水蜜桃



 


小学校6年生まで水蜜桃を知らなかったが、その夏の終わり、野尻湖に修学旅行があり、祖母が用意してくれ、はじめてその甘味な味を知った。食べてみろと、祖母に勧められたが、その美しい形に歯を立てることが躊躇され、しばらく迷っていた。まわりにいた人もはやし立てるので食いつき、そのみずみずしくなんとも言えない味があった。

長野に住んでいたのでりんごやナシは小さいときからすってもらったものを食していたが、桃を味わうのは初めであったので、よく覚えている。

水蜜桃は秋の季語である。子規、草城や山頭火はそれぞれの思い出、水蜜桃の句を詠んだ。いずれも甘味な水蜜桃に思いを寄せている。

「くひながら夏桃売のいそぎけり」  子規

「しろがねの水蜜桃や水の中」 草城

「桃が実となり君すでに亡し」  種田山頭火

「幼き日水蜜桃の甘辛さ」  敬鬼

21810