運動要因による3次元視

2.1.運動要因による奥行

運動要因による奥行に関するニューラルモデル
 対象が接近あるいは後退して知覚される現象(奥行方向運動あるいはステレオモーション)には、両眼視差の変化検出のメカニズム(changing disparity,CD)あるいは左右眼の投影像の網膜速度差(interocular velocity difference,IOVD)検出のメカニズムのどちらかが関わると考えられる。CDメカニズムでは、まず静止した視差を計算し、次に時間に伴う視差変化を計算する。IOVDメカニズムでは、まず単眼での運動を計算し、次に時間変化に伴う左右眼の運動速度差を計算する。左右眼の両眼視差を時間に伴って一体的に変化させた場合にもステレオモーションを生じさせることができるが、この場合にはCDIOVDの両メカニズムが働いている。
 この2つのメカニズムを分離するためには左右眼の関係を妨害する必要がある。たとえば、ダイナミックRDS(DRDS)では、左右で対応のあるドットパターンを用いるが、しかしフレームごとに異なるパターンを提示するので左右間にはCDメカニズムのみが働く。DRDSでステレオモーションが可能なのはCDメカニズムによるが、VOIDも関係していると考えられている。また、アンコラレートRDS(uncorrelate RDS、左右眼のドットパターンは異なり、時間とともに異なるまま左右眼で運動する)やアンチコラレートRDS(左右眼のドットパターンのコントラストが逆転したもの)は、左右眼のパターンに関する対応関係が擬似的であるが、CDメカニズムによって奥行運動視が可能となる。しかしこの場合にも、左右眼の両眼視差は弱いのでIOVDメカニズムが働くと考えられている。
 Peng & Shi (20)は、CDメカニズムおよびIOVDメカニズムの神経生理学的モデルをそれぞれ基盤にしてCDエナジーモデル(CD Energy model)IOVDエナジーモデル(IOVD Energy model)を提唱した。これらのモデルは、視差エナジーモデル(Ohzawa et al.1990)およびモーションエナジーモデル(Adelson & Bergen 1985,Watson & Ahumada 1985)を継承したもので、それぞれとも視覚領の視差と運動に選択的な複雑細胞の働きを数学的にモデル化している。27には、CDエネジーモデル(a)IOVDエネジーモデル(b)が示されている。CDエネジーモデルの第1段階では空間視差ユニット(spatial disparity unitSDUs)に左右眼のイメージを結合することによって両眼視差の分布をつくり標準化する。第2段階では第1段階で得られた各眼の現在とその直前の視差を視差エネジーモデルでに従って符号化して結合し、視差の時間的変化を得る。現在とその直前の視差の結合はサインとコサインの時間フィルター(TCPF/TSPF)によってなされる。一方、IOVDエナジーモデルでは、現在と直前の各眼の入力間の空間的シフト(視差)に選択的なSDUを通して単眼の運動速度分布をつくり標準化する。第2段階では第1段階で得られた速度を左右眼で結合し符号化することで眼球間の速度差を得る。なお標準化プロセス(normalization)では、イメージコントラストに対して標準化した反応をつくる。これら2つのモデルは、前段階の処理過程と後段階の処理過程とを入れ替えたものである。これらの各プロセスの働きは数式で規定され、パラメーターも決められた。さらに、受容野を構成するニューロンのシナプス結合は可塑的なので、試行ごとにこれらニューロンの結合を発達させる学習モデルにバージョンアップされた。ここでは、奥行への運動に求められるニューロン結合のパターンが適切か否かが両眼への奥行運動刺激に対する反応のたびに学習できるようにした。

 このモデルのシミュレーション実験は、ランダムドット・ステレオグラム(RDS)、ダイナミックランダムドット・ステレオグラム(DRDS)、アンコラレートランダムドット・ステレオグラム(URDS)、アンチランダムドット・ステレオグラム(ARDS)を入力刺激とし、それらの奥行方向の運動速度(MID)を変えて実施した。
 DRDSでは両眼間での対応関係はあるものの同一時刻では対応していないので、フレームごとに視差はあるが単眼運動刺激は存在しない。したがって、IOVDエナジーモデルでは奥行運動の出現値が低下することが予測され、シミュレーション実験でもその通りになった。しかし、CDエナジーモデルでは予想に反して奥行運動の出現値の低下がシミュレーションでも示され、CDメカニズムが瞬間ごとの視差を正確に評価できていないことを示した。
 URDSでは両眼間の対応は存在しないが時間的な対応はあるので単眼運動は明瞭だが一貫した視差は存在しない。したがって、擬似的な視差はCDメカニズムを働かせるが、それは弱いので、奥行運動視はIOVDメカニズムによると予測される。シミュレーション実験の結果、IOVDエナジーモデルはこの予測を支持した。しかしCDエナジーモデルのシミュレーション結果もIOVDナジーモデルの予測と同等の結果を示した。これは一貫した視差対応が存在するあるいはしないにも関わらず、SDUニューロンがひとつのピーク値を示し、このピーク値の位置が適切に検出されなかったためと考えられる。
 ARDSは左右ステレオグラムの明るさコントラストが逆転している点がRDSと異なるが単眼の運動刺激は存在する。したがって、逆転した視差は奥行を生起しないので、ここでの奥行運動視はIOVDメカニズムによると考えられた。シミュレーション実験は、しかしながら、CDエナジーモデルとIOVDエナジーモデルとは奥行運動視の予測値が同等となることを示した。これは、SDUでの視差検出において、ピーク値が左右で山と谷を示し、これが視差値として検出されたためである。
 これらのシミュレーション結果から、(1)CDIOVDメカニズムは、両眼間の対応を妨害しあるいは時間的に妨害したステレオグラムを容易には識別できないこと、(2)試行ごとにニューロンの結合を学習させることが可能だが、それはIOVDよりCDメカニズムを用いた方が奥行運動に選択的なニューロンをより発展させる可能性があること、などが見いだされている。 

2.2. 運動要因の奥行効果

運動要因の領域分擬効果
 運動する観察者の網膜に投影される運動パターンは、観察者が視ているシーンの構造を反映して、対象間の相対的奥行や境界の情報を担う。確かに、運動視差やモーションパースペクティブがあると、相対的奥行が出現してそこに境界(boundary)が生じるが、ダイナミックオクル-ジョン事態も境界を出現させる。
 そこで、Yoonessi & Baker(31)ダイナミックオクル-ジョン事態においてドットの拡大と収縮(expansion-compression)および増大と削減(accretion-deletion)2つの手がかりが領域の境界の識別にどのように働くかをしらべた。実験事態は、28(a)に示したように、ディスプレー上に4つの垂直な帯領域を設定し、そのなかのドットを観察者の左右の頭部運動に連動してサイン波形あるいは矩形波形で運動させて提示するものであった。ディスプレー上の円形の枠内に隣接しあう垂直帯領域のドットは相互に反対方向に運動させた(図28b)。実験条件は、29(A)(B)に示したように、境界分擬の2種類の手がかりである「拡大と収縮(黒印で表示)」および「増大と削減(太い矢印で表示)」が奥行に関して一致する条件(Cue-Consistent)、とそれら2種類の手がかりが不一致で知覚コンフリクトする条件(Cue-Conflict)であった。「拡大と収縮」では刺激面のテクスチャが速度差をもって運動、また「増大と削減」では面の境界でドットを増・減させた。手がかり不一致条件では、「拡大ー収縮」手がかりで手前にあると規定された面で同様な手がかりで後ろにあると規定された面をオクルードさせた。分擬する境界は図29C(運動パターンが矩形波の場合)とD(サイン波形の場合)に示すように、斜め方向に提示し、その方向を被験者に判断させた。また、運動パターンは頭部運動に連動させる条件、およびこの頭部運動条件をビデオ録画して提示する頭部静止条件を設定した。さらに、頭部運動速度とドット速度との比率を0.010.030.114段階に操作した。この速度比率を高めると、それに比例して出現させる奥行を観察距離に比例して大きくした。実験では実験条件ごとに頭部運動速度とドット速度との比率を変化させ、そのときに出現する奥行境界の傾き方向(右あるいは左)を恒常法で測定した。
 その結果、(1)頭部運動条件と頭部静止条件では、境界線の方向の閾値に差が生じないこと、(2) 手がかりが不一致条件でも境界線の方向の閾値は手がかり一致条件と同等であることが示された。これらの結果は、頭部運動と随伴した運動視差による奥行は境界の分擬において効果をもたないこと、さらに「増大と削減」手がかりは「拡大と収縮」手がかりと同等の効果を境界の分擬にもつことを示した。 

2.3. オプティク・フロー

能動的オプティク・フローによるリジディティ (rigidity)の誤知覚(misperception)   知覚の最終目的は外界の事物を正確に把捉することである。もし刺激が乏しく十分な感覚情報が無い場合でも最低限オプティマルに視覚システムは知覚する。この「観察者-最適モデル(observer-optimal model)」では、観察者の運動に伴う網膜以外の感覚情報が利用されること、および知覚した対象が剛体特性(rigid)をもつものであることを前提としている。このような考え方に対して、視覚システムのゴールは事実と一致するように事象を再構成することではなく、観察者の知覚と運動の間をヒューリスティックに調整する(ヒューリスティックモデル)という考え方もある。ここでは知覚が事実と一致しなくてもかまわなくなる。
 Fantoni et al.(6)は、オプティック・フローからの3次元物体がどのように知覚的に再構成されるかをしらべることを通して、視覚システムがオプティック・フローからダイレクトに3次元の構造物を、それが事実と一致しなくても、構成することを実証した。実験は、30のような2つの平らな面を観察者の頭部を横方向に移動させながら2つの面の間の中心を注視させながら観察させた(30a)2つの面にはランダムドットがテクスチャとして設定され、また2つの面の回転角度は垂直軸に関して傾斜させた。ここで、Txは移動速度、Zは観察距離、ωは対象面のローテーションによる角速度、βは対象の視角である。観察者がある速度で頭部を横方向に移動させると、2つの対象面の角速度はωr1=ωr2=−ωeとなる。対象面のローテーションによって網膜上のランダムドット(テクスチャ)にはオプティク・フローが生起する(30c)。このオプティク・フローはテクスチャの圧縮率で、すなわちオプティク・フローの勾配による変形(degormation,def)で規定できる。2つの面の変形(def)はβ12−β11間の率(β12/β11 赤で表示)およびβ22−β21間の率(β22/β21 青で表示)で与えられる(図30bの左)。同一の変形率(def)は観察者の異なる頭部運動(図30bの中央)による異なる対象面の方向でも生じさせることができるし、また観察者の頭部運動によってひとつの対象面をもうひとつの対象面に関して回転(ωs2)させる非剛体特性を持つ刺激(bの右図)でも生じさせることができる(回転速度はωr2=ωs2=−ωe)。実験では、観察者が頭部を横方向に移動させ、そのときに生起する2つの面のオプティク・フローを観察させるアクティブ条件、および観察者が静止したままアクティブ条件のオプティク・フローのリプレーを観察させる静止条件を設定した。2つの面の片方はいつも静止、他方を頭部運動に連動して回転させ提示した。被験者にはどちらの面がより速く動いて知覚されたか、また2つの面が構成する角度が縮小あるいは拡大して視えるかを刺激提示後に尋ねた。
 実験の結果、アクティブ条件では2つの平らな面は非剛体性をもつと知覚されたし、2つの面の間の角度は観察者の動きに伴って変化すると判断された。これらアクティブ条件での知覚バイアスは静止条件のそれらと同一傾向を示した。また剛体性の知覚は刺激特性から直接に生じるのではなく、2つの平らな面の間の速度勾配(defs)間の差で説明できるものと一致していた。これらのことから、観察者は「観察者-最適モデル」によっているのではなく、ヒューリスティックモデルに基づいて外界の対象を知覚していると考えられる。

オプティクフローとモーションコントラストに応答する皮質の反応
 運動刺激のなかでオプティク・フローは観察者の運動の手がかりとなり、モーションコントラストは対象探知の手がかりとなる。オプティク・フローは、311.1にあるように、観察者が奥行方向に運動するときの放射状の拡大パターン(radial expansion)が主となるもので、これに横方向の前進流動パターン(foward translation)や頭部や眼球の回転させたときの回転パターン(rotation)やリニアーなパターン(linear translation)が加わる。対象の探知の場合には、図31の1.2のようなモーションコントラスト(motion contrast)、すなわち流動パターンの部分的方向速度(運動視差に相当)の違いが観察者に対象を背景からの分擬させる。運動視差に帰因するものに運動方向のコントラスト(direction contrast)もある。これは、注視点より手前にある対象は観察者とは反対方向に、遠くにある対象は同方向に動くことを手がかりとする。
 一方で、運動の方向を検出するニューロンはサル類のV1で発見され((Hubel & Wiesel,1968)、またより広い範囲の運動パターンはV1より高次の視覚野で発見された。さらにマカク類の中側頭野のV5、人間ではhMT野には運動を統合する領域および対象を局所的に分擬する機能があることがつきとめられている(Born & Bradley, 2005; Britten et al., 1992;Newsome & Pare, 1988,Born & Tootell, 1992; Born et al., 2000; Likova & Tyler, 2008; Marcar et al., 1995; Pack, Gartland, & Born, 2004)。また、最近のfMRI を用いた研究では、さまざまなタイプのグローバルパターンがV6 MST、後帯状皮質を活性化させることも示された(Cardin & Smith, 2010; Cardin et al., 2012,Fischer et al., 2012)。さらに、人間の児童と成人の運動パターンに対する視覚領の反応を定常状態視覚誘発電位(SSVEP、定常的な刺激を与えることで大脳皮質視覚野に生じる視覚誘発電位)で測定したところ、児童は速い速度の運動パターンと方向が互いに反対の運動パターンに強く応答することが示され、一方、成人はゆっくりした速度の運動パターンとラジアルな方向の運動パターンに強く応答した(Hou et al.,2009,Kiorpes & Movshon, 2004,Hadad,Maurer, & Lewis, 2010, Gilmore et al., 2007)。これらの研究から、運動パターンと運動速度は密接に関係していると考えられる。
 そこで、Fesi et al.(8)は、オプティクフローとモーションコントラストの両条件で運動パターンと運動速度が運動視に与える効果を成人を対象に定常状態視覚誘発電位で測定した。実験は、32に示したパラダイムで実施された。オプティクフロー(32-1.3)条件では、はじめに同一方向へのドットモーション(coherent phase)を提示(t1)、次にランダムな方向へのドットモーション(incoherent pahase)を提示(t2)、さらにこれをドットの運動方向を逆にして反復提示(t3)、最後にランダムな方向へのドットモーション(t4)を提示した。モーションコントラスト条件(32-1.4)では、4つの小矩形(横列2、縦列に2)を提示しそのドットの運動方向を周囲領域とは反対方向にして提示(t1)、つぎに小矩形を除去しドットをすべて同一方向に運動させて提示(t2)、さらに小矩形を提示しt1とは周囲と小矩形の運動方向をそれぞれ逆転して提示(t3)、最後に小矩形を除去しドットをt2とは逆方向に運動提示する。ドット運動の速度はドットモーション条件では12481016 deg/sに、モーションコントラスト条件ではドットモーション(t4)を提示する。モーションコントラスト条件でのドット運動速度は2.14.216.2 deg/sにそれぞれ設定された。ディスプレー上のドット位置は24Hz で書き換えられた。したがって、オプティクフロー条件では、ドットパターンが3種類、速度が6段階に変化、またモーションコントラスト条件では運動方向(相互に同方向あるいは異方向)、コヒーレンス(規則的あるいはランダム)、運動速度(3段階)に操作された。ディスプレー上にこのキネマトグラムを提示し、その間の定常状態資格誘発電位が被験者の後頭野から測定された。
 その結果、(1)コヒーレントなラジアルモーションは、もっとも強い誘発電位を起こすこと、(2)ドット運動パターンとドット速度には強い関係があり、とくにドット運動速度が2deg/sのラジアル運動パターンで側頭野の誘発電位はもっとも顕著なこと、(3)8 deg/s16 deg/sでは運動パターンの種類に関わらずに背側正中の後頭野からの誘発電位が起きること、(4)モーションコントラスト条件ではドットのコヒーレンスと運動方向による違いは誘発電位の反応プロフィールやその分布にはあらわれないこと、などが示された。
 これらのことから、観察者自身の運動および観察者の運動に伴う視野内の対象の運動は皮質内では同一の回路を活性化させ、しかもこの活動は観察者自身の運動と対象運動にまたがるばかりでなく、各運動のパターン(ラジアルかローテーションかトランスレーション)および各運動速度にもまたがっている。

2.4. ベクション

ベクションにおける奥行方向への新たなスピン
 放射状に拡散するオプティクフローを観察すると、静止した観察者は主観的に奥行方向へ動くように感じられる(33A)。このベクションは、あたかも観察者が頭部を左右に動かしたようなサイン波形上の変化をオプティクフローに追加すると、それが視覚と前庭感覚との間にコンフリクトを起こしているのも関わらず奥行にまっすぐにではなく曲線状に動くように感じられる(図33B)。一般に観察者が前進しながら頭部を運動させるモーション・パースペクティブが生起するので、オプティクフローにモーション・パースペクティブが追加されるとベクションを強める。
 そこで、Kim & Khuu(17)は、34Aのようなオプティクフローを設定して自己誘導運動であるベクションをしらべた。実験条件は3通りである。すなわち、条件(1)は純粋な放射状のフローパターンで、ここでは周辺にいくに従い速度が増す(34B)。条件(2)は観察者があたかも頭部を0から9°の範囲で左右にオシレートした状態をシミュレートしたオシレーションフローパターン。条件(3)は視点があたかも回転するように放射状のフローに時計あるいは反時計回りに回転するスパイラルパターン(34CD、ここでは運動視差は働いていない)。ここでのフローの回転角度は0°、10°、20°、30°に設定した。実験では、図34Aに示したように、ディスプレー上に青の小矩形をフロー状に動かしてオプティクフローを提示した(緑の小矩形は注視点、赤の矢印は注視点の中心とした小矩形の回転方向)。被験者には、注視点のある条件あるいは無い条件で、主観的な自己誘導であるベクションの強さを0から100の範囲のメートル単位の物差で表すように求めた。その結果、純粋な放射状フローパターン条件(条件1)に比較し、視点を中心にオシレーションするフローパターン(条件2)、とくに注視点を定めない条件では、ベクションの潜時を短くし、その強さをオシレーション角度の増大とともに大きくすることが示された。
 このようにオシレーションするフローパターンがベクションを増強するのは、網膜への刺激が刺激のオシレーションによって網膜順応を低減するからとも考えられる。そこで、視点がオシレートするオシレーション条件とフローが時計回りあるいは反時計回りのいずれかのみに渦巻き状に回転するスパイラル条件を設定してベクションの強度をしらべた。スパイラル条件では刺激が1方向のみにフローするので順応はオシレーション条件より多いと考えられる。その結果、オシレーション条件の方が有意にベクション強度が大きかった。
 頭部を左右に移動させることで視点が変化する事態をシミューレートしたオシレーション条件でベクションが大きいのは、運動刺激残効(Motion Aftereffect,MAE)が純粋な放射条件あるいはスパイラル条件に比較して小さいためと考えられる。そこで、放射状に拡散する事態での運動残効(放射状刺激の縮小として知覚)の持続時間を測定した。被験者に40秒間フロー刺激を提示して順応後、運動残効の持続時間を応答させた。その結果、オシレーション条件が有意に運動残効持続時間が短かった。
 これらのことから、視点を左右に振った事態をシミュレートしたオシレーション条件はベクションを強く誘導するが、これは運動視差の働きによるのではなく、網膜への2次元の運動刺激がその位置を常に変えることで運動残効を起こりにくくし、網膜感受性を持続的に高めているためであることが明らかにされた。