の測定条件を合計すると9通りとなり、空間周波数と時間周波数すべての条件を測定できる。測定は時間的2肢強制法(時間的に前後して提示した2つの刺激条件の違いを反応させる)で実施した。すなわち、80%の明るさコントラストをもつフリッカーする水平格子の空間周波数パターンを順応刺激として2分間提示後、テスト刺激を400ms提示する条件、および400msには何も刺激を提示しない条件を設定し、どちらの条件にテスト刺激が存在したかを報告させた。テスト刺激を探索できるか否かの閾値は、テスト刺激の明るさコントラストを変化させて測定した。両眼間転移量を算出するために、視覚順応の無い事態での各眼の探索閾値、両眼視による探索閾値もあらかじめ測定しておいた。
 その結果、両眼間転移は空間周波数が増大するほど多くなる(8 c/deg1 Herz条件で最大の転移量42%が示された)が、空間周波数0.5c/degでは無くなることが示された。また、空間周波数と時間周波数の比をとって両眼間転移をしらべると、「時間周波数/空間周波数」比が大きくなると両眼間転移は減少した。これは、単眼視と両眼視の処理過程における大細胞(Magno)と小細胞(Parvo)の働きが関係することを示唆する。4には、異なる空間周波数刺激への順応に対する単眼視と両眼視の処理過程が、高空間周波数の場合(a)、低空間周波数の場合で1出力の条件(b)、低空間周波数の場合で3出力の条件(c)に分けて示されている。高空間周波数条件の場合には単眼視と両眼視の両過程で順応が生起することを仮定する。従来の研究結果および今回の実験結果はこの仮定で説明できる。一方、低空間周波数条件の場合には、順応が単眼視過程にしか生起しない場合(b)と単眼視過程と両眼視過程の両方に生起する場合(c)が仮定できる。前者の場合には、両眼視過程で順応が生起しないので両眼間転移は生じないことになる。後者の場合には、左右の各眼過程と両眼過程から出力されることを想定しているので、順応は順応した方の単眼と両眼で生起し、その効果は順応しない方の眼を除いて生起することになる。この仮説によれば、順応刺激が高空間周波数刺激の場合には眼球間転移が必ず生起することを、低空間周波数の場合には順応は単眼視過程のみ、あるいは単眼視と両眼視の両過程で生起するが、眼球間転移は順応眼側の過程のみで生起することを予測し、これはBaker & Meeseの実験結果とも一致する。

視野闘争に関わる刺激の物理的方向と知覚的方向
 視野闘争を引き起こすものが、物理的要因なのかあるいは知覚的要因なのかは定かではない。たとえば、図の(b)にあるような左右への方向が異なる斜線分を左右眼にそれぞれ提示すると、奥行方向への3次元視が出現するが、この斜線分の方向差(方向視差)を大きくすると視野闘争が起きる。この場合、斜線分の方向差は物理的差かあるいは知覚的差かはいまだ確かめられていない。
 そこで、Chopin et al.(6)は、ツェルナー錯視を利用しこれの検証を試みた。ツェルナー錯視とは5(a)にあるように、平行な斜線分に短線分で区切りをいれると斜線分の平行が歪んで知覚される。また左右眼に斜線分方向が反対の斜線パターンを両眼融合すると奥行方向に傾斜した3次元視が出現する(図bc)。実験では図5(d)(g)に示したように、斜線分に誘導短線分を付加して角度の逸脱度を変化させ、融合から闘争への移行過程がしらべられた。被験者に方向視差を両眼立体視可能な範囲から視野闘争が起きるまで段階的に変化させて提示し、その融合から闘争への移行点が求められた。その移行点は被験者に視えの奥行方向(奥行方向が手前に傾斜、あるいは向こう側に傾斜)を識別させることで測定された。
 その結果、誘導短線分を追加したツェルナー錯視条件での融合−闘争移行点は、ノーマルな斜線分条件のそれに較べて変化することが示された。これは融合もしくは闘争を生起する方向視差が物理的角度ではなく知覚された角度に依存することを示唆する。

視野闘争でのランダムな方向をもつエッジの優位性
 自然シーンではエッジの方向は規則的に配列されていて、これが形状認知の重要な手がかりとなる。この種のエッジの規則的配列には、線になるようなエッジの共有(co-linear)、円になるようなエッジの共有(co-circular)などが挙げられる(Sigman et al.2001, Geisler et al.2001)
 Hunt et al.(8)は、エッジが円になるように配列されたとき、特徴検出で顕著な優位性があるかどうかを、視野闘争現象を利用して確かめた。視野闘争では、両眼への刺激パターンに相違がある場合、明るさコントラストなど刺激強度が高い方が視える時間が長くなる視野闘争優位性がある。そこで、6に示したように、視野闘争刺激はガボールパッチ(300個)を確率的に配置したパターンで、エッジの方向が異なっている。図Aではエッジの方向が単一で共通、図Bではエッジが円を形成するように配列、図Cでは自然シーンにおけるエッジの配列、Dではエッジの方向がランダム、にそれぞれ設定された。実験は、ランダム方向パターンと他の3種類を視野闘争刺激として組み合わせて40秒間提示し、その間に出現する視野闘争優位性を測定した。
 その結果、ランダム方向パターンが他の方向パターンに対して視野闘争で優位に出現することが示された。初期視覚処理過程では、エントロピー(情報量)の大きいランダム方向パターンが知覚的に注意を顕著に喚起する特性をもつと示唆される。

1.2.視差の検出過程
面のエッジによる視差勾配拘束の低減
 両眼視差量がある限界を超えると両眼視融合よりは二重視が起きてしまう。これまでの研究から融合限界は、中心視でドットや線分でステレオグラムが構成されている場合には15′程度で、それは中心視から周辺視になるにつれて増大すること、さらに低空間周波数の振幅が大になると増大し、高空間周波数の振幅に伴って減じることがわかっている。両眼融合限界は、2つの異なる両眼視差をもつ対象間の分離度(視角)によっても変化する。これは視差勾配の拘束条件として定式化されている(7)。視差勾配は次式で表される。

視差勾配は、図7の右欄に示されたように、2組の対象の視差の差分をそれらの間隔距離で除して得られる。もし、2組の対象の相対的視差が同一でも、それらの間隔距離が増大すれば(図の左欄)視差勾配は比例的に小さくなる(図の中欄)。視差勾配値が1より大きい場合には二重視となる(Burt & Julesz 1980)が、この結果はターゲットが単独で提示された場合にあてはまり、ターゲットが面を構成する一部として組み込まれて提示された場合にも当てはまるのかは検討されていない。
 そこで、Marlow(12)は、2組のターゲットの視差勾配値が1を超えた場合でも、それが面を構成する場合には融合できるかをしらべた。高い視差勾配値でも両眼融合が可能な場合には、2種類の仮説が考えられる。その1は、片眼抑制仮説で、二重視を避けるために片眼からの入力刺激を抑制するが、この場合抑制された側の眼はステレオ視には機能していると仮定するものである。片眼抑制の場合のターゲットの視方向は抑制されていない側の刺激によって決められる。その2は、融合仮説で、各眼からの刺激入力に基づいて融合が生起するが、そのとき、ターゲット刺激の視方向は各眼からの刺激の平均になると仮定する。これまでの研究では、視差勾配が高い場合の融合が片眼抑制によるのか、あるいは両眼刺激の融合によるのかは不明である。8に示したようなステレオグラムで両仮説のいずれが妥当かがしらべられた。図8の上図には相異なる視差をもつ2つのターゲット(矩形)で、ターゲット間の距離(vertical separation)21′の場合(視差勾配が1以下)が、中図には同様な条件でターゲット間の距離が5′の場合(視差勾配が1以上)が、下図には中図と同様な布置にあるターゲットに市松パターンを付加して面を形成した場合が示されている。これらを両眼立体視すると、ターゲット刺激が単独に提示された場合(上、中図)には視差勾配の拘束が成立するが、ターゲット刺激が面を構成する一部に組み込んだ場合には、それが不明である。2組のターゲット刺激のうち、上方のターゲットの視差は5101529′に、下方のそれは視差0(スクリーンの中心)にそれぞれ設定された。また、視差勾配は、2つのターゲット間距離を5′に設定すると、1235.8となり、21′の場合0.240.470.711.4となる。市松状に付加した刺激の視差はターゲット刺激と同一に設定された。さらに、二重あるいは融合されたターゲットの視方向を測定するために、ターゲット刺激のさらに下方に比較刺激に使用するターゲット刺激と同形の1組の刺激(大きさと輝度はターゲットと同等)を提示し、その視差を0に設定した。被験者には、キーボードのキーを操作して比較刺激を水平方向に移動させ、二重視の場合には左側に視える方のターゲットに視方向を一致させるように教示した。
 実験の結果、ターゲット刺激が面を構成する一部に組み込まれた場合には、視差勾配が2でも両眼融合が多く生起すること、またターゲットの視方向は両眼からの刺激方向の平均をとることが示された。さらに、ターゲット刺激と付加刺激との明るさコントラストが正反対の場合、さらに付加刺激の明るさコントラストが低い場合には、融合促進効果が低下した。面の一部としてターゲット刺激がある場合には、それが単独に提示された場合と異なり、視差勾配の拘束条件からはずれて両眼視融合を可能にさせること、また融合は片眼抑制仮説によるのではなく融合仮説によって成立することから、視差勾配による拘束と面やテクスチャなどターゲットのサポート刺激との間には、両眼視融合に関して密接な関係があることを示唆する。

1.3.両眼視差からの立体の復元
hollow-face錯視におよぼす背景シーンの正常/逆転視差の効果
 Matthews et al.(13)は、hollow-face錯視とその錯視の対象となる顔頭部の背景シーンとの関係を検討した。ここでは顔頭部と背景シーンとがそれぞれ独立にその両眼視差が操作された。すなわち、顔頭部を正常視差(凸面)と逆転視差(凹面)に、背景シーンを正常視差(半身像の背後に背景が出現)と逆転視差(半身像の前に背景が出現)に、それぞれ別々に操作し、背景シーンがhollow-face錯視におよぼす効果をしらべた。9は、実験に使用されたステレオグラムで、自然なシーンを背景とした顔頭部を含む半身像のステレオグラムである。ステレオグラムのL-Rは凸面の顔が出現、R-Lは凹面の顔が出現するように頭顔部の両眼視差を操作した。背景となるシーンは黒色(a)、自然なシーン(b、c)とし、自然なシーンでは、ステレオグラムL-Rに正常な視差(b)と逆転視差(c)を、またR-L に逆転視差(b)と正常視差(c)をそれぞれ設定した。
 観察の結果、顔頭部の視差が正常な場合には背景シーンが自然でもあるいは逆転条件でも顔頭部は凸面に知覚できること、また顔頭部の視差が逆転の場合でも、背景が自然なシーンとなる視差条件では顔頭部の視かけの凸面が、逆転視差による背景シーンや黒面シーンより強く生起することが示された。これらの結果から、背景となる自然シーンのリアルな3次元性は顔頭部の対象にも伝搬し、その知覚的凸性を促進すると考えられる。

両眼視差と運動要因による3次元形状の識別と加齢
 Norman et al.(15)は、両眼視差あるいは運動要因によって出現させた3次元形状知覚が加齢によって劣化するかをしらべた。実験では、10に示したような3次元形状パターン(周囲にリング、中心に牛の目玉模様のあるパターン、Bull's Eye)を用い、それを構成するドットのコヒーレンス度を変えることで、3次元形状が識別可能になる閾値を求めた。ここで言うコヒーレンス度とは、3次元形状面を構成するドットを55%に、3次元形状面以外の領域のドット(ノイズ)を45%に変えることである。3次元形状は、両眼視差、動的両眼視差(dynamic binocular disparity)、運動要因によって出現させた。
 実験の結果、コヒーレンス度を45%に落としても、年長者、若年者ともに3次元形状を識別可能であったが、しかし年長者は若年者よりいコヒーレンス度が必要とされ、年長者と若年者間では有意な差も示された。静的両眼視差および運動視差条件間には3次元形状の識別で差がないが、動的運動視差条件はこれらの条件に較べて優れていた。このことから、年長者の両眼視差と運動要因からの3次元形状形成能力は加齢に伴って減退すると考えられる。