あさが来た

 このところ、男あるじも女あるじも8時になるときまってテレビの前に座り、朝ドラを見る。吾輩の散歩も体よく切り上げられ、朝飯もこのドラマが終わらないと用意されない。何がそんなに面白いのでやんすか、と女あるじに聞いてみると、女あるじは、
「何が面白いていわれてもね。たぶん、ヒロインが幕末という激動期を己の才覚と気力でのりこえていくところでしょうかね。まだ始まって1月と2週間しか経っていないけれども、どんな風にお話が展開するのか、毎朝楽しみになるわ。前の朝ドラは筋立てが単純で、どういう風になるか予想がついたし、たとえ1回見なくてもお話の筋が分からなくなると言うことはなかったけれども、今回は1回も見逃したくないという心境だわね」とつぶやいた。
 男あるじもそれを聞いていて、
「うんうん、これは毎週の視聴率もほとんどトップを走っているそうだぞ。大体20%以上だ。1%が100万人と推定されるので、毎朝2000万人以上が見ていることになるな。最近では、マッサン、ゲゲゲの女房なんかが面白かったな」と女あるじに相づちを求めた。女あるじもそれに応えて、
「そうですね。学校に勤務していた頃はとても朝ドラなんて見る余裕がなかったけれども、退職して朝の時間をゆったりと過ごせるようになってみると、朝ドラは楽しみの一つになったわ。ゲゲゲの女房は勤務していて見られなかったけれども、マッサンはストリーの展開もダイナミックで興味が持てたわ。スコットランド人の妻・エリーを演じたアメリカ人女優のシャーロット・ケイト・フォックスも熱演だったしね。この人をオーでションで抜擢したのは慧眼と言うべきでしょうね」とめずらしく長々とおしゃべりした。
「うんだな。日本語を解さない米国人を主役に抜擢するなんてよほど人を見る目がなければできないことだな。そうじて朝ドラは女主人公の波乱に富んだ一生を描いたものが人気がある。昭和41年に放映されたおはなはんがそうだったからな。これは大評判になったと聞いている。大学院生1年のときだから見る時間がなかったはずなのに、なぜかよく覚えているから不思議だな。きっと下宿先で見せてもらっていたのだろう」と男あるじは続けて話した。 
 吾輩はこんどの話はどういうものなのでしょうか、と朝飯が用意されるのを待ちながら問うと、男あるじは
「まてまて、もうすぐ終わるからはなしてやろう。よし、今朝の分は終わった。なになに今回のストリーか。ヒロインの名は、“あさ”という。幕末、京都の豪商の次女に生まれたあさは、相撲が大好きなおてんば娘。嫁いだ先が両替商だったが、時代に合わなくなりその経営は火の車。ボンボンの夫、新次郎は「金儲けは性に合わへん」と三味線など風雅に興じるばかり。そこで女伊達らに炭坑経営に乗り出す。今朝までの話はここまでだった。これは実話だそうだ。もちろん、脚色されているが、実際に明治から昭和にかけて活躍した女経営者の一生となれば、それだけで興味は尽きない」と話し終えた。
 吾輩イヌ族にはヒーローもヒロインもいない。いやこの言い方は正確ではないな。なんでも昭和の初めには忠犬ハチ公という名犬がいたらしいし、南極越冬隊のタロウ、ジロウも有名らしい。イヌが人間を助けると有名犬となるが、人間がイヌをたすけてもなんということもないようだ。

「朝露やなにやらゆかしコムラサキ」 敬鬼

徒然随想