かきつばた 

 

 愛知県の県花はカキツバタである。カキツバタは杜若あるいは燕子花と書かれる。尾形光琳の燕子花図は有名で国宝である。

 カキツバタが県花となったのは、伊勢物語を書いたことで有名な在原業平が旅の途次三河国八橋に来たときに

「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる たびをしぞ思ふ」と詠んだことに由来する。この和歌には五七五七七の冒頭に「かきつばた」と読み込まれている。

 カキツバタはアヤメ科の植物で、よく似た仲間にはあやめとショウブがある。湿地に群生し、5月から紫色の花が咲き始める。この植物は準絶滅危惧種に指定されている。あやめとショウブは見慣れた植物だが、カキツバタはこの近辺では知立市の八橋の無量寿寺に隣接するカキツバタ園でしか見られない。花は目の覚めるような紫色で五月の晴天に良く映える。

「三河路や名もなき橋の杜若」

これは正岡子規が八つ橋を訪れたときの句である。名もなき粗末な橋のかたわらにあの有名なカキツバタが咲いている。在原業平が見たとカキツバタを目にしたときの感慨を一句にしたためたもののようだ。

「かきつばた業平遠く雲白し」 敬鬼

                        

                                2016年5月1日