1. 両眼立体視

1.1.視野闘争
クラウディング(crowding)と視野闘争(rivalry)
 クラウディングとは、対象の同定(identification)が視野の周辺に並置された複数の妨害刺激によって損なわれることを指す(Levi 2008, Whitney & Levi 2011)。これは周辺に刺激が配置されたことによる視力の低下によるものではなく、ターゲット刺激と妨害刺激間の距離が関係する(Pelli & Tillman 2008)。クラウディングは、妨害刺激がターゲット刺激の信号、あるいは特徴の不適切な統合をによって生起する(Bi et al.2009, Blake et al.2006, Chakravarthi & Cavanagh 2009, Freeman et al.2011,Greenwood et al.2012)。特徴検出モデルによれば、クラウディングは、ターゲットの特徴が失われるのではなくターゲットの検出された特徴が隣接する妨害刺激のそれと不適切に平均化されるために生起すると説明する(Parkes et al.2001)。一方、視野闘争は両眼への刺激が異なる場合に生起し、とくに刺激コントラストを両眼間で相違させる方法で視野交替の特性がしらべられてきた。
 そこで、Kim et al.(22)は、クラウディングと視野闘争を組み合わせた実験事態でクラウディングに及ぼす視野闘争の影響をしらべた。刺激パターンは、図1Aに示したように、サイン波形のグレーティングパターンで、コントラストの低いターゲットおよび同様なパターンでコントラストの高いフランカー(妨害)刺激からなる。ターゲット刺激のグレーティング方向は垂直を0度として左右2度のステップで2段階ずつ計5種類が設定された。刺激パターンはステレオスコープに提示されるが、各眼それぞれの左端には注視点と両眼融合のためのマークが提示され、右端には中央にターゲットをその周辺にターゲットを囲むようにフランカー(妨害)刺激を配置 (図1B)した。この場合、ターゲットと周辺刺激を同一眼に提示する条件と、片眼にターゲットを他眼に周辺刺激を提示する条件とを設定した。両眼視野闘争条件では、図1C に示したように、優位眼の右端にターゲット刺激を、非優位眼のその位置には視野闘争を起こすグレーティング方向と明るさコントラストの異なるフランカーをひとつ配した。被験者には、ターゲットのグレーティング方向の傾きが左あるいは右のいずれであるかの判断を求めた。
 その結果、片眼にターゲット刺激を他眼にフランカーを提示した条件ではターゲットとフランカーを同一眼に提示した条件よりクラウディング効果は大きいことが示された。  
 次に、クラウディング効果が視野闘争下ではネガティブであることが、図2の条件で検討された。実験条件は3通りで、図2(A)には、優位眼の右端の中央にターゲットをその周辺にフランカー(妨害)刺激を提示、非優位眼には右端には刺激を非提示した事態でのクラウディング条件、(B)優位眼の右端の中央にターゲット刺激を、非優位眼の右端には垂直グレーティング方向をもつフランカーを提示した事態でのクラウディング条件、(C)優位眼の右端の中央にはターゲット、その周囲にフランカーグレーティング方向がターゲットと同一のフランカーを、非優位眼には優位眼とは異なる垂直のグレーティング方向をもつフランカーのみを提示しフランカーが視野闘争するする事態でのクラウディング条件である。被験者には、ターゲットのグレーティング方向の傾きが左あるいは右のいずれであるかの判断を求めた。
 その結果、左右眼のフランカーのグレーティング方向が異なるために視野闘争が生起しフランカーによる妨害が抑制されているにも関わらず、クラウディング効果が示された。この結果はフランカーによる妨害が低いにもかかわらずクラウディング効果が示されたことを意味する。
 これらの結果をまとめると、クラウディング条件と視野闘争条件とが組み合わされた事態ではクラウディング効果が増強して生起することから、両要因は相互に影響していること(実験1の結果)、またフランカーによる妨害が抑制された事態でも生起すること(実験2)からクラウディング効果は不適切な特徴統合が関与することを示唆する。

ダイナミックな周辺刺激を導入した視野闘争における知覚優位
 左右眼に入力する刺激が異なる事態は日常でも起きているが、このような日常場面では視野闘争が生起しない。これは、視覚システムに視野闘争を抑制するしくみがあるからと考えられている。このしくみには眼球運動が関係し、眼球運動が1秒間に3回程度網膜像をリフレッシュするので視野闘争を生起する時間的余裕を与えないと考える (Otero-Millan et al. 2008, Arnold 2011, O’Shea 2011)。この考え方には、網膜像のリフレッシュが視野闘争誘導の時間的余裕を与えないという問題、およびリフレッシュが視野闘争を抑制するという問題が絡んでいる。
 Takase et al.(45)は、網膜像のリフレッシュが視野闘争を減じるかを、視野闘争を起こす静止したターゲット刺激の周囲にダイナミック刺激を導入することで検討した。こうすると、周辺刺激はリフレッシュされるが、ターゲット刺激は静止しているのでリフレッシュされず、網膜像のリフレッシュが視野闘争に与える効果をしらべることができる。図3には、視野闘争パターンとその周辺に導入したダイナミック刺激が示されている。ターゲット刺激は左右眼で方向が直交する静止したサイン波形のグレーティングパターンで、その周辺刺激には黒と白の小円形をドット状に不規則に配列し、両眼共に50 msごとにフリッカーさせる条件(図a:両眼フリッカー条件)、および各眼でのフリッカーを交替させる条件(図b:眼球間交互フリッカー条件)が設定された。この2条件の他に、静止したターゲット刺激と静止した周辺刺激の条件(周辺刺激静止条件)、および周辺刺激がなくターゲット刺激のみの条件(周辺刺激の無い条件)が統制条件として加えられた。被験者には、知覚的交替が生起するごとに知覚しているグレーティングパターンの方向(時計方向、あるいは半時計方向)をキーで反応するように求めた。  
 その結果、視野闘争における知覚優位持続時間は眼球間交互フリッカー条件で長く、次いで長いのは両眼フリッカー条件であった。これはターゲット刺激の周辺でのダイナミック刺激が、今視えている知覚優位を維持するように働いていることを意味する。網膜像のリフレッシュは視野闘争を抑制し、視覚世界の安定を維持するように働くと考えられる。

長時間単眼遮蔽が視野闘争に与える影響
 Lunghi et al.(26)は、長時間にわたる単眼遮蔽(monocular deprivation)が視野闘争に与える影響を成人でしらべた。被験者にはアイパッチ(半透明)を片眼に装着させ、遮蔽解除後に液晶シャッターで提示した視野闘争刺激に対してどちらが優位に出現しているかを反転ごとにキーボード上の指定された2つのキーのどちらかを押すように求めた。単眼遮蔽時間は150分、視野反転測定は、遮蔽直後、30、45、60、120、150、180分後であった。視野反転図形はグレーティングパターンで、その方向が左右パターンで直交したものとし、等輝度色彩パターンと明るさコントラストが75%の無彩色パターンの2種類とした。
 実験の結果、遮蔽眼側に提示した刺激パターンの方が優位に視えている時間が、等輝度色彩条件、無彩色条件ともに長くなること、等輝度色彩条件では遮蔽解除後180分後までこの効果が持続すること(無彩色条件では90分後まで持続)などが示された。これは遮蔽された側では遮蔽に対して機能の恒常を維持するための補償機能が第1次視覚野で起きていて、この補償機能は色彩視に関するパルボ系(parvo)の方が輝度に関するマグノ系(magno)より大きいことを示している。

健常脳と分割脳における眼球による視野闘争と対象による視野闘争
 視野闘争には刺激側の要因である明るさコントラスト差、空間周波数差などが影響、また観察者側の要因として注意、意志、恐怖などが、その知覚優位性に影響する。一方、視野闘争に影響する要因としては、眼球側の要因を重視する説と刺激側の要因が重要とする考え方がある。眼球側要因説では知覚優位眼がしだいに抑制される結果刺激に対する感度が落ち、逆側眼が優位となると考える。刺激側要因説では、刺激のもつパターン特性が知覚優位を決めると考える。たとえば、2つの視野闘争パターンのそれぞれを半分に分けてひとつに合成し、その合成したパターン(Diaz-Canejaパターン)を各眼に提示すると、合成する前のノーマルなパターンが優位に出現し、また各眼にフリッカーで提示すると、その優位性が高まるという結果もある(Kovacs et al. 1996, Knapen et al. 2007, Bartels & Logothetis 2010)。
 Ritchie et al.(37)は、脳梁を切断した分割脳被験者に、このDiaz-Canejaパターンを提示して視野闘争における知覚優位性がどのように出現するかをしらべた。分割脳被験者は59歳の女性で重度てんかん症のために脳梁切断手術を受けている。統制群である健常者は8名の女性である。視野闘争パターンは、図4に示したように2種類で、ひとつは顔と家の通常の視野闘争パターン(A )、他は半分の顔と家とで合成されたDiaz-Canejaパターン(B) である。被験者には60秒間の観察中に左眼刺激あるいは右眼刺激のいずれが見えているか、キーボードのキーで反応するように求めた。なお、左右眼パターンの注視点を注視するように教示し、注視点の動きをビデオレコーダーでモニターした。
 その結果、脳梁を切断された分割脳被験者の場合、片眼に提示された顔あるいは家の通常の視野闘争パターンが左あるいは右の視覚領に別れて入力されるにもかかわらず、統合されて顔あるいは家の出現時間が長くなること、これは健常群と差がないがやや合成パターンの出現が分割脳被験者で長くなること、Diaz-Canejaパターン条件では健常群と分割脳被験者ともに顔と家の合成パターンの出現時間が長くなること、分割脳幹者では顔と家の合成パターン(Diaz-Canejaパターン)の出現時間が健常群より若干多くなること、などが示された。Diaz-Canejaパターンで顔と家の合成パターンの出現時間が長いという結果は、視野闘争で刺激側が優位というよりは眼球側が優位になることを意味し、また通常の刺激パターンが脳梁を切断されたために2つのパターンに分割された場合には、通常の視野闘争が若干減少することを意味した。これらのことから、視野闘争は初期視覚領で生起するのではなく、半視野間の相互作用を担う他の処理過程で生起していることが示唆される。

異なる運動方向の視野闘争における側抑制
 視野闘争についてのもっとも最新のニューラルモデルは、図5に示されたようなしくみを想定している。各眼からの入力(X)を受けた局所的活動ユニット(H) は、スパイク(Y)を側抑制ユニット(γ)に出力する。側抑制ユニットからは対側の局所的活動ユニットに対して抑制をかける。また、局所的活動ユニットではゆっくりした順応(A) が生起する(Blake, et al.1998, Freeman, 2005; Lehky 1988, Noest et al.2007,Wilson 2003)。このモデルは、一方のパターンの興奮と抑制、他方の抑制と興奮を説明する。すなわち、はじめはどちらかの局所的活動ユニットが興奮して優位となり他を抑制するが、抑制された側の局所的活動ユニットはもう一方を対側抑制(cross inhibition)するとともに順応過程が機能して活性化する。活性化していた方の局所的活動ユニットは他方からの対側抑制を受けてしだいに衰える。こうして視野闘争の反転が起きるというわけである。
 そこで、Platonov & Goossens(31)は、各眼への方向が種々異なる運動刺激を提示すれば、両眼間での対側抑制の強度を操作でき、その結果から視野闘争のしくみを明らかにできるのではないかと考えた。もし視野闘争が両眼間の対側抑制に規定されるのであれば、両眼間の運動方向差を減じれば各眼側の側抑制を強めるために両眼間の対側抑制は逆に促進され、したがって視野闘争事態で最初に優位に知覚された刺激の優位度とその出現持続時間を増大すると予想される(対側抑制仮説)。一方、知覚優位となった側の運動方向チャンネルの対側のチャンネルが最も強く相互を抑制するならば、対側抑制は両眼間の運動方向差が大きいほど強くなると予想される。そこで、図6に示したような左右眼でドットの運動方向が異なるキネマトグラムを両眼に提示し、左右眼のどちらの刺激が知覚優位か、またその優位出現時間を測定した。左右眼の運動方向角度差(motion direction disparity)は、0、30、40、60、90、150、180度の6段階、垂直子午線に対する運動方向は、左あるいは右方向に0、15、20、30、45、75、90度に、また刺激の明るさコントラストも高低の2段階に設定した。
 その結果、両眼間の運動方向角度差が減じると、視野闘争で知覚優位に出現した刺激の優位度とその出現持続時間が増大すること、これは非利眼より利眼側で大きいこと、さらにこの変化は刺激の明るさコントラストが低い場合に大きく現れることなどが示された。これは視野闘争における対側抑制仮説を支持する。

ADHDの視野闘争の特性
 注意欠陥・多動性障害(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder、ADHD)は、多動性、不注意、衝動性を症状の特徴とする発達障害もしくは行動障害をいう。Casanova,et al(3)は、このADHD障害(ADHD-CombinedとADHD-Inattentive)の視野闘争の特性をしらべ、視野闘争がADHD診断に役立てられるかを検討した。視野闘争図形は、図7にあるようなサイン波形状の輝度変化を持つグレーティング・パターンで、一方は赤縦縞、他方は緑横縞である。視野闘争実験では、最初の視野闘争が起きるまでの時間およびどちらかのパターンが優位に知覚されている持続時間が測定された。
 その結果、ADHD群は健常群に比較して視野闘争の最初の出現時間、および視野闘争の優位パターン持続時間が長いこと、しかし不注意が主症状のADHD-I群は持続時間がもっとも短いことが明らかにされた。この結果から、ADHDの診断ツールに視野闘争を利用できると思われる。

乳児の視野闘争
 乳児の視野闘争をしらべた研究(Gwiazda et al.1989)によると、乳児は最初視野闘争刺激を偏好し、次いで融合可能刺激を偏好するようになること、この移行時期は12.4週齢であることを示した。これは、3月齢前後に両眼視の神経組織が発達し、視野闘争刺激を嫌悪するためと考えられた。
 そこで、Kavšek(18)は、6~16週齢の乳児が視野闘争刺激の偏好から融合可能な刺激の偏好へと発達的シフトが起きるかどうかをしらべた。視野闘争刺激は片眼に5本の水平線分,他眼に5本の垂直線分とし、また融合可能刺激は両眼共に5本の水平線分刺激とした。実験では、乳児に2つの視野闘争刺激を左右眼別々に2つあるディスプレーのひとつに提示、また2つの融合可能刺激を左右眼別々に他方のディスプレーに提示した。乳児の顔の動きはカメラでモニターしてディスプレーに連動させ、乳児の顔の動きに応じて常に左右眼刺激が左右眼に別々に提示されるように工夫された。2つのディスプレーのそれぞれには、視野闘争刺激あるいは融合可能刺激が同時に提示され、実験者は乳児がどちらの刺激に対して偏好反応が生起するかをチェックするとともに、その注視時間も測定した。
 その結果、6~16週齢の乳児には視野闘争刺激の偏好から融合可能刺激を偏好する発達的シフトはみられず、すべての週齢段階で融合可能刺激の偏好が示され、とくに、8~9週齢児は有意に視野闘争刺激を回避した。このことから、この週齢以前で視野闘争が生起していることを示す。

自閉症者の視野闘争の特性
 自閉症は、知覚、認知、情動、言語、対人コミュニケーション、社会行動など広範囲に発達障害をもつ先天的脳機能障害と考えられている。この脳障害を説明する神経生理学的な仮説の一つに、興奮/抑制アンバランス説がある。この仮説では、大脳の興奮と抑制のバランスが崩され、この混乱が脳全体に波及すると考える(Rubenstein & Merzenich 2003、Vattikuti & Chow 2010)。自閉症には音、触覚刺激、明るい刺激に対する過敏があり、これを回避する行動傾向があるが、これは興奮と抑制のアンバランスによって感覚刺激に対する過敏が生じているためと説明する(Baron-Cohen et al.2009, Leekam et al.2007, Tomchek & Dunn 2007)。しかしながら、この興奮-抑制アンバランス説にはいまだ十分には実証されていない。
  そこで、Said, et al.(40)は、自閉症者と健常者での視野闘争反応の特性をしらべた。実験では、図8図9の視野闘争刺激が用いられた。図8のステレオグラムを両眼立体視すると、右傾斜のグレーティングパターンのみ、左傾斜のグレーティングパターンのみ、あるいはこの2つのグレーティングが混在したパターンが知覚される。ここでは、この混在したパターンが全知覚時間のなかでどのくらいの割合を占めるかがしらべられた。また、図9のステレオグラム(A)の左眼用図形は緑色の円環状に配置したスパイラルグレーティングで構成、右眼用図形は赤の円環状に配置した放射状グレーティングで構成され、これを両眼立体視すると左眼用図形が優勢となるが、図9(B)のように右眼用図形の円環の一部の明るさコントラストを増強すると、これがトリガーとなり円環の上を知覚的な波が動くように知覚される。図9(C)には、その コントラストの増強に伴う知覚的な波運動(perceptual travelling wave)の一例が示されている。実験では、波が起きてから円環上に記したマーカーを通過するまでの時間を測定し、その速度を算定した。興奮/抑制アンバランス説によれば、興奮あるいは抑制のどちらかのウエイトが増して興奮/抑制の比が大になれば、左右片眼どちらかのパターンが常に優勢となり、逆にそれらのウエイトが減じて興奮/抑制の比が小さくなれば、視野闘争時の混在パターンの出現割合が減少すると考えられる。また、視野闘争での知覚的な波運動の場合には、興奮が強い場合には周辺のニューロンを次々と興奮状態に置くので知覚的な波運動速度は増大、一方抑制が弱い場合にも興奮の波が弱い抑制にあるニューロンを次々と興奮状態に変えるので知覚的な波運動速度は増大すると予測される。したがって、成人自閉症者と健常者とでは興奮と抑制のアンバランスの程度に相違があるので、視野闘争の混在パターンの出現割合、および知覚的な波運動速度値に差が出ると考えられた。
 実験の結果、成人自閉症者と健常者とでは視野闘争の混在パターンの出現割合、および知覚的な波運動速度値の有意な差は示されなかった。これは興奮/抑制アンバランス説を否定する。しかし自閉症者での興奮と抑制のアンバランスが小さすぎて視野闘争における測定には引っ掛からなかったとも考えられる。

単眼視野闘争
 単眼知覚交替(monocular rivalry)とは、図10に示したように、ひとつのパターン内に2通り透明な面が重ねられたもので、これを単眼視すると2つの面の間で知覚的な交替が生起する現象をいう。このような知覚的交替は視野闘争や反転図形で観察され、さらにこの知覚的交替には二義的な面の一方に対する注視作用が影響を与える(Chong et al.2005,  Hancock & Andrews 2007 Meng & Tong 2004 Ooi & He 1999  van Ee et al. 2005)。しかし、単眼知覚交替における注視作用の影響は、まだ明らかにされていない。
 そこで、図10に示したパターンの残像を利用しての知覚的交替における注視作用がReavis et al(35)によって実験的に検討された。実験では、図のA、B、Cの各左図形を10秒間凝視後、右図形を見ると2つの矩形枠に補色残像が生起する。このとき、被験者には高低の異なる2種類の音刺激を提示し、その提示音刺激によって縦枠あるいは横枠を注視し、どのストライプ面が知覚的に優位かをキー押しで反応するように被験者に求めた。
 その結果、注視面の知覚的優位の平均持続時間は非注視面のそれより有意に長く、これは面の外枠注視条件あるいは面の直接注視条件でも同様なことが示された。このことから、単眼知覚交替でも注視作用が知覚優位に影響することを示す。

視野角を変化させた事態での曲線の湾曲度の知覚と両眼視差要因の同調効果
 対象を観察する場合、視点を移動させるたびに対象の大きさ、明るさ、色相、形状、網膜位置などが変わるが、視覚システムはこのような変化や変形(transformation)事態で対象を正しく認知できる。とくに視点が横方向に移動した場合には対象の輪郭の曲線部分の変化は直線部分より大きくなる。
 Bell et al.(2)は、対象の輪郭曲線の湾曲度の変化を修整して正しく知覚させる要因は両眼視差要因ではないかと考えた。そこで、図11の下部に示したような円筒形を縦方向に切断したときの湾曲線を奥行回転 (rotation-in-depth) させて提示し、このときの知覚した湾曲度を両眼視差条件と非両眼視差条件でしらべた。実験1では2つの上下に凝視点を挟んで同一あるいは異なる湾曲線を回転し提示して観察させ、被験者にはそれらの湾曲線が同一か異なるかを答えさせた。
 その結果、奥行回転事態での湾曲線の知覚判断においては両眼視差条件の方が非両眼視差条件より正確なことが示された。両眼視差が奥行回転する湾曲線の識別を正確にするように働くことをこの結果は示した。
 そこで、このような奥行回転事態での対象輪郭における湾曲線を視覚処理する場合、そのメカニズムは両眼視差に特異的に生起するのかが検討された。実験では、図11のA、Bに示したような知覚残効が利用された。図Aの凝視点を30秒以上注視し、次いで図Bに視点を移し凝視点を注視しながら、上と下の湾曲線の湾曲度を比較判断する。この場合、上の湾曲線は下のそれに較べてより平らに知覚される。実験2では、奥行回転する2つの湾曲線を視野の上・下に提示して1分間知覚的順応させ、次いで上・下に提示したテスト図形の湾曲度(湾曲が浅いか深いか)を判断させた。その結果、図形の知覚残効での湾曲度は両眼視差条件と非両眼視差条件で相違しなかった。これは、両眼視差要因が湾曲線の視覚処理において特異的に関係していないことを示した。これら2つの実験結果から、奥行回転する湾曲線の識別においては、両眼視差はそれを正確にするように促進的に働くが、奥行回転する湾曲線の視覚処理は両眼視差に同調して処理されてはいないと考えられる。

1.2 両眼視差からの3次元形状の復元
3次元形状の復元に関わる距離要因
 水平視差からの3次元形状の正確な知覚には奥行(観察)距離要因が不可欠で、それらの手がかりは両眼輻輳と垂直視差である。しかし実際には観察者は3次元形状の知覚に際して奥行距離-依存バイアスを示す。つまり、同一の対象でも、観察者からの奥行距離が異なると3次元形状が異なって知覚され、また同一対象を奥行方向に運動させると、その形状が変形することを意味する。Bingham & Lind(2008)は、水平視差から3次元形状が精確に知覚できるのは対象のパースペクティブ要因が広範囲にしかも連続的に働いている場合のみであると主張した。
 そこで、Scarfe & Hibbard(41)は、ランダム・ドット・ステレオグラム(RDS)から3次元形状の正確な知覚が可能かどうか、そしてどのような情報(手がかり)が3次元立体知覚を可能にするかを実験的に検討した。実験には、図12に示したようなRDSを用いた。このRDSを両眼立体視すると、縦割りにしたシリンダー形状が知覚できる。図中(a)には観察者の眼球レベルに水平横置き(水平軸は0度)提示されたシリンダーを、(b)には水平軸に50度回転させた蓋無しシリンダーを、(c)には(b)と同様の位置にある蓋ありシリンダーを、(d)には(b)と同様の位置にあるシリンダーの蓋のみを示し、それぞれが知覚できる。シリンダー形状を用いたのは、その輪郭がシリンダーの両端、あるいは水平方向の面の断端で水平視差の不連続が生じ、これが3次元形状の知覚に有効であるため、またシリンダーを傾けるとパースペクティブ要因やテクスチャ勾配要因が生起して水平視差以外の手がかりが付加されるためである。RDSではシリンダーの高さ6cm、長さ10cmとし、被験者の両眼間距離も考慮して作成された。実験条件は図に示したように、横置きシリンダー、蓋あり傾斜シリンダー、蓋無し傾斜シリンダー、シリンダーの胴体なしで蓋だけ、の4条件である。傾斜シリンダーではパースペクティブやテクスチャ勾配の手がかりが付加される。シリンダーの提示位置は観察者から40,60、80、100 cmの4段階とした。恒常法を用いて被験者にはシリンダーの直径(深さ)を継時的に変化させ、シリンダーが伸張したかどうかを判断させ、それに基づいて閾値が算定された。
 実験の結果、水平横置きシリンダー条件では、観察距離が1m以下の場合(40、60、80cm)にシリンダーの直径が過大視される傾向が示され、奥行距離依存バイアスが確認された。シリンダーの本体が無く蓋だけの場合も同様だった。一方、シリンダー傾斜条件ではその蓋の有無にかかわらず、この種のバイアスが示されなかった。これは対象の視点角度を変えると、RDSによる3次元形状の奥行距離依存バイアスは消えることを意味した。
 そこで、先の実験結果を利用して被験者にシリンダーが伸張あるいは押しつぶされて知覚しないようにシリンダーの直径を操作して提示した。シリンダーの条件は水平横置きと蓋無し傾斜とし、観察距離は40cmとした。これは最も奥行距離バイアスが出る条件と出ない条件である。これに加えて、シリンダーの直径と高さの座標についての知覚を乱すためのノイズドットを挿入した。被験者にはシリンダーが伸張して知覚されるか、あるいは押しつぶされて知覚されるかの判断を求めた。この被験者の判断値、操作したシリンダーの直径、それにノイズ位置から、各被験者ごとにバイアスの小さい3次元形状知覚で用いられた視差分布を計算しイメージとして構成した。図13は、水平横置きシリンダー(a)と蓋無し傾斜シリンダー(b)における4被験者の平均視差分布である。図からも明らかなように、水平横置きシリンダーでは視差分布のホットスポット(赤で表示)はシリンダーの湾曲面に沿って水平方向に広がっているのに対して、蓋無し傾斜シリンダーでは傾斜角度のもっとも高い円形の口のあるエッジに集中していることがわかる。これらの結果から、対象に傾斜角を設定するなど自然な事態を導入すると、観察者は利用できる3次元形状手がかりをアクティブに探索して利用し、形状知覚におけるバイアスを減じるように知覚するものと考えられる。

疎らな視差によって誘導される何もない空間での立体形状の展延
 視覚システムは、不完全なあるいはノイジーな奥行手がかりで構成された一部の空間の立体形状を埋めることで完全な立体形状を知覚する働きがある。両眼視差の場合には、視差は形状のエッジ領域を規定するものなので、エッジとエッジの間は視覚システムが内挿で埋める。図14のステレオグラムには、そのような立体形状の展延が示されている。左端と中央、あるいは右端と中央のステレオグラムを立体視すると、スポークの中央部分に立体が出現し、その立体形状が骨組のみではなく骨組を含む面として知覚される。このような立体形状展延の計算機モデルには、Low-Level、Mid-level 、High-Levelという3つのモデルがある。Low-Levelモデルでは、2次元上で生起すると同様な、あらゆる方向のエッジに向かう拡散過程によってくさび形状の輪郭が出現すると説明(図15-B)、Mid-levelモデルのなかの外挿作用を考える場合では、スポーク状刺激間でくさび形状の直線的外挿が生起すると説明(linear extrapolation 図15-Cの緑線)、またMid-levelモデルのなかの内挿作用を考える場合では、立体の断端内で直線的な内挿が生起すると説明(linear interpolation 図15-Cの黒線)。High-Levelモデルでは、立体形状の展延は円盤を形成するように働くと説明(disciform hypothesis 図15-D)。
 Li et al.(25)は、展延による立体形状の輪郭の形状がどのようになるかをしらべることで、linear extrapolation、 linear interpolation、 disciform hypothesisのいずれによるのかを検討した。実験では、図16に示したように、立体の輪郭の奥行をしらべるためにプローブを各所(赤三角印)に奥行位置を違えて提示し、輪郭の奥行をプローブと一致させて測定した。測定する図形は、前額平行なパターン(A) 、および中心部に出現する立体に奥行傾斜をもたせたパターン(B) の2通りを設定した。 実験の結果、前額平行あるいは奥行傾斜の両条件で立体輪郭の奥行位置はlinear extrapolationおよび linear interpolationとは一致せず、 disciform hypothesisと一致することが示された。このことから、High-Levelモデルが立体形状の展延を説明するモデルとして妥当である。

逆遠近法(reverse-perspective)刺激パターンにおける絶対視差、相対視差、網膜像の大きさ、観察距離要因の役割
 逆遠近法とは前景に置かれた対象を目から遠ざかるほど拡大する、つまり後景に行くほど逆八字形に開くように描く技法で、通常の遠近法とは逆になる(図17)。このような刺激を観察した場合の奥行手がかりである絶対両眼視差、相対両眼視差、網膜像の大きさ、および観察距離で変わる輻輳と調節の各要因の役割について、Dobias & Papathomas(6)によってしらべられた。実験では、図18に示したように、建物の中央に両眼からの視点を輻輳させた事態で建物の奥行を、網膜像の大きさ、観察距離(輻輳と調節)、両眼視差のいずれかひとつをを固定して奥行手がかりの役割をしらべた。
 その結果、逆遠近法の奥行効果は、視差と網膜像の大きさが異なっても観察距離が一定ならば変わらないこと、一方、視差が一定あるいは網膜像の大きさ一定にした条件では視えの奥行は変わること、などが示された。これらの結果は、視えの奥行効果が観察距離要因とscaled disparity値(視差を網膜像の大きさで割った値)で予測できることを示唆している。

垂直遠近法手がかりと運動視差による奥行出現方向
 垂直遠近法とは、遠近を画面の高低で表現する画法で、視点が高い場合には低い位置の対象の大きさは垂直距離に比例して縮小され、逆に視点が低い場合にはその逆の関係で描画される。George et al(11)は、垂直遠近法手がかりが運動視差による奥行方向出現の多義性を解消できるかをしらべた。視覚システムは奥行出現方向の多義性を解消するために網膜外手がかりである眼球追従の手がかりを利用する。このときの眼球追従は刺激の並進運動によって垂直遠近法手がかりも同時に変化させる。そこで、眼球運動手がかりと垂直遠近法手がかりとを完全に分離した事態で、運動視差に基づいて奥行を出現させ、その出現方向(手前あるいは後ろ)を識別させた結果、眼球運動手がかりは正確に奥行方向を識別できたが、垂直遠近法手がかりは識別能力がかなり劣ることが示された。このことから、奥行方向の多義性を解消する役割を垂直遠近法手がかりは担ってはいないことが明らかにされている。

1.3.両眼立体視の処理過程
両眼立体視空間の異方性と視差検出の多重チャンネル
 水平視差をつけたサイン波形パターンを水平方向に提示した場合と垂直方向に提示した場合とでその検出閾値をしらべると、低空間周波数条件では水平方向パターンの方が垂直方向パターンより検出しやすく、このことからステレオ空間は異方性をもつことが明らかにされている(Bradshaw & Rogers, 1999;Bradshaw,et al., 2006;Serrano-Pedraza & Read, 2010; van der Willigen et al., 2010)。これは、両眼立体視システムでは水平方向モジュレーションを検出する空間周波数視差チャンネルが多重であり、垂直方向のそれは単独であることによると推定された。
 そこで、Serrano-Pedraza et al.(42)は、この推定を視差検出近辺のクリティカルな周波数帯域ノイズ(critical band noise)によるマスキングによって視差検出を妨害する手法を用いて、視差検出の帯域幅をしらべることで検証を試みた。実験1では、水平視差検出の最適感度(0.4 cpd)近辺で、水平方向と垂直方向の波形を提示し、広帯域(broadband noise)あるいはノッチノイズ(notched noise)でマスキングした事態で視差検出閾値をしらべた。その際に用いられたステレオグラムは図19にアナグリフで示されている(実験では白黒表示でポラロイドフィルター方式を用いて両眼立体視させた)。図19(a)は0.4 cpdで構成された水平サイン波形で水平視差を用いたパターン、図(b)は(a)と同一の刺激を1次元の周波数帯域のノイズ波形(noise corrugation)でマスクしたパターン、図(c)は (a)と同一の刺激を0.4 cpdの3オクターブのノッチ帯域をもつ1次元ノッチ波形(鋸状波形)によってマスクしたパターン、図の(d)は0.4 cpdと0.5オクターブ帯域を中心とする1次元帯域通過ノイズでマスクした0.1 cpdの空間周波数水平サイン波形パターン、図(e)-(f)は上段に対応して同一条件であるが、波形を垂直方向に出現させたパターンである。被験者にはマスキングパターンを250 ms観察させ、その200 ms後にターゲットパターンをマスクパターンに追加して提示し視差を変化させ、そこに出現する波形が水平か垂直かを判断させ、視差の最大振幅を測定した。
 視差検出閾値はマスキング刺激が無い条件では0.4 cpdでもっとも小さくなること、しかしマスキングノイズを導入して変化させたときの視差検出閾値は0.4 cpdでもっとも大きくなること、また水平方向波形と垂直方向波形の視差検出閾値は、水平方向波形条件では22.6 arcsec、垂直方向波形条件で51.54 arcsecとなること、したがってこれのV/H比は2.27となることが示された。また0.1 cpdの空間周波数をターゲット刺激とし、マスキングノイズを0.4 cpdとした場合には、視差検出閾値はマスキングノイズによってほとんど妨害されなかった。さらに視差検出チャンネルが0.4 cpdとし、視差検出のチャンネルの帯域を計算して求めたところ、水平方向で2.95オクターブ、垂直で2.62オクターブとなった。視差検出においては、視差検出閾の感度が最高の空間周波数から2オクターブ離れると、視差検出は困難となった。この実験ではもっとも視差検出の感度の良い空間周波数は0.4 cpdなので、0.1 cpdの空間周波数での視差検出は、単独チャンネルを仮定すると視差検出閾値は大きく上昇するはずであるが、実験ではそうはならなかった。 これらの結果をpower-spectrum maskingモデルに当てはめ多重チャンネルモデルと単独チャンネルモデルの両方を仮定してシミュレーション計算したところ、水平方向と垂直方向の両方向で多重視差検出チャンネルを仮定した場合に視差検出閾値の実験結果がよく当てはまることが示されている。

網膜の中心と周辺でのグローバル立体視に関わるメカニズム
 両眼立体視は局所的(ローカル)立体視と大局的(グローバル)立体視に分けられ、大局的立体視にはさらに、V1とV2における視差に特異的に反応する両眼視細胞による局所的な絶対視差と相対視差の処理過程、およびさらに上位脳における局所的な立体情報の統合による大局的な視差の成立過程がある。この両眼視差立体視処理過程では、輝度空間チャンネルから構成された第1段階の局所的な視差処理と空間チャンネルから構成された第2段階の大局的な視差処理との関係がいまだに明らかにはされていない。つまり、第1段階の検出器の情報はすべて第2段階の検出器に送られるのか、あるいは大局的な視差処理のメカニズムが局所的な視差情報をプールしておくしくみがあるのか、さらには輝度の空間周波数(liminance spatial frequency)と視差によって誘導される凹凸の空間周波数(modulator disparity frequency)との間には最適な比率があるのか、といった問題がある。
 Witz & Hess(52)は、大局的な視差立体視過程における局所的な視差情報プーリングの特性を明らかにするために、輝度空間周波数と視差によって誘導される凹凸の空間周波数との関係を中心視刺激提示条件と周辺視刺激提示条件で実験的にしらべた。図20には、実験に使用したステレオグラムで、中心視刺激提示条件(A)では両眼立体視すると垂直方向にガボール波形の起伏(1-D vertical Gabor)が出現する。周辺視刺激提示条件(B) を両眼立体視するとサイン波形の起伏(1-D angular sinusoid)をもつリングが出現する。輝度の空間周波数(carrier luminance spatial frequency)は0.5から10 cpdの間で変化させ、またパラメータとして起伏を生起させる視差の空間周波数(modulator disparity spatial frequency)を0.25、0.35、0.5、1、2、4 cpdの6段階に、周辺視刺激提示条件での偏心度(eccentricity)は2.5、5、15、30度に設定した。3次元の起伏形状の閾値を測定する実験では完全上下法を用い、視かけの起伏が明らかに知覚される刺激からはじめて、それが知覚されない刺激系列、あるいはこの逆の刺激系列を被験者に提示し、その視かけの起伏が視えなくなる段階あるいは視えるようになる段階を報告させ閾値を測定した。また、3次元起伏形状が単独あるいは多次元のチャンネルのいずれで担われているかをしらべるために、刺激の探索閾値における空間周波数刺激パターンの弁別精度がしらべられた。ここでは2つの刺激、すなわち視差をもつ空間周波数刺激、およびノイズ刺激が継時的に提示され、被験者にどちらの刺激に視差パターンがあるか、またそのパターンの起伏の形状(角度)を答えさせた(detection/discrimination paradigm)。
 実験の結果、中心視刺激提示条件では、形状起伏を生起する視差の空間周波数に対応した最適な輝度空間周波数の比率は、視差空間周波数が高い場合(1cpd以上)には2.6近辺になるが、視差の空間周波数が低い場合には最適な輝度空間周波数は変動せず、3 cpd近辺に固定された。また周辺視刺激提示条件では、最適な輝度空間周波数は視差空間周波数を変えても一定値に固定されるが、偏心度が異なると(2.5degでは6cpd、5degでは5cpd、15degでは1.25cpd、30degでは0.542cpd)変化した。これは、偏心度が大きくなると最適な輝度空間周波数は減じることを意味した。これらの結果は、detection/discrimination paradigmを用いた測定でも同一だった。  これらのことから、(1)局所的視差を検出した輝度空間周波数チャンネルのキャリアー(搬送波carrier)は大局的な視差を処理する過程のなかで特定のルールでプールされること、(2)この特定のルールは大局的な視差空間周波数が特定の決められた範囲にあるときにのみ働くこと、(3)視野の周辺刺激での大局的な視差処理は、比較的低い視差空間周波数でも可能で、それには偏心度によって異なる最適な輝度空間周波数が関係すること、(4)周辺視での大局的視差処理は中心視での視差処理とは独立であること、(5)中心視および周辺視の両方で多次元の大局的視差に同調するチャンネルが働いていること、が明らかにされている。

拡大による垂直視差と視差対応の修正
 垂直視差は垂直軸に関する傾き(slant)を出現させる。しかしその処理過程は明らかではなく、水平視差の対応をとる過程で働いているか、あるいは水平視差対応の修正の過程で働くのか、あるいはその両方の過程で働くのか、といった問題がある。
 そこで、Mitsudo et al.(27)は、図21に示したステレオグラムで奥行傾斜であるスラントを測定した。ステレオグラムは片方の垂直方向の大きさを105%拡大し、ランダムドット、同心円、放射パターンで構成した。図の左列は実際の網膜像、右列は修正された網膜像、そして点線円内には両眼視差(矢印は水平と垂直視差量を表示)を示す。この輪郭線ステレオグラムでは3種類の局所的水平視差対応は相互に異なる。視えの奥行傾斜角度を3種類のステレオグラムで測定した結果、局所的な水平視差が各ステレオグラムで異なるにもかかわらず、視えの奥行傾斜はほぼ同等であった。このことから、視覚システムは垂直視差を局所的な視差対応の修正に利用していると考えられる。

両眼立体視における各眼で異なる輝度の明るさ知覚
 左右眼への刺激入力に輝度差があると、両眼立体視能力が損なわれる(Heravian-Shandiz et al.1991; Katsumi et al. 1986; Li et al.,2012; Zhang et al. 2011)。たとえば、Li et al.(2012)は、片眼の輝度を減じて入力すると、両眼抑制が増大し、かつ両眼立体視力が減じることを示した。各眼における輝度差は両眼立体視の処理過程に強く影響することを示唆する。これを説明する仮説のその1では、左右眼の輝度コントラストが一方の眼に対するNDフィルターの装着で大きく異なると、空間周波数の知覚コントラスト感度が低下し、その結果として両眼立体視力が減じると考える。この場合、空間周波数が高く輝度差が大きいほど、その検出閾値が悪くなるので両眼立体視能力も減じることになる。仮説のその2は、NDフィルター装着によって左右眼に輝度差を設けた場合、NDフィルター装着眼にはPulfrich 現象と同様な入力遅延が生じるので両眼立体視処理過程における左右眼入力刺激のステレオ対応に遅延が生起し、その結果両眼視能力の減退が生じると考えるものである。仮説その3は、左右眼の輝度差がある場合、より暗い刺激入力に順応した眼からの抑制が両眼立体視能力に影響を与えるとする考え方である。この場合、刺激の空間周波数がもっとも低い場合に、両眼立体視に与える影響は大きくなると予想される。
 そこで、Reynaud et al.(33)は、フラクタル図形を刺激要素としたステレオグラムを作成し、その空間周波数成分を操作してNDフィルター装着による両眼間輝度差事態での両眼立体視力(stereo acuity)をしらべた。実験事態は、図22に示されている。図aは、ハプロスコープを用いての両眼立体視で左右眼のいずれかにあるいは両眼にNDフィルターが装着された事態を示す。図bはフラクタル図形によるステレオグラム(上から高、中、低空間周波数で構成)で、ガウス型のターゲット(矩形)が中央に浮かぶ。図cは一人の被験者の水平視差変化に対応した正しいステレオ視の出現割合を示し、パラメーターは装着したNDフィルター(左眼にのみ装着、ND 数値1.7は中間灰色、2.1は黒色、0は濃度無し)の濃度である。図dは左右眼からの入力過程の模式図(U:両眼間遅延時間、E:最少の入力信号の大きさ( minimal signal amplitude)を示す。被験者にはターゲット刺激がリファランスとして提示した背景刺激より前方向か後方向かを応えさせ、設定した各実験条件での立体視検出閾値を測定した。
 その結果、(1)左右眼のいずれかあるいは両方に異なるNDフィルターを装着させた条件では、左右眼の輝度差が大きくなると立体検出閾値は若干大きくなること、また片眼にNDフィルター装着条件では0~1.5NDまでは立体視検出閾値は一定となり、それを越えると急激にに大きくなることが示された。これは、視差処理過程が両眼の輝度変化には影響されないが、両眼間の輝度が不適切な場合には大きく影響されると考えられる。(2)片眼にNDフィルターを装着させた条件での刺激の空間周波数の影響については、高空間周波数と広帯域空間周波数の刺激条件の場合、その立体視検出閾値は低くなること、さらにND値の小さいNDフィルター装着時では低空間周波数刺激条件でその立体視検出閾値はより低くなることが示された。このことから高空間周波数刺激の成分は、低空間周波数刺激の成分より優位にあり、広帯域空間周波数からなる刺激イメージの立体視検出閾値の最小値を決めていると考えられる。低空間周波数条件で立体視検出閾値をもっとも悪くするNDフィルターは、高空間周波数あるいは広帯域空間周波数条件より低いフィルター値の場合、およびNDフィルター非装着の場合であることも示された。高空間周波数刺激条件では、低空間周波数条件の場合より、両眼間の輝度差の影響をより大きく受けると考えられる。NDフィルターの単眼装着と両眼装着条件で立体視検出閾値を比較すると、両眼装着条件で有意に閾値が小さいことも示された。(3)NDフィルター装着による入力遅延時間が立体視検出閾値に及ぼす影響を非装着眼への物理的入力時間に遅延を0~210msの間で導入してしらべたところ、NDフィルター値が0の場合には、立体視検出閾値は影響がみられなかった。しかし、両眼に同等のNDフィルターを装着させた場合には、遅延が50ms以降ほぼ単調に立体視検出閾値は上昇した。さらに片眼にのみNDフィルターを装着させた場合には、遅延が100ms前後までは立体視検出閾値は減少し、その後は上昇した。非装着眼への物理的入力遅延は立体視検出閾値の上昇を部分的に抑えることができるが完全ではなく、輝度要因が何らかの影響を与えていると示唆される。(4)左右眼に刺激の輝度コントラスト差(片眼100%、他眼50%)を導入し、片眼に装着したNDフィルターの濃度を変えて立体視検出閾値の変化をしらべたところ、立体視検出閾値の上昇が示された。しかし両眼に100%コントラスト刺激を入力、あるいはNDフィルター装着眼に100%コントラスト刺激、非装着眼に50%コントラスト刺激をを入力した場合には立体視検出閾値は上昇しないことも示された。これらの結果は、NDフィルターが輝度コントラストの神経生理的出力を減少させることで、左右眼の相対的刺激強度を減少させると考えられる。
 このように両眼間の輝度差が大きい場合の立体視検出閾値の低下は、輝度-依存的入力遅延とコントラスト出力増幅(contrast gain)における輝度-依存的コントラスト変化の組み合わせで生起していると考えられる。図23は、ND濃度と入力遅延の2要因による両眼立体視検出閾値の変化をある一人の被験者(JZ)のデータに基づいてモデル化したグラフである。

奥行エッジ(depth edge)と輝度エッジ(luminance edge)間の牽引
 両眼視差をつけたグレーティング・パターンの場合、その知覚可能な範囲の最も高い空間周波数は4 cpdである (Tyler 1974)。これは人間の視覚システムでは低空間周波数に相当し、輪郭がボケて知覚される。このように、高空間周波数成分が存在しない事態で後面である背景からある対象が前面に出現している場合、予想される知覚特徴は、奥行は明瞭に出現するがその周囲のエッジは歪んで輪郭はボケるか、あるいはその対象の奥行出現は不明瞭となり奥行出現位置を正確に特定することができなくなる、のどちらかと予想される。しかし、通常、このようにはならず、対象の奥行出現も、その背景面との間のエッジもともに明瞭である。これが可能なとなる仮説として、手がかり結合説(cue combination),と手がかり転換説(cue switching)がある。手がかり結合説は、視差と輝度など複数の手がかりが相互に牽引し、手がかり間の中央値のところでエッジが知覚されると予想する(Rivest & Cavanagh 1996)。手がかり転換説は、複数の手がかりの中でもっとも知覚しやすい手がかりが選択され、これをベースにしてエッジの位置が特定されると予想する。この場合に手がかりとして選択されるのは、その事態で要求されたタスクに関連したものとなり、手がかりが非関連のものあるいは反対方向の位置を示すものでは位置の知覚は不適切となる。
 Robinson & MacLeod(38)は、エッジの位置の特定についてこの二つの仮説のどちらが妥当かをしらべた。図24は、テクスチャから構成されたステレオグラムでミラー型ステレオスコープを用いて左右眼に提示された。このステレオグラムを両眼立体視すると、中央横方向に奥行のある段差が出現する。被験者にはステレオグラムの中央の横方向に提示されたリファレンス線を基準として段差エッジあるいは輝度エッジの提示位置を変え、それらが上方向か下方向かをタスクとするエッジ(段差あるいは輝度)を決めてタスク別に知覚判断させた。段差と輝度手がかりがリファレンス線に対して同一の位置を示す一致条件(パターン下方から段差エッジまで30%輝度を増量)、およびそれらが異なる位置を示す不一致条件(段差エッジと輝度エッジ間に2.8あるいは5.6 arcminの間隔を設定)を設定した。統制条件には段差のみ出現する条件(明るさは上下領域とも同一で30%増加)および明るさのみの条件(視差はゼロ)を設けた。
 実験の結果を、段差と輝度手がかりが一致条件とそれぞれが反対方向を指し示す不一致条件ごとに知覚判断されたタスクエッジ位置の非タスクエッジ方向への逸脱程度が集計された。その結果、段差手がかりをタスクとした場合、知覚された段差は輝度段差の方向にシフトすること、また輝度エッジをタスクとした場合にも段差エッジの方向に段差手がかりをタスクとした場合よりは大きくシフトして判断された。これは、奥行手がかりと明るさ手がかりが相互に影響していることを示し、手がかり結合説を支持している。

片眼入力をボケさせたときの両眼立体視の鮮明度(sharpness) 
 図25(a)にはフル解像度のステレオグラム(中央と左図は非交差、中央と右図は交差融合)を、(b)には片眼入力をボカしたステレオグラム(中央図)で、これらを両眼立体視すると片眼をボケさせたものは鮮明に、しかしボケのない条件よりは鮮明さが劣って知覚される。そこで Robinson et al.(39)は、高空間周波数成分が左右眼入力の鮮明度の異なる両眼立体視にどの程度関係しているかをしらべた。実験ではビデオクリップをミラーステレオスコープに2秒間投影して両眼立体視させた。ビデオクリップは、右眼のみにボケを導入するものと両眼にボケを導入するものを作成した。前者を標準刺激とし、ボケはcircular kernelのフィルターを通して高空間周波数成分を取り除くことでボケを導入した。ボケは4、8、12、16 pixel (blur diameter)の4条件のものを作成した。後者は比較刺激に用い、ブラー(ボカシ)の直径を1(no blur)、1.2、1.4、1.6、2、3、4、5、6、8、10、12、14、16、18 pixelにしたものを作成した。ビデオクリップは撮影時にカメラを速く動かす条件とゆっくり動かす条件のものを作成した。実験では完全上下法を用いて標準刺激と比較刺激を提示し、どちらの鮮明度が高いかを被験者に答えさせ、PSE閾値を求めた。
 実験の結果、両眼立体視されたビデオクリップの鮮明度のPSEは右眼のボケが8 diameter(pixel)までは上昇し、以降は4~5diameterで平準化した。この結果を、PSEが右眼のボケに依存したと仮定しての予測値、PSEが左眼の鮮明度に依存したと仮定しての予測値、左右眼の鮮明度とボケの平均となると仮定しての予測値とを相互に比較すると、実験値はPSEが左眼の鮮明度に依存したと仮定しての予測値より閾値は大きく、左右眼の鮮明度とボケの平均となると仮定しての予測値より小さかった。この結果は、各眼からの空間周波数のコントラストエネルギーは、各眼の空間周波数コントラストの加重平均になっていることを示した。そこで、この加重係数値がボケ入力眼の方に重いのかどうかが、左右眼にボケを導入する方法(左眼のボケは4 pixelで固定、右眼を8、12、16、20 pixelに変化させたビデオクリップ)で検討された。その結果、閾値は左右眼のボケの比率より低くなることが示された。これらのことから、左右眼の加重はボケの大きい方に小さく、したがって鮮明度の高い方がより加重係数が高いと考えられた。左右眼入力のボケ事態での立体視の鮮明度は高空間周波数に依存することが示唆される。

1.5.その他の研究
弱視児童のステレオ能力欠陥におけるコース・ステレオ視による補完
 Giaschi et al.(13)は、弱視でステレオ視に欠陥をもつ児童のコース・ステレオプシス能力(粗いステレオ視、coarse stereopsis)をしらべた。被験者は5~12歳齢で、屈折不同弱視が8名、斜視弱視が5名、不同像斜視が6名、健常児18名であった。測定は液晶シャッターに様々な視差を持つステレオグラムを提示し、ターゲットが外枠として提示したフレームより前あるいは後を答えさせた。テストに使用した両眼視差は交差、非交差とも0.02、0.08、0.17、0.33、0.67、1.0、2.0、2.5、3.0、3.5度の10通りであった。
 まず、二重像視がはじまる視差をしらべたところ、弱視群の方が健常児群より若干大きいものの有意差はなかったので、ファイン・ステレオプシス(精緻なステレオ視、fine stereopsis)の範囲を0.02~1.0度、コース立体視の範囲を2.0~3.5度とした。
 測定の結果、弱視群は健常児群より有意にファイン・ステレオプシス能力が劣ること、とくに斜視弱視でそれが著しいこと、しかしコース・ステレオプシスでは立体視の正確度は両群間には差がないこと(不同像斜視群がもっとも劣る)が示された。これらの結果から、弱視群では、発達初期の正常な両眼入力の阻害によるファイン・ステレオプシスの欠陥をコースス・テレオプシスが補完していると考えられ、このことは弱視の両眼立体視能力の臨床的改善に役立てうる。

両眼立体視における被写界深度と眼精疲労(visual discomfort)
 被写界深度(field of depth)とは、写真の焦点が合っているように見える被写体側の距離の範囲のことである。カメラレンズにおいてはピントの合う範囲に一定の許容量を認めることでその前後にも明瞭な像を結ばせることができ、その範囲のことを被写界深度と呼んでいる。ピントが合っている範囲が手前から奥へと広い場合を被写界深度が深いといい、この範囲が狭い場合を被写界深度が浅いという。被写界深度はレンズの焦点距離が短い、すなわちレンズではより広角なものほど浅くなるし、逆にレンズ絞りを絞り込む、すなわちF値が大きいほど深くなる。   
 O'Hare et al.(30)は、両眼立体視における被写界深度と眼精疲労(visual discomfort)との関係を実験的に検討した。両眼立体視での眼精疲労は、眼球調節と両眼輻輳が別々の奥行距離にある対象に合わせられるために生起することが知られている。被写界深度も眼球調節-両眼輻輳間コンフリクトをもたらすので眼精疲労の原因となると考えられる。そこで、図26に示したような刺激パターンを用いて、被写界深度に差を設けた(左側が浅い、右側が深い被写界深度)。実験では9種類のステレオグラムを用意し、ピントを合わせた中央の対象の両脇にある対象の奥行距離を3通り(60、70、80cm)、その被写界深度を3通り(f4、f11、f22)に操作した。このすべての組み合わせ(9×3×3)である81通りの刺激を提示した。観察後に、眼精の不快、ドライアイ、頭痛、眼球疲労、視野の歪みを10段階で被験者に評定、また視力検査も実施した。これを3回連続試行した。さらに、眼球調節と両眼輻輳を同一にした条件と不一致(コンフリクト)にした条件とを設定した。
 実験の結果、眼球調節と両眼輻輳を同一にした条件でのステレオグラム立体視後の眼精の不快度は被写界深度の深・浅によるボケの程度では変わらないこと、また視力にも差が出ないことが示され、また眼球調節と両眼輻輳を同一にした条件でも同様に眼精の不快度は被写界深度の深・浅によるボケの程度では変わらなかった。これらのことから、被写界深度の深・浅によるボケ程度が眼精の不快度や疲労をもたらすことはないと言える。

シーンとパターンの瞬時的認知における両眼視差の役割
 Valsecchi et al.(48)は、刺激パターンの提示時間を短くした条件(13から80 ms)での認知の正確さを自然シーンと人工的なシーンで試した。実験手続きは、まず注視点を提示した後でターゲット刺激を13 msから80 msの間で短時間提示し、次にマスク刺激としてターゲットとは異なるシーン(ポリゴンをランダムに並べたCG)を500ms提示し、その後でテスト刺激もしくはテスト刺激とは異なる刺激を選択肢として500 ms順次提示し、最初に提示したターゲットと同一なのはどれかを被験者に答えさせた。提示した刺激パターンは、自然シーン(森林を撮ったカラー写真、216枚)、人工的シーン(50個の小さな立方体の集積シーンのCGでカラーと無彩色)、およびRDS(8個の小さな正方形のあるパターンで、視差もしくは輝度、あるいは両方の手がかりで識別可能)で、すべて両眼視差を付したステレオグラムあるいは視差をつけない刺激パターンとした。これらは両眼立体視あるいは単眼視で提示された。
 実験の結果、(1)自然シーンおよび人工シーン提示の場合、両眼立体視および単眼視の両条件とも刺激提示時間が長くなるとパターン認知の正確度は高まること、(2)しかしこの場合、両眼立体視および単眼視の両条件間には差がないこと、(3)RDS提示の場合、両眼視差と輝度要因が共に働く条件で認知の正確さはもっとも高くなるが、視差あるいは輝度要因いずれかひとつの条件でも認知の正確さは若干劣るものの可能であった。
 これらのことから、短時間提示条件での認知は単眼視要因で基本的に可能であること、また単眼視要因が皆無で両眼視差要因のみの条件でも可能なことが示されている。

奥行面の分割とターゲットの探索
 Finlayson et al.(9)は、探索ターゲットのある面を奥行分割して提示すると、妨害刺激からの干渉を軽減し、探索時間が縮小されるかをしらべた。実験では、一つの奥行面にターゲット(正立T文字)と妨害刺激(非正立T文字)がある場合(図27A)、およびターゲット刺激と妨害刺激が異なる奥行面にある場合(図27B)を設けた。被験者にはこのステレオグラムを両眼視させ、ターゲット刺激の探索に要する時間を測定した。その結果、ターゲット刺激と妨害刺激を提示する奥行面を違えた場合の方が探索時間は早くなることが示された。そこで、妨害刺激を一つの奥行面にのみ提示するのではなく、ターゲット刺激のある奥行面にも提示し、探索時に両奥行面の連結が必要となる事態を設定し、探索時間を測定したところ、ターゲット刺激のある面の奥行を違える効果は消失した。 このことから、ターゲットのある面の奥行を違えても、二つの奥行面にある妨害刺激を連結して探索する必要がある場合には、奥行面の分割はそれ自体では前注意的な機能を果たさないと考えられる。