蝉の初鳴き



  

 



 夕方、自宅横の公園での蝉の初鳴きが聞こえている。アブラゼミだ。まだ1匹しか鳴いていない。土の中で幼虫として6年有余、羽化して成虫となりようやく明るい世界に飛び出した先駆けの蝉だ。公園に出かけていって鳴いている蝉を見つけたら、まだ小さかった。これから7日から10日間の間に桜の木の樹液を吸って大きくなり、メスと交尾して子孫を残すべく鳴き続ける。メスは鳴いているオスを探して交尾し、樹の幹に卵を植え付けて一生を終わる。

 秋には樹の幹に植え付けられた卵は孵化して幼虫となり、土の中に潜り樹液を吸って脱皮を重ねて成長するという。こうして7年後に羽化して成虫となり、広い世界に飛び出す。蝉は、卵−幼虫−成虫を繰り返しながら子孫をつなげていく。

「やがて死ぬけしきは見えず蝉の声」

これはなんと芭蕉の句だ。「猿蓑」にある。

「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」は「奥の細道」にあって大変よく知られているが、蝉の一生を思い、「やがて死ぬけしきは見えず」なんて言い得て妙である。たしかに燦々と降る如く鳴く蝉の声はいま生きていることを謳歌する如くだが、しかし10日間くらいで死んでしまうことにおもいをいたすと、この句には仏教に通じる生きとし生きるものの無常を感じさせる。

「撞鐘もひゞくやうなり蝉の声」

これも芭蕉の句。夏の最盛期には寺の鐘をついたかのような蝉時雨があたりに響くようだ。これはやがて死ぬ前の蝉の活発な生を生きることに対する真のものとして詠んでいる。

「梅雨開けや蝉の初鳴き爽やかに」(敬鬼)    

                              2016716