紅葉狩






 もみじが色づきだし、庭にある野村紅葉も暗紅色を濃くしている。この木は若木を買ってきて30年前に植えたものだが、いまや樹高5mあまりになり、夏は日陰を秋は紅葉を楽しませてくれる。
 「この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉」
三橋鷹女の俳句である。夕映えに映えた紅葉がこの世のものとも思えないほど美しく、それに木登りすればきっと鬼女にもなろうと詠んでいる。これは能の「紅葉狩」を下敷きにした句である。
 場面は信濃国戸隠である。若い美女がもみじ絶景の中、幕を巡らし宴会をしているところに、鹿狩りにやってきた平維茂の一行が通りかかる。誘われて一緒に紅葉と酒を楽しみむ。美女の舞と酒のために不覚にも寝入ってしまうが、その夜に美女は鬼となり維茂を殺そうとする。嵐と共に炎を吐きつつ現れた鬼女を激しい闘いの後に切り伏せる。 戸隠の鬼無里柵には大昌寺がある。この寺には惟茂と鬼女の位牌が祀られ、また紅葉狩りの掛け軸もあり、紅葉狩の寺として知られている。ここはわが家の菩提寺でもある。
「酒を売る紅葉の茶屋に妖女あり」
子規の句である。美しくも妖しい紅葉の茶屋から妖しくも美しい女人を連想したものであろうか。
 「散る紅葉ふるさと遠くなりにけり」 敬鬼

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