7. その他の3次元視研究

身体に強く影響された知覚(embodied perception)−アフォーダンスと空間知覚の再考察
 身体に強く影響された知覚(embodied perception)」とは、Proffitt(2006, 2013)のたとえ話によると次のようである。いま、山の登頂を目指す登山家がその山の急峻な傾斜を目前にして、この山を登攀できると知覚するかあるいは自分の身体的力量では無理と知覚するかは、その登頂という行動に関わる身体的な潜在的可能性にもとづいてその山が提供する視覚情報をどのようにとらえるかによるという。もし身体的に疲労していれば、その山は実際よりは急峻に知覚されるので登攀は断念されるだろう。このProffittの考え方に対してFirestone(2013)は、このような知覚のバイアスは人間の行動能力を変えるほど大きくはないこと、行動ユニットは知覚ユニットに比較して不相応であること、この種の知覚的バイアスは主観的に気づきにくいこと、そして知覚的なバイアスは判断に影響するが知覚には影響しないことをあげて批判した。
 Canal-Bruland & van der Kamp(5)は、「embodied perception」の考えはGibson,J.(1979, 1986)の視覚についての生態光学的なアプローチにもとづくアフォーダンス(affordance)に依拠していることを指摘し、アフォーダンス知覚と空間の諸特性、たとえば大きさ、距離、明るさといった特性に関する知覚との関連づけを行うことが必要と主張する。というのも、アフォーダンス知覚は行動するかしないかの二者択一的であり、空間知覚は連続的であるからという。そして空間知覚はアフォーダンス知覚によって強く影響され、とくにそれが行動するかしないかのきわどいところで影響される(45)。図は空間知覚特性とアフォーダンスの関係を図式化したもので、横軸に空間(環境)特性、左縦軸に空間知覚、右縦軸にアフォーダンス知覚を示している。これによれば、アフォーダンス知覚、たとえば身体的疲労によって行動しないほうにシフトしていれば空間知覚も歪められ、さらにアフォーダンス知覚が行動するかしないかの境目にシフトすると空間知覚はいっそう歪められる。
 Canal-Brulandらは、空間知覚、アフォーダンス知覚、そしてembodied perceptionの関連についてさらなる検証が必要と論じている。

バーチャル・リアリティ事態(VR)でのアバターの視線方向の認知
 他人の視線がどこに向いているかを認知することは他者と交わる社会的行動、とくに他者の注意や関心を知る上で欠かせない。Atabaki et al.(2)は、今回、他者にコンピュータで作成した3次元のアバターを視線の送り手とした事態で被験者はどの程度正確に視線方向と視線が視る対象を同定できるかを実験した。実験では、図46に示したように、アバターをVR空間に提示し、視線の対象をアバターの周囲に設定したサークル(点線)上に提示する条件(A) 、および視線の対象をアバターから放射状に設定したどこかに位置させる条件(B)で、その視線先がどこの対象を見ているかをカーソルを動かすことで被験者に同定させた。ここでは、実人間では操作できない虹彩や強膜のコントラスト、眼瞼の形状が変化された。
 実験の結果、被験者はVR事態でアバターの視線先の方向と対象の認知を実人間を用いた条件と同等の特徴を示して行うことができ、また実人間では操作できない眼瞼の形状要因の視線先認知に対する効果も示された。このことから、アバターを利用することは実人間では操作できない要因、たとえば顔面表情、陰影の役割、顔面の相称性や頭部の位置の操作の視線先同定への効果も試すことができ、視線先の認知の研究に有効なことが示されている。