鯉のぼり 

 

 黄金週間を迎えた。雨にならず、まずまずのお天気が続いている。最近、男の子をもつ家で鯉のぼりを揚げる習慣がとんと薄れたのか、あるいは高齢者所帯となり孫と同居することも少ないのか、ご近所で鯉のぼりが揚がっていない。その代わりに、地区の自治会などが近所の川を横切るように綱を張り、沢山の緋鯉や真鯉、子鯉を泳がせている。ちょうど桜の季節が終わった頃なので、川風に吹かれて泳ぐ鯉のぼり見物をする人が三々五々、子どもを連れたり、犬を連れたりして歩いている。のどかな風情だ。 

 鯉のぼりを揚げる行事は、江戸時代、武家に跡取りが生まれると、その児の無事な成長と出世を祈願して、端午の節句日に庭先で鯉の絵柄の吹き流しを立てて祝ったのがはじまりのようだ。鯉が描かれたのは鯉の滝登りに象徴されるように精強なイメージがあったからだ。この風習が大きな経済力をもつ商人にも伝わり武具の模造品を飾り、鯉のぼりや吹き流しを揚げるようになったらしい。

 実際に大きな商家だった父の実家には、明治から大正時代に製作された「加藤清正の虎退治」や「鯉の滝登り」の贅を尽くした人形があり、出産祝いに父に贈られ、現在もそれらは受け継がれてわが家に残っている。

[おもしろくふくらむ風や鯉幟」
正岡子規の俳句、ここでは鯉のぼりの泳ぎ方を通して風の吹く面白さを詠んでいる、風そのものは目に見えないが、鯉のぼりや吹き流しを動きを見ていると、風というのはさまざまに吹き来たり、また吹き去るものだなと感じ入っている。

「鯉のぼり大口開けて風孕む」 

「鯉のぼり孫指さして手をたたき」 敬鬼

                       

                                2016年5月1日