万緑



 

 書斎の窓から見える木々の緑は若緑から濃い緑色へと変身している。ここ
1ヶ月程度の間のことで、もうすっかり夏の装いとなった。こんな見渡す限り緑に覆われた光景を万緑と呼ばれる。この表現は言い得て妙なるところがあり、歳をとると今年もこの季節を迎えたなと感に迫らる。

 周りが万緑の中鮮やかな深紅の花が咲いていると、11世紀の北宋の詩人王安石の「万緑叢中紅一点」のごとしと表した。万緑はここから広く膾炙されるようになった。

「万緑の中や吾子の歯生え初むる」
中村草田男の句。どこもかしこも緑の湧き出すこの季節に、それに合わせたように我が子の歯が生えはじめた。それをみると、我が子もそして生きとし生きるものすべてに命の躍動を感じるという。

「万緑の中不浄心直ぐに消す」
山口誓子の句。悪しき心が湧いてもすぐに消すのはこの命の噴き出る万緑の時だからだ。

「万緑に泰山木の花二つ
日野草城の句。泰山木は大きな良き香りの白い花をつける。きまってこの万緑の季節だ。
  我が家にも二十年前に植えた泰山木があり、ことしは大きな花を7つ8つと咲かせている。

「万緑や孫の手足のまるまると」 敬鬼

                                                                2018524