わらび





 わらびをもらった。久しぶりにわらびと油揚げの煮物が食卓に並んだ。子どもの頃は、これは、初夏の季節、山にわらび取りにいった方から頂いたものだ。中学の頃か1回だけわらび取りに行ったこともあった。あの北信濃の飯縄山のすそ野、一位の鳥居のある高原だった。面白いように取れたことを覚えている。それを持って帰ったら、母親があく抜きをして薄揚げを加えて煮込んでくれた。子どもでも歯ごたえのある何というか山の春の味だった。  わらびには毒性があるのでていねいにあく抜きする必要がある。重曹あるいは木灰をふりかけ熱湯を注いで一晩置いておけば、あく抜きができると聞いている。
 わらびはシダ植物なので、生長すると1m位の背丈になりシダの葉っぱが生い茂る。

「折りもてる蕨しほれて暮遅し
 蕪村の俳句。摘んだわらびを手に持ち、また夢中でわらび取りをしていたら、摘んだわらびがもうしおたれてきという。

「早蕨を誰がもたらせし厨かな」
 虚子の句。家の台所に春を告げるわらびがそっと置いてある。誰がもってきたのか、ありがたい。

「蕨がもう売られてゐる」
 種田山頭火。わらびがもう売られているということはもう春なのだと実感する。

「行春に手をひろげたる蕨哉」
 子規の句。わらび取りに行ったのだろうか、一面にわらびが生え、過ぎ去る春をまるで留めているようだ。

「わらび取り山の恵みをおすそ分け」 敬鬼    

                        2019年5月23日