新緑 








 桜ふぶきのあとは新緑の傘下となった。近くの公園で馴染みの樹木の桜、欅、柳、そして木蓮など、いまはそのときとばかり無数の黄緑の小さな葉で装っている。この時期、木々は命の息吹を伝えるように薄黄色で葉を燃え立たせる。齢70を越えた老人には、その輝きがまぶしい。まるで生まれたての赤子のように、フレッシュに見える。これも、命の限りを秘かに感じている者がこの輝きに圧倒されるからだろう。

「人の晩年新緑の地を購ひに
山口誓子の俳句。晩年になると無性に新緑に恋い焦がれる。そんな心境から新緑に囲まれた新たな土地と家を欲しくなる。

「新緑の空わたりゆく蝶々かな
こちらは青邨の句。誓子と同時代に活躍した俳人。どちらも虚子に師事した。青邨は鉱山学者で工学博士で東京大学に勤めながら俳誌「夏草」を主宰した。光り輝く新緑と青い空に舞うこれも陽を浴びて輝く蝶々を詠む。

「新緑やうつくしかりしひとの老
日野草城の俳句。無季俳句を積極的に作ったが、肺結核のため五十歳半ばまでしか生きられなかった。この俳句は、人生を透徹した人間が老いても、命輝く新緑と遜色なく美しいと詠んでいる。 

「新緑の傘下で黙す老夫婦」 敬鬼

                     20174月22