晴れる日、曇る日、そして温かい日と寒い日とが混在していて、わが輩のような老体にはこたえる日々が続いている。まあ、これも春への道筋なので我慢するしかないのだろう。今日は寒くしかも曇っているので、わが庵とする縁の下に毛布を引っ張り込んで丸まっていたら、男あるじが、なにやら興奮してやってきた。そして、「聞いたか見たか、なんと隕石が落下して爆発したとニュースで報じていた。隕石が落ちたのはロシア中部のチェリャビンスク州あたりだそうだ。零下10度にもなる寒いところだ。隕石とみられる物体が強い光を発しながら爆発して、空中でバラバラになって落下し、その衝撃で多くの建物の窓ガラスが割れるなどの被害が出たというぞ」と男あるじはまくしたてた。
  わが輩は、それでなんでそんなに興奮しているんですか、隕石の落下なんてそんなに珍しいことではないでしょう、と眼で尋ねると、
「それはそうだが、これは真っ昼間に起き、しかも隕石が火の玉となって落ちていき、爆発し、衝撃波によってガラスなどが砕け散るところが映像として撮られていたのだ。突然起きた自然現象なのに、かくも見事に撮影されたことに驚いたのだな。ロシアの人は隕石の落下を予測していたのかあるいはいつもビデオカメラを持ち歩いているのかと思ったら、そうではなく、多くは車に搭載されたドライブレコーダーで撮影されたものだそうだ」と答えた。
  わが輩はまたしても、眼でドライブレコーダーとは何ぞねと尋ねると、
「うんうん、わからないだろう。わが家の愛車には取り付けてないからな。これは車載ビデオカメラのことで、衝突事故のような車に大きな衝撃が加わった前後十数秒の時刻、位置、前方映像、加速度、ウィンカー操作、ブレーキ操作等を記録するものなのだ。つまり、運転しているすべての時間の映像を記録すると、その映像記憶容量は膨大になってしまうので、衝突など異常な力が車に掛かったときの前後の映像を記録するものだ。交通事故はどちらが悪いのか喧嘩になることが多い。これはロシアでも例外ではないので多くの車にドライブレコーダーが搭載されているのだそうだ」と説明した。
  わが輩は、それならば、車に隕石が衝突したのでもないのに、どうして隕石が記録されていたのでしょうかと質すると、
「それはだな、多分、車を運転中、その前方に見たこともないような光を発する物体が見えたとする。ドライバーは思わず急ブレーキをかける。するとドライブレコーダーが作動し、急ブレーキ前後十数秒の映像を残す。ざっと、こんな風だったらしいな。ところで、この隕石だが、アメリカのNASAの分析によれば、直径はおよそ17メートル、重さはおよそ1万トンの隕石が時速640000キロという猛烈な速度で大気圏に突入して爆発、その一部が地上に落下したということだ。地球の周囲距離は4万キロだから、地球を37分くらいで回ってしまう速度が出ていたことになる。地上500kmを飛ぶ人工衛星が地球を一周するのに1時間30分ほど掛かるし、スペースシャトルの速度は、時速28000kmだから、隕石の速度がいかに速いかがわかろうというものだ」と話し終えた。
  わが輩には、まさに雲の上のことのようでまるで実感がわかない。この世でもっとも速いものは光だと聞いたことがある。それは秒速30万キロ、なんと一秒で地球を7周半もするという。だれがこんな速いものを発明したのだろうか。孫悟空は時速6.5万キロの自慢の金斗雲でこの世の果てを目指したが、行き着いてみればそれはお釈迦様の手の中だったという。ああ、分けがわからなくなったと男あるじを見上げると、男あるじもこそこそと退散していった。

「流れ星 火の玉となり 轟沈す」

徒然随想

-隕石