まとめ

両眼立体視

1.視野闘争
視野闘争(binocular raivalry)と刺激闘争(stimulus rivalry)の神経生理的基礎
 Petruk et al. (23)は、刺激闘争が定常の視覚誘発電位(steady state visually evoked potentials 、SSVEP)において両眼視野闘争と類似した反応をとるかを神経生理的競合で追跡するために両方の知覚闘争で出現するSSVEPの周波数に注目してしらべた。SSVEPで得られたデータから刺激闘争と両眼視闘争の各条件の後頭部における空間的トポグラフを描き、各実験条件間で電極位置の反応差を求めたところ、すべての条件において後頭部の電極のみ他の部位と比較して有意な差が示された。これは刺激闘争と両眼視闘争条件の知覚闘争において同等の神経過程が初期後頭部に生起し、さらに、両実験条件における神経過程の抑制のレベルは同等であることを示した。これらのことから、知覚闘争のメカニズムは後頭部(大脳後頭極と中側頭回)で同一の深さで起きていると考えられる。
コントラストと輝度刺激および左右眼のノイズ条件での視野闘争
 Skerswetat et al. (36)はLM(第1順位の輝度特性)とCM(第2順位のコントラスト特性)の刺激に対する断片的闘争および重複的闘争がどのような割合で生起するかを量的にしらべた。その結果、すべてのノイズ条件でLM刺激は視認性が明瞭で重複的視野闘争が低く、逆にCM刺激ではその出現割合が大きく出現時間も長かった。またLM、CM刺激ともcorrelatedなノイズ条件ではAnti-correlated noiseおよびUn-correlated noise条件より重複的視野闘争の出現割合が大きかった。断片的視野闘争は、LM、CMの刺激タイプの間、あるいはノイズ条件間で有意差が生じなかった。CM刺激でAnti-correlated noiseおよびUn-correlated noise条件では視野闘争の変化数は高かった。これらの結果は、刺激タイプがCMでノイズが両眼間で対応していない場合には、相互の抑制作用が輝度ノイズ(第1順位刺激成分)とコントラストノイズ(第2順位刺激成分)の神経生理的プロセス間で起きていることを示唆する。視野闘争に第1と第2順位の刺激成分が関わっているLMよりCMタイプの方が重複的闘争の割合が高く、これはCM刺激の一方の眼の局所的コントラストの変調領域が他眼の平均輝度に近接した領域を優勢に支配するためと考えられる。断片的あるいは重複的視野闘争のいずれが知覚されるかは、左右眼でCMが交じわる領域があるかどうかで決まる。ノイズがcorrelated条件で視野闘争出現せず、重複的闘争が多くなると予測される。Anti-correlated noiseおよびUn-correlated noise条件では左右眼の交わる領域で局所的な視野闘争が起きれば重複的あるいは断片的闘争が知覚される。また、輝度の平均化(総和)が左右眼の交わる領域で起きれば、断片的闘争が知覚され、Anti-correlated noiseおよびUn-correlated noise条件の方がcorrelated noise条件より多くなる。CMあるいはCMの左右眼の交わる領域は重複的もしくは断片的視野闘争を誘導すると考えられる。

視野闘争における交替頻度の個人差

 Brascamp et al.(4)は第1に、視野闘争の知覚交替頻度における個人間差が神経生理過程の順応によるものかを順応の代理現象とみなされる視覚残効と対応するか、第2に視野闘争の交替頻度は他の多義的な知覚現象であるNecker cube、運動誘発盲と対応をもつか(対応があれば抑止あるいは順応過程を反映する)、第3にキー操作による知覚交替の測定は実際の知覚とは異なる非知覚的要素を含む可能性があるリプレー法と同等の個人間差を生じるかを、それぞれ実験課題として吟味した。実験の結果、視野闘争、運動誘発盲、運動による形状視、陰性残像、傾斜残効、運動残効の各課題の結果について、すべての組合せの相関係数およびその有意差であるp値(p-value)を求めた。その結果、視野闘争ー運動誘発盲、運動誘発盲ー傾斜残効、そして陰性残像ー傾斜残効で有意差のある相関が認められたのみであった。さらに、視野闘争における実際の知覚交替のキー操作反応は実際の知覚ではなくスクリーンの映像に反応させる非知覚反応であるリプレー法のそれと類似し、被験者は実際の知覚交替を正確にキー押しで反応していることが示された。これらの結果は、視野闘争の時間的知覚交替過程における個人差は視覚残効の順応過程における個人差および多義的知覚における知覚交替頻度とは無関係であることを示した。
2. 両眼立体視

両眼間の対応感度とステレオ視の関係
 Reynaud & Hess(26)は、ステレオ視と両眼間の対応関係を両眼間の刺激対応度を操作して検討した。その結果、左右眼別々にサイン波形をもち左右眼での刺激対応度を変調させた帯域通過型のテクスチャ刺激に対する両眼相関関係(IOC)感度は、空間周波数の低帯域通過型あるいは帯域通過型の関数特性を示した。また左右眼の対応度を変調させた視差感度も同様な関数特性を示した。これらのIOC感度と視差感度は刺激持続時間に伴って向上し、とくに高空間周波数パターンで顕著に示された。刺激コントラストを操作した場合の空間周波数に伴うIOC感度は刺激パターンのコントラストが0.3のときにもっとも悪く0.5-1.0の条件で増大した。空間周波数に伴う視差感度はコントラスト1.0でもっとも良く、低下するにつれ悪くなった。さらに、IOC感度(測定値の計算によって求められた最大感度)と視差感度(測定値の計算によって求められた最大感度)の各被験者データ間の相関を求めると相関係数は0.137、また空間周波数でみた最大IOC感度と視差感度の相関は0.207となった。これらはいずれも有意な正の相関を示した。しかし、左右の眼球バランスの各被験者の測定値(0.7から1の範囲)と各被験者のIOC 感度あるいは視差感度をしらべると、眼球間バランスと2つの感度の間には優位な相関は示されなかった。これらの結果から、IOC 感度は弱いながらも視差感度と相互に関係していた。両眼視機能の障害をもつ弱視者では、IOC感度は視差感度よりも精度の高い測定方法として使えると考えられる。

ステレオ刺激からの面のアモーダル(amodal)な統合に関わる知覚メカニズム
 He et al.(12)は、両眼立体視事態で視差をもつ面と視差ゼロの面が同一のあるいは異なるコントラストをもつ場合のアモーダルな統合の過程をしらべた。それら一連の実験結果から、(1)2つの縦帯のオクルード刺激によって3つに分断された横帯面の左右端矩形に視差を中央矩形には視差ゼロの3次元面事態では、アモーダルな面の統合は分割面が同一の輝度コントラスト条件で成立し、反対コントラスト条件では成立しない、(2)横帯刺激の左右端矩形とオクルーダー刺激の境界にできる単眼奥行手がかりのT接合はアモーダルな面の統合に関与せず視差手がかりのみで十分である、(3)アモーダルな面の統合はアモーダルな2つの面の分離距離が大きくなると減じる、(4)アモーダルな面の統合はアモーダルな2つの面の間のズレが大きくなると減じる、(5)アモーダルな面の統合はオクルード刺激が単一でも生起し、その場合、出現する面は斜の角度をもつ面になる。これらの結果からアモーダルな面の統合過程についての2段階モデルを提唱した。すなわち第1段階は、2つの面の間の境界を割り当てるプロセス、第2段階は該当する面を拡大延長、そして統合する過程である。第1段階では、単眼手がかり(T接合)と両眼視手がかり(視差)によってオクルード面とオクルードされた面の間の境界の所属が決定される。第2段階では境界をもたない面が左右端から相互に作用しながらオクルード面の背後に伸びて広がる。その結果、3次元のアモーダルな面の統合が起きるというわけである

ステレオ視における面の連続と不連続
 Goutcher et al.(10)は、面の急峻(steepness)と不連続が組み合わされたときの奥行知覚への効果をしらべた。実験の結果、(1)面のエッジからエッジまでの視差量が同一の場合、視差変化によって面の急峻度を増大させると視かけの奥行は小さい、(2)面のエッジからエッジまでの視差量が同一の場合、面の急峻度が弱まるとエッジからエッジまでの奥行の平均主観的等価値は増大する、(3)面の中央部分にギャップがあっても視差変化が急峻の場合には、ギャップがない条件と同様に視えの奥行が小さい、(4)面の中央部分をギャップの代わりに前額平行面を挿入しても視差変化が急峻の場合には同様に視えの奥行が小さい、(5)面の エッジからエッジまでの間に2つの等価な奥行面のある条件では視差が大きい場合に連続面条件より視えの奥行知覚は小さいこと、(6)不連続面を横にずらした場合には視差を大きくしても視えの奥行は一定を保つ、などが示された。これらの結果を通覧すると、面のエッジからエッジまでの視差量が同一の場合、視えの奥行は視差の変化がゆるやかな場合よりも小さくなる。これは面に不連続があっても成り立つので、良い連続というゲシタルト原則はここでの視えの奥行視に関与していない。また、面の急峻の程度や不連続性おける奥行視は相対視差をグルーピングあるいは平均化するメカニズムに依存し、ハイパーキクロピアン(特定の視差変調の周波数チャンネルに選択的に反応)のフィルターリングによるスムーシング機能が連続する面の奥行知覚には影響しないと考えられる。すなわち、面のエッジからエッジまでの視えの奥行は相対視差の勾配が高い場合に大きく、この相対視差の勾配は面の不連続がある場合にとくに重要であり、ハイパーキクロピアン過程でのスムーシング効果では説明できないことを示唆する。まとめると、ステレオ視パターンにおける視えの奥行の主観的等価値は相対的視差の統合によって規定され、視差が同一方向に急峻に変化する場合にはそのバイアスが大きいこと、逆に全体的な視差変化に抗する急峻な視差が挿入される場合にはそれによって視えの奥行は減じると考えられる。

自然シーンにおけるさまざまな奥行の変化とステレオ処理の課題
 自然シーンにおける特定部分の奥行変化は固有の特徴をもつが、そのステレオ視に対する知覚的効果はいまだ明らかにされていない。自然シーンにおける奥行の変化は対象と均一では無い面の部分の間のエッジによっている。Iyer & Burge(14)は、自然シーンの奥行変化が両眼立体視のしくみ、とくに部分がオクルージョン(half occlusion)された事態の検出およびその視差検出にどのように影響するかを検討した。ここでは、自然シーンのステレオイメージおよびレーザーによる距離測量値が共に記載されたデータベースを用い、計算論による研究(computational study)、すなわちステレオイメージにおける対応点をサンプリングし、それらを補間することで視差を推定した。その結果、自然シーンにおけるハーフオクルージョンとその視差の計算による検出が高度に信頼できること、また局所部分の視差変化(local depth variation) とハーフオクルージョンが有るか無いかの確率は網膜の離心率(eccentricity)にともなって変わること、さらに自然シーンにおけるハーフオクルージョンの分布の大きさと両眼視観察可能な領域の大きさの程度を確立した。 ここで示された自然シーンのあらゆる場合における視差検出は、ステレオビジョンの精神物理的研究の素材および自然シーンにおける視差の最適化のモデルになると考えられる。

近視における時間的両眼情報の処理
 Vera-Diaz(39)は、左右眼の視力のバランスが空間周波数を変えたとき時間的・空間周波数(TF)にどのように依存するかをしらべた。低空間周波数と高時間周波数は選択的に網膜神経節細胞の大細胞経路によって処理されるのに対して、高空間周波数と低時間周波数は選択的に網膜神経節細胞の小細胞経路によって処理されるので、この種の細胞の形態の相違は近視の問題においても感度の差をもたらすと考えられる。屈折異常を指標として14名の近視者と19名の正視者に被験者を分けて実験の結果は考察され、ステレオプシスの閾値は正視者と比較して近視者で有意に大きいこと、とくに近視が強い者は閾値が高いこと、また時間周波数の増大に伴って閾値はリニアに大きくなるが近視者は常に閾値が大きくとくに4Hzで両グループの差が有意に大きいこといことが示された。さらに空間周波数の増大にともなって閾値はゆるやかに増大するが、ここでも近視者は正視者に較べて大きいことが示された。両眼視バランス事態での文字の読み取りテストでは、空間周波数あるいは時間周波数をそれぞれ独立に変化させたときの左右眼のコントラストバランスの値は近視者と正視者間で有意差がないこと、屈折の程度と両眼バランスの間にも有意な相関がないこと、しかし高空間周波数と低時間周波数では近視者は正視者より左右眼インバランスが高いことなどが示された。これらの結果から、正視者と比較すると近視者はフリッカーした刺激に対してのステレオオプシスが良くなく、また高空間周波数と低時間周波数で左右眼インバランが大きいこと、しかし正視者の両眼視では空間周波数と時間周波数に同等に依存することが明らかにされた。 

自然シーン観察における両眼視差の神経生理的反応
 Duan et al.(7)は、128チャンネルの高密度脳波測定(high density EEG)を用い、2次元シーンにスクランブルをかけたイメージ、2次元自然シーンおよび3次元自然シーンを提示し、それらの事象関連電位を測定して比較し、両眼視差の固有な空間と時間の双方に関連した反応分布がどのようになるかをしらべた。実験の結果、シーンの2次元あるいは3次元の識別は正答率が90%以上で、またその識別が正確な被験者は反応時間も速かいことが示された。この研究のメインのテーマである2次元自然シーンおよび3次元自然シーンにおけるそれぞれの視差関連電位を比較すると、マイナスの電位が持続的に観察され、視差固有の電位反応の大きさは観察者のステレオ視力と相関しているとともに、スクランブルシーンと2次元自然シーンとの反応の大きさとも異なっていた。3次元シーン内の対象の距離の大きさを白黒で表示したデプスマップ(depth map)を用いた視差事象関連電位も視差固有の大きな誘発電位が示された。さらに2次元シーンの事象関連電位は後頭頭頂葉でピークを示すのに対し、3次元シーンのそれは後方にシフトした。

反射性融合バージェンスの順応
 Erkelens & Bobier (9)は、反射性の融合バージェンスの順応能力を順応過程の最中に反復提示したテスト刺激に対する眼球の運動の速度や振幅をダブルステップパラダイムで測定してしらべた。実験の結果、左右眼の輻輳の振幅と速度は輻輳値減少(CGD)と開散値減少(DGI)条件では順応フェーズにおいて輻輳値増大(CGI)条件より急速な変化が起きたが、開散値減少(DGI)条件では大部分の被験者の反応はたとえ変化があっても限定的だった。反射性の融合バージェンスの順応は輻輳と開散の増減で非対称の反応をすることが示された。非交差視差に対する眼球の融合バージェンスの順応能力が限定されていることから、輻輳と開散の反射的融合バージェンスを担う神経過程は異なることを示唆する。これはVRを用いた場合など開散的融合(非交差示視差)で順応からの回復が遅いことの原因となる。

3. 奥行の順応過程
 He & Shigemasu(13)は、順応刺激のパターンを構成する刺激要素が順応過程にどのように関与するかを、格子パターンの構成要素を操作してしらべた。その結果、実験1では、順応とテスト刺激の組合せが「水平ー水平」および「水平ーハーフプレイド」条件間の残効量には有意差があること、そして「ハーフプレイドー水平」の条件および「ハーフプレイドーハーフプレイド」条件間の残効量にも有意差があることが示され、残効は水平波形あるいは格子パターンの水平波形要素によって決められることを示した。実験2では、「水平ー水平」と「水平ープレイド」間の残効量、そして、「プレイドー水平」条件と「プレイドープレイド」条件間の順応量には、ともに有意差がなかった。実験3では、順応とテスト刺激が「ノイズー水平」条件の残効量は「水平ー水平」条件より小さくなることが示された。結局、奥行順応量は順応とテスト刺激間の類似する方向に指向性をもつチャンネルの振幅に対するの順応の程度によって決められていた。この結果から、奥行順応にはキクロピアンに方向づけられた視差による奥行の帯域通過型のフィルターの存在が示されている。

4 .発達的研究
  Seemiller et al.(32)は乳児の絶対両眼視差に対する反応がいつごろ起きるかについて実験的にしらべた。35日齢から65日齢の22名の乳児にポラロイドレンズを用いて左右眼それぞれに刺激パターンをリアプロジェクションに提示して両眼の輻輳反応を測定した。実験の結果、35日齢から65日齢のうち半数を越える乳児(12名)は、視差0.1Hzで2°の振幅でオシレートするダイナミック・ランダム・ノイズ刺激に対して視差に同期した輻輳眼球運動を生じさせた。この結果を示した被験乳児のなかでもっとも早い段階は35日齢の乳児(1名)だったことから、この時期には両眼視差能力がすでに備わっていると示唆された。これまでの研究による発達臨界期より2月齢は早く発達すると考えられる。

5.
その他の研究

大きさ錯視と第1視覚野

 エビングハウスの大きさ錯視図形において誘導図形が何らかの方法で抑制され知覚的に意識されていなくても錯視が生起するか否かがNakashima & Sugita(21)によって視野闘争を利用して検討された。実験の結果、4名の被験者を除き抑制条件では錯視の誘導図形は知覚されなかったので、抑制効果は成功していた。そこで、錯視条件と抑制条件で大きさの主観的等価値(PSE)を比較すると、後者は前者の約1/3に縮小するが生起すること、また両条件ともISIが長くなると錯視効果は同一の速度で減衰することが示された。さらに、意識的知覚が抑止された眼から他眼への錯視の眼球間転移は生起しなかった。これらのことから、エビングハウス錯視は誘導図形の知覚が意識されていなくても生起することから第1視覚野の単眼視経路が関係すると示唆される。

両眼間の刺激差異に対する順応
 Kingdom et al.(15)は、両眼間の差異(Interocular Differences、IDs)の知覚に順応過程があるかどうかを実験的に検討した。実験の結果、(1)アンティコラレート(Anti-correlated)、不一致(Uncorrelated)、単眼視(Monocumar)に順応後の両眼間フェーズ差の検出閾値(IDs)を測定したところ、それはコラレート(Correlated)条件を除いて上昇すること、(2)閾値(IDs)は単眼視条件より不一致(Uncorrelated)の順応条件で大きいこと、(3)コラレート条件に対するアンティコラレート条件の閾値の比は順応刺激の空間周波数の方向がテスト刺激と一致したときに最大となるが、他の空間周波数の方向条件ではその比は小さいこと、(4)コラレート条件に対するアンティコラレート条件の閾値の比は順応刺激のパッチサイクルが2cppの場合にもっとも大きく、他の順応刺激のサイクル条件では小さいこと、などがそれぞれ示された。これらの結果は、眼球間の差異検出が高度に順応的であることを示し、両眼視チャンネル仮説(各眼に入力される信号を総計するB+過程と各眼の刺激差異を検出するB-過程から成立、Li and Atick 1994、Zhaoping 2014)を支持している。運動による3次元視1.オプティクフロー
観察者の移動距離知覚と視点の振幅(oscillation)

 Bossard & Mestre(3)は、3次元頭部運動によって変化する視点の振動(周波数oscillation)が観察者の移動距離知覚に与える効果をオプティクフローを単独に操作できるバーチャルリアリティ(VR)でしらべた。その結果は、観察者の視点振動(周波数)とくに1 Hzと2 Hz条件が4 Hz 条件より記憶させた歩行距離知覚を増進することが明らかにされ、これには眼球の追従による前庭感覚は関係しないことから、歩行距離知覚は大局的な網膜運動によると考えられる。放射状拡大と収縮するオプティクフローによるベクションの発達的比較 Shirai,et al.(35)は、放射状に拡大あるいは収縮するオプティクフローによるベクションについて発達的にしらべた。その結果、すべての年齢群で収縮運動条件での潜時は拡大運動条件より有意に短いこと、また拡大運動と収縮運動の両条件において成人群より児童群で有意に潜時は短く、強さ大きいことがそれぞれ示された。これらの結果から、オプティクフローの運動方向の違い(拡大あるいは縮小)によるベクション経験の非相称性は児童群で顕著で、しかもベクションの知覚経験は成人群より敏感である。

2.ステレオキネティック効果
ステレオキネティック効果における最少の変形という拘束条件
 Xing & Liu(42)は、ステレオキネティックコーンの知覚がslow and smoothness仮説とリジット仮説のいずれで生起するかを検証するために偏心的なドットの位置によってどのようにステレオキネティックのコーンの高さが決まるかを実験で確かめた。実験の結果、ドットの偏心位置角度が短軸の方へ増大すると視えの奥行(平均)は有意に高くなり、この傾向は縦横比が大きいくドットと楕円の回転の中心の間の距離が大になるほど顕著なことが示された。そこで、コーンの視えの高さ(h)の予測値と実測値の間の関係を最小二乗法でみると、縦横比が0.6の場合の最小二乗法のスロープは、1.00、0.8の場合には0.98となり、したがって視覚システムはコーンの変形を最小にするために視えのコーンの頂点が回転するディスクの中心軸にもっとも近接した場合にその高さを最大としていると考えられる。これらの結果から、多義的なステレオキネティック刺激を観察する場合、視覚システムはその運動速度を最小に、そしてその形状のリジッドを最大にするような偏好性をもって形状を知覚すると考えられる。

3. ベクション
オプティクフローの持続時間とベクション
 Seno et al.(33)は、オプティクフローの提示持続時間がベクション開始までの潜時およびその強度におよぼす影響についてしらべた。実験の結果、150本のビデオクリップによるベクション強度の数値は84.21、またその提示持続時間とベクション強度間の相関係数は0.46となり、ビデオクリップの持続時間が長いとベクション強度が強まることが示された。そこで、人工的なベクション誘発刺激を用いて持続時間(8、16、32、64秒)と誘発ベクション強度の関係が検討された。その結果、提示持続時間が大になるとベクションから離脱するフェーズが長く頻度も多くなること、全提示時間に占めるベクション持続時間の割合(%-duration)も提示持続時間が増大すると大きくなること、そして、提示持続時間とベクションの評価強度、および%-durationとベクション評価強度との間には有意な相関があることが示された。これらの結果から、ベクションが起きるためには運動刺激の提示から数秒後であること、ベクション強度は提示持続時間の長さに応じて強くなること、さらにベクションの離脱がしばしば起きることが確認された。

4.その他の研究
3次元運動の系統的知覚の誤りとベイズ定理による説明
 Rokers et al.(27)は、3次元に運動する対象の運動軌跡はある秩序だった方向に誤って知覚されるが、その誤り知覚(misperception)がベイズの定理で説明できることを明らかにした。この定理では感覚の不確実さが大きいと尤度が大きくなり、事前確率は事後確率に大きく影響する。つまり、知覚は事前確率の方へ偏よることになる。3次元運動視のエラー知覚にこの定理を当てはめると、3次元運動の事後確率を引き出すには、網膜に投影された刺激の特性を分析する必要がある。Rokers et al.は、運動刺激をバーチャルにステレオ提示(ヘッドマウントディスプレー)するとともに、別にステレオスコープを用意して提示(この場合にはバーチャル空間は提示しない)して比較した。被験者は70名の学生、また観察距離および明るさコントラスト(100、10、7.5%)を変化させた。対象の奥行手がかりは単眼視手がかり(パースペクティブ)と両眼視差とした。ベイズの定理にもとずくモデルは、刺激奥行距離が大となるにつれ、また刺激コントラストが小さくなるにつれ、そして刺激の偏心度が大きくなるにつれ運動軌跡の知覚エラーが大となることを予測する。実験結果は、このモデルの予測とよく一致することが示された。この結果から、運動軌跡の知覚は観察者の事前(prior)の仮説およびある時点での感覚信号の理解(posterior)に基づくことが明らかにされた。

自然シーン内の対象の運動と観察者の自己運動
 Rushton et al.(29)は、頭部運動知覚の正確さの限界は対象運動知覚の正確さの限界と関係するか否か、あるいはこの両要因の知覚の正確さは共変関係にあるか否かについて実験した。実験の結果、シーンに伴って変わる対象の運動方向判断は、頭部運動方向(heading)の判断より正確になされること、シミュレートした注視点の回転は頭部運動方向の判断の正確さを減少させたが対象の運動方向の判断の正確さを減じないこと、さらに対象間の奥行距離の拡大は頭部運動方向判断の正確さを増大させたが対象の運動方向判断を高めないことが示された。これらの結果から、観察者が頭部を運動させてシーンを観察する場合、そのシーンに随伴して運動する対象の運動方向の判断能力は自己の頭部運動方向の判断能力に限定あるいは束縛されないと考えられる。 

絵画的要因による3次元視

1. 図と地 
図-地分擬の新しい知覚原理:ドット点描による強調(アクセンチュエ-ション、accentuation)
 Pinna et al.(24)は図-地分擬の新しい知覚原理、ドット点描による強調(アクセンチュエーション)を提案した。この知覚原理は図-地のどこかにドットを1点あるいは複数個を点描すると、ゲシタルト原理と関連して分擬効果が出現し、その領域の奥行と量感が生じることを示した。ドット点描は、知覚的な誘引(attraction)、強調(accentuation)、割り当て(assignment)の特性をもつためである。図になるためには、その領域が「強調」、「目立つ」、「圧迫」、「下線強調」、「誇張」そして「注意散らす」などの知覚特性をもつ必要がある。ドットを描画することは、その領域に注意を誘引し引き立てる効果がある。

2.アモーダルな輪郭(amodal completion)
 Koenderink,et al.(17)は、アモーダルな輪郭要素の生成、つまり線分や輪郭のような機能をもつがその対応要素を特定できないものの使われ方をとくに絵画の領域で考察した。このアモーダルな輪郭要素は、主観的な輪郭すなわち輪郭がないのに知覚者が主観的に生成した輪郭という意味ではないという。アモーダルな輪郭は知覚されるがただシャープではなく2つの一様な領域の間でコントラストをもち、まっすぐに広がるようにそしてある領域をオクルードするように知覚される。知覚実験では、3人のアーティストによる画風の異なる画像(アモーダルな輪郭を強調するように加工)が用いられた。その結果、すべての被験者のクリック位置は一致し(標準偏差は1/10以内)、アモーダルな輪郭は明白、しかもすべての被験者に共通していた。視覚芸術には意図的にアモーダルな要素を用いられている。

3.シーンの分類における輪郭間の空間関係
 Wilder et al.(41)は、輪郭接合部がシーンのカテゴライズのために重要な点なのか、あるいは接合部分の間の中間の分節部分が重要なのかを実験的に検討した。実験1では輪郭あるいは接合部分をランダムにシフトしてイメージの空間的位置を妨げる操作を行った場合のシーンカテゴリゼーションについて、実験2では輪郭の中間部分を残したまま接合部分を除去、あるいは接合部分を残し中間部分を除去するがイメージの空間的位置は保存した条件でのシーンカテゴリゼーションについて実験した。その結果、実験1では被験者は自然および人工物シーンのすべての条件でチャンスレベル以上の正答を示し、とくに最も正答率が高いのは原図線画条件、輪郭シフト条件と続き、接合部シフトがもっとも正答率が悪かった。また被験者全員の混同行列(confusion matrix)は自然シーンより人工物でカテゴライゼーションの間違いが多く、接合部シフト条件ではチャンスレベルまで正答率が落ちた。実験2の結果では、被験者は2通りのシーンすべての条件でチャンスレベル以上の正答を示し、とくに最も正答率が高いのは原図線画条件、接合部除去条件と続き、輪郭中央部除去条件がもっとも正答率が有意に悪かった。また、混同行列をみると、原図線画条件では自然と人工物の各シーン別のカテゴライゼーションは正しく行われたが、接合部除去条件と輪郭中央部除去条件でのそれは有意に原図線画条件とは異なっていた。また、輪郭中央部除去条件と接合部除去条件の正答率は自然シーンでは同等を示したが人工物シーンでは輪郭中央部除去条件は接合部除去条件より有意にカテゴライゼーションが悪かった。これは自然シーより人工物シーンでは平行な輪郭の分節が多いため輪郭中央部の除去はシーンの構成要素を多く除去することになったためと考えられる。

4.幾何学的錯視における第2順位刺激特性
 Lavrenteva & Murakami(19)は、第1順位特性、第2順位特性およびその統合のそれぞれの過程を明らかにするために、2つの順位特性のそれぞれで規定した条件およびその複合で規定した条件でエビングハウスの錯視量をしらべた。第一順位特性には輝度、第2順位特性にはコントラストと線分方向を用いた。その結果、誘導円が第2順位特性(コントラスト、線分方向)条件の場合、第1順位特性(輝度)条件のターゲット円は第2順位特性条件のターゲット円より錯視量を低下させるように影響すること、また第2順位特性の誘導円による第1順位特性のターゲット円への影響は、第1順位特性の誘導円の場合より小さいことが示された。第1順位特性の誘導円は第1順位と第2順位のターゲットに影響することも示された。エビングハウス錯視においては、誘導円の順位特性条件が異なると錯視量も異なった。これらの結果から、第1順位特性と第2順位特性はそれぞれ異なる過程で平行処理され、また錯視量もそれを規定する順位特性に対応して異なると考えられる。

5.レイヤーの知覚
透明なレイヤーを通しての知覚
 Dovencioglu et al.(6)はreach(歪みの局所的強度指数)とgrain(ボケの局所的指数)が独立に操作した幻影イメージ(epidolon)を作成して対象がガラス、水、靄の透明物質を通して視えるように変容させ、これらの媒体を透かして対象を知覚できるかしらべた。実験では、透明なレイヤーの境界と背景にある対象面のテクスチャを存在させない条件で透明なレイヤーを通して対象が知覚できるか、さらに対象の境界を隠し対象の面のイメージだけの条件で透明媒体を知覚できるかを試した。実験はこれらのイメージパターンをディスプレーに一つずつ提示し、成人の被験者にこれらのパターンが水面下、靄の背後、あるいはガラス越しに知覚されるようにgrainとreachパラメータを水平と垂直にマウスを動かして最適となる条件を設定させた。その結果、2次元イメージ条件ではパラメータのreach(R)とgain(G)がともに大きい値を取るときには対象物(パターン)が水面下に、reach(R)の値が大きくgain(G)の値が小さい場合にはガラス越しにあるように知覚判断された。3次元イメージパターン条件ではパラメータのreach(R)とgain(G)がともに大きい値を取るときはコヒーレントな条件(grain=7.0, reach =8.2)と非コヒーレントな条件(grain=7.5, reach =8.4)ともに対象物(イメージ)が水面下に、またreach(R)の値が大きくgain(G)の値が小さい場合にはコヒーレントな条件(grain =4.8,reach= 6.5)と非コヒーレントな条件(grain =4.6,reach= 7.3)ともにガラス越しにあるように知覚判断された。対象の面を明るい光沢、暗い光沢、明るい散乱光、暗い散乱光の4条件で比較すると、コヒーレントな水面下知覚では、明るい背景の下の暗い対象は明るい散乱光下の対象よりgrain値を有意に小さく設定する必要があった。3次元形状輪郭のオクルード条件での水面下およびガラス越し対象知覚はgrainパラメータがそれらを識別する主要因でこれは2次元と3次元対象条件ともに類似した結果であったが、しかしそれらのレイヤーの属性識別はrearch(R)で決められた。これは対象輪郭がオクルードされていたために、ボケを大きくしてイメージの歪みを高めることによってレイヤー知覚を促進したと考えられる。これらの結果から、対象のイメージの人工的に作成された歪みから透視した媒体(レイヤー)の属性(水あるいはガラス)を知覚判断できると考えられる。

6.左側外側後頭側頭回における同一ニューラル群による奥行手がかりの不変特性
 Akhavein et al.(1)は、M170反応を指標として視覚領における奥行手がかりを変えた場合の順応効果を測定した。実験では、脳地図(MEG)反応を測定し、異なる奥行手がかりによる対象の順応効果がしらべられた。その結果、左側の外側後頭側頭回では順応刺激が顔刺激の場合その奥行手がかりが何であっても(depth-cue invariance)、M170に強い誘発電位が惹起され、視覚システムにおいては対象の表象の異なる奥行手がかりの情報は同一のニューラル群で担われ、奥行手がかりの不変性があると考えられる。

7.傾き錯視のV1視覚領における抑制
 傾き錯視では、狭い中央領域のグレーテイングの傾きは広い周辺のグレーテイングの傾きの角度が20度以内の場合には反対方向に傾いて知覚される。これにはV1領域の抑制のくみが関係する。Seymour et al.(34)は、傾き錯視と知覚残効のV1における神経生理的抑制過程をfMRIでしらべた。10人の健常者を被験者として血中酸素濃度依存反応を検出した。この方法は脳の活動酸素の消費量から血中濃度の変化を測定し、この血中濃度に依存するfMRIの磁場の変化をみることによって脳の活動部位を特定するものである。実験の結果、血中酸素濃度依存反応によるV1の抑制の程度(BOLD)は、傾き錯視量(相関係数R=0.655)および知覚残効量(R=0.637)に有意に対応して増加することが示された。これは、V1における神経反応と錯視および知覚残効の知覚反応とは互いに一致し、それが空間的あるいは時間的な刺激提示であっても同じ神経過程が関わっていると考えられる。

視空間の構造
1. 距離の大きい自然シーンの奥行弁別
 McCann et al.(20)は、奥行位置を高精度の距離レンジで特定できるカメラで撮影した自然シーンをステレオディスプレーに提示しシャッターグラスを被験者(4名)に装着させ両眼立体視させて実験した。実験の結果、奥行距離弁別の閾値は両眼視条件では小さく、奥行距離が10-12mまでは上昇したが、以降は平準化した。この関係は、パラメータであるangular spacingが広くなると大きくなった。Weber比はすべての奥行距離でangular spacinが2°の場合は1%、10°の場合で4%であった。単眼視条件ではWeber比は両眼視条件に較べて大きくしかも奥行距離5-10mの範囲で急激に大きくなりその後は10-12mまでゆるやかに増大し、以降平準化した。これらの結果を信号検出理論を応用し、奥行距離弁別である信号(奥行距離変化)を測定した2つの奥行位置間の奥行距離とangular spacingに伴うノイズで除した式で分析した結果、両眼視条件の奥行距離弁別は15-20mの範囲ではシーンの中の絵画的要因によらずに両眼視差のみによることが示された。これらの結果は、これまでの実験室で得られた両眼視差の奥行距離弁別閾値の結果と一致することを示している。

2. 球面天体的オプティクアレー(planispheric optic array)の空間知覚

Magic circle
 メルカトル図法とは、地球儀を円筒に投影したもので、地軸と円筒の芯を一致させ投影するため経線は平行直線に、緯線は経線に直交する平行直線になる。地図上の2線のなす角が地球上の角度と等しく正角性を維持するには、横方向・縦方向の拡大率を一致させる必要があるために緯線はすべて赤道と同じ長さにするので高緯度地方は実際の長さ(地球儀上の長さ)より横方向に拡大、それに応じて縦方向(経線方向)にも拡大する。
 最近で全周囲カメラが安価に発売され、全周囲をメルカトル法で平板に表した写真の利用が高まっている。Koenderink et al.(16)は、そのような全周囲メルカトル写真のなかの人の頭部方向はどのように知覚されているか、また観察者の視点は写真の外部か内部かをしらべた。その結果、被験者の大部分は全周をメルカトル法によって平板に表した写真のシーンはすべて自分の前にあるものとして、また写真内の6人は円環に位置し互いに向き合っていると知覚した。一方、数人の被験者は自分の視点を写真の中に位置させ、サークルの中に自分が入り込んだ知覚をもった。これらの結果から、このようなサークル(magic circle)に入り込むのは大変困難なことと考えられる。

3.視ている球体の外からの光景
 現在の写真技術は、魚眼レンズによる全周写真のように視覚球の内部および外部の世界から視た画像世界を提示できる。この場合、観察者はこのような世界の中に入り込んでその知覚構造を直感的に理解可能なのか。Koenderink et al. (18)は、85人の被験者を用いて、刺激球体を提示した。シーンタイプは被写体が相互に対面した条件(inward)と背中をつき合わせた条件(outward)の2条件とした。実験の結果、シーンタイプが相互に対面した条件では外部から視ているという反応が多く、逆にシーンが背中をつき合わせた条件では内部から視ているという反応が多くなったが、しかし観察後の内省では、これらの視えは現実的とするものが少なかった。このことから、観察者はこのような世界の中に入り込んでその知覚構造を直感的に理解できないと示唆される。

4.VR利用の研究
側方の視野の無自覚と歩行軌跡
 脳の損傷によって片側の感覚がないと歩行が困難になるかいなかは不明である。Dunn & Rushton(8)は、このことを念頭に置き、側方の視野がオクルードされた場合、歩行軌跡がまっすぐからどのように変わるかを若い健常者(20人)を対象に実験した。実験の結果、片眼遮蔽あるいはVRによる視覚環境のロスによる視野の制限はターゲットまでの歩行軌跡を有意に逸脱させなかった。このことから、視野の片側ロスは歩行障害の主要な原因ではないと示唆される。

車の操縦のカーブあるいはレーン変更におけるオプティクフローとロードエッジの役割
 Okafuji et al(22)は、2-レベルステアリング操縦仮説でオプティクフローとロードエッジの要因の働きを説明できるかを検討した。実験の結果、クロソイドカーブのドライブ課題では、遠地点の道路エッジがマスクされると近地点のそれよりもドライブエラーが大きく、とくに最初と最後のクロソイドコーナーで大きかった。また2レーン条件では、遠地点のエッジをマスクすると、すべてのドライブコーナーで操縦を不正確にさせた。さらに遠地点あるいは近地点のオプティクフローをマスクすると、クロソイドカーブと2レーン条件共に操縦を逸脱させた。これらの結果から、ステアリングは道路エッジによって強く影響されること、同時にオプティクフローが明瞭に関係すること(H2仮説)、さらに遠・近2つの地点のフローではなく道路全体のフローが操縦をサポートすることが明らかにされた。

その他の研究
輻輳運動におよぼす視覚ディストラクターの影響
 Yaramothu et al.(43)は、3次元空間に提示した視覚ディストラクター(注意をそらす対象)が両眼輻輳運動におよぼす効果を、ディストラクターがある条件と無い条件で比較した。実験の結果、輻輳運動のピーク速度と振幅はディストラクターの無い条件に比較してディストラクターの有る条件では有意に大きいことが示された。この結果は輻輳運動がディストラクター刺激の存在によって影響され、これはサッケードに対する影響と類似のものと考えられる。

身体のサイズ認知における視覚情報の役割

 Thaler et al.(38)は、自己の身体の大きさの見積もりからどのような知覚や認知が自己の身体評価に影響するかを検討した。ボディサイズの評価は、3種類の視覚情報、すなわち視覚アクセスがなく記憶したボディサイズで評価する条件、鏡による自己のボディに対する視覚フィードバックのある条件、そして自己のボディの全身を上から下まで実際に観察して評価する条件を設定して行われた。実験の結果について、実際のサイズに対する見積もった値をパーセント提示((estimated size/actual size)×100)して各実験条件を比較したところ、身体各部のサイズ評価は各実験条件間で有意差がないことが示された。各実験条件を通して身体各部の大きさは過大評価され、とくにヒップと頭部で著しかった。このことから、自己のボディサイズの評価には、直接に自身を観察する視覚アクセスするか否かは関係しないことが示された。

展望:正視化(emmetropization)の発達過程

 Rucci & Victor(28)は、正視化(emmetropization)の発達過程のこれまでの研究を展望した。これら研究成果をレビューし、注視化の発達が網膜に投影されるイメージ特性、たとえばボケなどが重要ではなく、時間的そして空間的な輝度の変化が重要であることを示す。とくに小さな眼球運動は絶え間なく生じ、自然シーンを視ている場合にはそのシーンに時間的変調がかかって網膜に入力されることになり、この種の再フォーマットは視覚的感度を高めるとともに視覚情報処理の発達の観点からも重要である。このような時間的な変調が起きると、眼球の機能が高められ、眼球大きさや形状に影響し、視ているシーンの空間構造のあり方にも関わってくる。これらの知見は近視と遠視のできるメカニズムにも参考となる。