園原









 
 毎週木曜日午前にテニスを楽しむ退職者グループの一泊合宿が月川温泉であった。両日とも小春日和に恵まれ、アフターテニスもカラオケやら麻雀やらビールを傾けながらのおしゃべりやら、愉快なひとときを過ごせたのであった。

 月川温泉は花桃の里としてよく知られた所で伊那地方飯田市の南に位置する阿智村園原にある。美濃国の坂本駅(現・中津川市)から神坂峠を越え伊那谷に至る古道東山道に位置し、この古道は奈良・平安時代近江の国から陸奥国まで続いていた。園原は源氏物語の第二帖「帚木」として登場するが、園原にあったハハキギがモデルになっている。 この伝説上の木は箒を立てた形の大木であったが、台風で幹が折れて今はないという。
「帚木の心を知らで園原の 道にあやなく惑ひぬるかな」
これは源氏物語のなかの光源氏が薄幸の空蝉と一夜をともにした後に詠んだ句で、近寄れば消えるという帚木に近づいたばかり園原へ行く道にむなしく迷っていますと詠む。
  これに対して、
「数ならぬ伏屋に生ふる名のうさにあるにもあらず消ゆる帚木」
相手の空蝉は、しがない境遇に生きている私は近寄れば消える帚木のように消えていきますと哀切に詠んでいる。
 園原は、源氏物語に出てくるような謂われのある所であることを知ったテニス合宿であった。

「今は無き帚木思う古道かな」 敬鬼                                        2018122日