3.1. 児童の3次元形状の構造的表象と描画能力の発達

 児童の描画の発達をしらべた研究によると、自分が知っているものを描画する段階から自分が観察しているものを特定の視点から描画する段階への移行が起きること、その移行時期は4歳から7歳であることが明らかにされている。この結果は、「対象中心的記述 対 観察者中心記述」(Williats, 1985)、「内容依存記述 対 構造依存記述」(Chen, 1985)といった枠組みで説明されてきた。これらの説明に共通することは、外界についての児童の表象(知識)が描画に影響を与えると考える点である。たとえば、オクルージョンのある対象の描画では、5歳から7歳児は蔽−被蔽関係を垂直あるいは水平方向に別々に配置して描く。これは、この発達期の児童が自分の見ている視点から対象を忠実に模写するのではなく、心的に構成された対象の配列についての表象に基づいているからであるとされた(Light & MacIntosh 1980)。さらに、児童にコーヒーカップを描画位置から柄が見えない配置に置いて描画させても、児童は柄を描くことも見いだされた(Freemann & Janikoun 1972)。これは、児童がカップについて心的にもつ対象の構造的表象にもとづいて描くためと説明される。
 そこで、児童の示すこの種の描画の間違いが、児童の心的な構造的表象に基づくか否かが4歳から6歳児を対象にして、Picard & Durand(16)によって調べられた。実験では、柄が見えない角度で撮影したフライパンの写真と柄が正面に見える角度でのフライパン写真とを、肌理勾配を持つ背景下に配置した条件、肌理勾配のない背景の配置した条件、および線画条件でそれぞれ提示し、それらを観察させながら児童に描画させた(図18)。統制条件では、実物のフライパンを提示しないで、その記憶に基づいて自由に描画させた。
 4歳児から6歳児の児童では、フライパンの柄についての間違いが生起したので、手本を見ながら描画した柄の方向についての間違いか、あるいは自由に描画した条件での間違いかが判定された。その結果、描画での間違いは、前者が1/3、後者2/3程度になることが示された。このことは、児童が自分の構造的表象にもとづいて描画の間違いをしているというよりは、対象を見る上での最適な視点に関して間違いを冒していることを示唆した
 このことから、描画の発達は児童の構造的表象にもとづいて描画する段階から、提示された対象を見る視点に忠実に描画できる段階へと移行するとの説は再考を求められている。児童は、描画に際しては描画対象とその構造的表象との両方の影響を受けながら描画するが、このとき、その構造的表象は柔軟に変容すると考えられる。

 

 3.絵画的要因による3次元視