徒然随想

- 一陽来復

 「今日は冬至だ」と男あるじが、夕方の散歩の前に話し出した。吾輩は、冬至というのは何ですかと目で問うと、
「冬至は一年で昼間が一番短い日のことをいう。もっとも長いのは夏至、昼夜が等しいのが春分と秋分だ」と解説した。
 吾輩は、昼が短くなるのは今日までで、これからは日ごとに長くなるのか、散歩もゆっくりとできるし、昼寝の時間も長くなりそうだとほくそ笑んだ。そんなことは頓着しない男あるじは、
「秋分から春分までの間、北半球では太陽は真東からやや南よりの方角から上り、真西からやや南よりの方角に沈むが、冬至まではこれがだんだんと真東から南よりへの偏よりを強めて陽が昇り、真西から南よりへの偏よりを強めて沈むようになる。冬至には、東のもっとも南よりから陽が昇り、西のもっとも南よりに沈む。つまり、太陽が昇って沈む時間が冬至の日にはもっとも短くなると言うわけだ」と続けた。
 吾輩は、太陽が東から昇り、真南でもっとも高くなり、そして西に沈む様子を頭に描いてみた。どうやら、真南で最も高くなる位置が冬至では一番低くなるので日照時間が短くなることが理解できた。男あるじは、
「冬至の日の出時間は、中部地方では、657分、日の入りが1646分となる。つまり日射時間は9時間49分しかない。逆に夜は14時間余りと長いのだ」と話した。
 吾輩はどういうしくみで陽がながくなったり短くなったりするのですかと目で問うと、「そのしくみの説明は難しいが、簡単にいうと地軸が約23.4度太陽光に対して傾いているからだ。太陽の方に傾くと日照時間は短くなり、その逆になると長くなるしくみだ」
 吾輩は、「へー、地球は丸いのに傾くとはどういうことだろう」と考えた。男あるじは、この疑問をを察したようで、
「もちろん、球だからどういうふうに傾けても同一だ。しかし地球は自転している。地軸というのは南極と北極を貫く回転軸をいう。地球は太陽の周りを公転するので、太陽に対する地軸の傾きの違いで太陽光のあたる角度と照射時間に違いが生まれるというわけだ。この地軸の延長線上に見える星が北極星だ。地軸の方角は公転の影響を受けないので、北極星はいつも真北を指すことになる。したがって北極星の位置から自分のいる地球の緯度を知ることができる。航海術でこの原理が使われていた」と答えた。そして、
「それはそれとして、昔から冬至には冬至粥、冬至湯、冬至南瓜、冬至柚子などの慣わしが伝わっている。冬至は太陽の力がもっとも衰えた日であり、これ以降は再びその力が戻ってくる日ということから、カボチャや小豆がゆを食べたり、柚の風呂に入ったりして運の上昇を願ったのだな。冬至は一陽来復とも呼ばれていた」と話した。 人間族は、何か機会があれば、福を願わずにはいられない動物のようだ。現状では物足りないのか知らん。わが輩イヌ族は、高望みをしないのでいつもほどほどのところで満足している。吾輩も、もうちょっとましな家にいや庵に住みたいとか、男あるじがもうすこしわれわれイヌ族が願っていることに理解があればとか、あるいはもうすこし散歩が長くなればとかを願わないではないが、そんなささいな不満で今ある心の平安を乱したくない方が強いといってよいな。

「日溜まりや福きたれよと冬至がゆ」 敬鬼