徒然随想

-寅年そして干支とは?−
   今年は寅年だそうだ。何でも年号を数字で表すのではなく、漢字で数える方式の暦から来ているようだ。
  そこで、何でも物知りのこの家の男主人に
「干支とはなんざんすかね」と問うてみる。
寝正月を決め込んでいた男主人は、思わぬことを問われ、けげんな顔つきをして、
「何でそんな当たり前の常識を聞くんだ。知らないのか」と言いつつも、今度は何とも頼りなげな顔をした。そして、パソコンのまえに座ると、キーワードを打ち込み、調べだしたようだ。
  しばらくすると、印刷した一枚の紙をもってきて、まるで講義でもするかのように説明しだした。
「やれやれ、吾輩はちょっと聞いただけなのに、退屈な説明につきあわされるはめになってしまった。うかつに尋ねるものじゃないな」とフィーンフィーンと声をだす。
男主人いわく
「干支は、十干と十二支を組み合わせたもので、この二つを組み合わせて作られる暦法、つまり年月の数え方のひとつで、中国で発明された。なんと3千年前の古代中国、殷に起源があるという」と珍しく感心したように話す。
「十種類の干とは、庚、 辛、 壬、 癸、 甲、 乙、 丙、 丁、 戊、 己 を言うのだそうだ」ともたもたと発音する。きっと読み方に自信がないのだろう。
「十二種類の支とは、 申、 酉、 戌、 亥、 子、 丑、 寅、 卯、 辰、 巳 、午、 未をいう」と、ここはすらすらと発音する。これは年の功で干支を5回も経験すれば、ばかでもちょんでも覚えていられよう。
さらに説明を続けて、
「つまりだな、10と12の最小公倍数は60だから、60年たつと元に戻るというわけだな。それで還暦という」とこれも妙に感心していう。
  吾輩は、このことはすでに承知していたが、ひょとすると、この男主人は、60有余年も馬齢を重ねてようやく理解したのかもしれない。
吾輩は、そこで、意地悪く、
「そうすると、今年は干支の支の順番は戌ということはわかったけれども、干の順番は何になるのかな」と目で聞いてみる。慌てて、またパソコンに座っていた男主人は、したり顔で戻ってきて
「今年の干支の干は、庚となる。2006年は庚寅だな。これは読めないだろう。「かのえとら」とよむんだ」としらべが万全なことをひけらかす。さらに続けて
「干支歴法では、庚寅は第1番目の甲子(きのえね)から数えて27番目にあたる」と話す。
そこで吾輩は、素直な表情で、決して意地悪いわけではない目つきで
「なるほど、フィーン。干支暦法は複雑だ。でも西暦のように順番に数字であらわせばよいのに、どうしてこのような複雑な数え方を考えついたんだろうか」と問いかけた。
  すると、男主人は、なんとも複雑な顔つきで、今度はパソコンにも座らず、どこかにでかけてしまった。

  正月の子供に成て見たき哉(一茶)