「日本は、国家としていつ成立したか知っているか」と男あるじはいきなりわが輩に尋ねてきた。わが輩の両親の誕生日、いやわが輩の誕生日さえはっきりしないのに、そんなことを知るよしもないといった顔で見上げると、
「そりゃそうだな、わが輩も知らない太古のことだからな。それでも、211日は日本の建国記念日に指定されている。なんでも、古代の日本の政治や事件を書き記したという日本書紀によると、紀元前660年元旦に諸国を平らげた神武天皇が即位したと記述されているのだそうだ。そこで、旧暦の正月1日は、現在の暦に直すと211日になるので、建国記念日としたのだぞ」と語り出した。わが輩は、紀元前660年といえば、いまから2672年も前ということになる。ほんまの話だろうか、とまゆにつばして、いや鼻に舌して聞いた。男あるじも、一応、学者なのでそのへんは理解したもののようだ。そして、
「紀元前660年といえば、縄文時代の晩期ということになる。有名な魏志倭人伝に、邪馬台国女王(卑弥呼)が魏に朝貢し、倭国王であることを意味する親魏倭王の金印を授けられたという記述があるが、これは3世紀前半のことになる。ヤマト朝廷が成立したのは、史実に照らせば5世紀中頃の雄略天皇の頃ではないかといわれているな。この人はワカタケル大王と呼ばれていて、出土した鉄剣にその銘が刻まれていたそうだ」と話した。
 こんな歴史ある国にわが輩は生きてきたのかと、わが輩は感嘆した。しかし、外国の建国記念日はどうなっているのかしらん。それとなく眼で尋ねると、男あるじは2階の書斎にもどり、調べ始めたようだ。そして、
「もっともよく知られているのはアメリカの独立記念日だな。オリバー・ストーン監督、トム・クルーズ主演、ベトナム帰還兵の悲惨さをテーマにした『74日に生まれて』という映画の題名にもなったも、1776年の74日で、大陸独立宣言を記念して制定された。古代ローマ帝国の歴史があるイタリアの独立記念日は、なんと、古代ローマの建国日ではなく、194662日の王制から共和制へと移行した日である。五千年の歴史をもつという中国は、1949年に毛沢東が天安門で建国宣言をした101日である。興味あるのは、お隣の韓国で、紀元前2333年、檀君が古朝鮮王国(檀君朝鮮)を建国したとされる103日だという。日本よりも1700年も前のことで、もちろん建国神話の記述によるようだが、それにしても古い故実にもとづいているものだ。世界で一番古い建国記念日だろう」と解説した。 どうやら、ほとんどの国での建国記念日というのは、現国家体制が成立した日を記念して制定されているらしい。とすると、韓国と日本のみが古代の言い伝えによって建国記念日を制定していることになる。もし、世界の流れにそって建国記念日を制定するならば、明治維新の王政復古宣言が出され、明治新政府が樹立した13日(1868年)ということになるのだろうな。なんにしても、日本は五世紀中頃から連綿と続く天皇制という国体を特徴としていることは間違いないので、この歴史的な事実は認めざるを得ない。1700年も続く万世一系の血統とは重たいものだろうなとつくづくわが身の軽さを感じながら、歴史に思いをはせた。

「古代へと情熱わかす紀元節」 敬鬼


徒然随想

-建国記念日-