たんぽぽ 

 たんぽぽの花咲く季節となった。土手の日当たりの良い面に咲くあの黄色い花は、頭上のピンク色の桜と好対照をなし、眼に鮮やかだ。
 そもそもたんぽぽの語源はなんだろうか。ものの本によると、タンポポとは鼓の別称で、とくに子どもが使っていたようだ。たんぽぽは江戸時代、鼓草と呼ばれていたのにいつのまにか、たんぽぽと呼ばれるようになったという。あのたんぽぽの花から鼓を連想するのは難しいがどうしてなのだろう。
 英語ではダンディライオン(dandelion)という。ライオンの歯という意味だ。これはギザギザした葉がライオンの歯あるいは牙を連想させるからだ。わが息子は幼児の頃、ひまわりを見て大きなたんぽぽといっていたので、連想からものの名前がつくのは自然なことなのだろう。

 「たんぽぽや日はいつまでも大空に」

これは中村汀女の俳句だ。汀女は明治生まれで昭和の時代に活躍し、高浜虚子に親しく指導を受けた。当時、星野立子・橋本多佳子・三橋鷹女とともに女性俳人の4Tと呼ばれた。後に文化功労者にも選ばれた。この句では、地面に咲く黄色のタンポポを見てから空を見上げると太陽がさんさんと照っている。きっといつまでもいつまでもお日様は照っているのだろう。まさに写生俳句の真骨頂といったところか。子どもがたんぽぽを見て詠んだような大変素直な表現で、それだけ春になった喜びが伝わってくる。

 「庭に咲く蒲公英に詩の思ひあり」

これは明治31年につくった子規の句である。暖かくなりふと自宅の庭に目をやると、そこに色鮮やかな蒲公英が一輪咲いていた。その黄色の花そのものが、自然が詠った一編の詩のように命の輝きをはなっている。

「たんぽぽの春を編みこむ髪飾り」(敬鬼)

 この句は、少女達が沢山のたんぽぽの茎と花を集め円く編んで髪飾りにし、互いに頭に載せ合って遊んでいる光景を筆者が詠んだものだ。少女らがたんぽぽの花を編み込んだ髪飾りは、まるで春を編み込んだように美しい。
 まことに、たんぽぽは春を告げるかっこうの野草と言ってよい